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29 原敬内閣の成立

本時の問い「原敬内閣は大衆が求める政治をおこなったのか。」

第29回目の授業は、1918年におきた米騒動から平民宰相と呼ばれた原敬内閣の成立、そして1921年に原が暗殺されるまでを扱います。本時の問いは「原敬内閣は大衆が求める政治をおこなったのか。」でしたね。

吉野作造の民本主義

1916年、東京帝国大学教授吉野作造は雑誌『中央公論』に論文を寄稿します。そこで主張されたのが民本主義です。彼は、

民衆の意志にもとづき、民衆の利益と幸福をめざした政治を進める必要があると主張した。

と教科書では説明しています。民衆の意志にもとづいた政治を実現するには、選挙によって選ばれた議員によって構成される議会が政治の中心であるべきです。さらに民衆の利益と幸福をめざした政治を進めるためには、なるべく多くの民衆の考えを反映するべきです。したがって民本主義の具体的な目標は、政党内閣と普通選挙の実現だったといえます。

ところで吉野はデモクラシーを民本主義と訳しています。なぜ民主主義と訳さなかったのでしょう?このことについて、史料から考えてもらいました。

「国家の主権は人民にあり」といふ危険なる学説と混同され易い。

と彼は述べています。当時の日本は天皇制ですから、主権が国民にあるとすると、国体を否定することになります。ですから吉野は主権の所在に関しては論じず、大日本帝国憲法の制度のもとで民衆の利福をめざした政治を進めるべきとしたのです。

米騒動

1918年、富山の漁村の主婦たちがおこした米価値上がり阻止の運動が、新聞報道をきっかけに全国に広がりました。これを米騒動と言います。当時の内閣は寺内正毅内閣です。寺内内閣は輸入米を安売りし、軍隊の出動によって騒動を鎮めますが、世論の激しい非難の中で退陣します。

なぜ米騒動が起きたのか、その背景には何があったのでしょう。

まず、米価の値上がりについては、大戦景気による物価上昇があげられます。大戦景気では日本の産業構造が農業中心から工業中心へと移行したことを学びました。それにより工場で働く男性労働者が増加します。それは農村から都市への人口移動であり、食糧を購入する消費者が増加したために米が値上がりしたとも説明できます。

次にシベリア出兵です。日本は欧米諸国と共同でロシア革命に干渉するため、シベリアへ出兵することを決めました。商人の中には米の投機的取引きでひと儲けしようと米の買い占めや売りおしみをするものがいました。

政府は緊急対策として台湾・朝鮮から日本へ米を移出しました。そのため、米騒動は朝鮮半島にも広がりました。

米騒動は生活を守ろうとする民衆がおこした自然発生的な騒動です。この騒動が全国へ拡大し、それが報道されることで、国内で格差が広がっていることが可視化されました。このことを社会問題としてとらえ、その改善を求める動きがこの後おこりますが、その話は別の授業で扱います。

米騒動という民衆運動を目の当たりにした元老山県有朋は、ついに政党内閣を認めました。

原敬内閣の成立

米騒動により寺内内閣が退陣し、次の首相に選ばれたのは立憲政友会総裁原敬でした。原は衆議院に議席をもつ人物で、爵位をもたない平民でもありました。そのため国民は原を「平民宰相」と呼び歓迎します。また、陸海相、外相以外の閣僚を政友会員から出している本格的な政党内閣でもありました。国民の期待を受けて原敬政友会内閣はどのような政策をおこなったのでしょう。

外交政策では国際協調の路線をとり、パリ講和会議やワシントン会議に参加しています。

国内政策では立憲政友会がとってきた積極政策を進めます。特徴的なのは高等教育機関の拡充につとめたことがあげられます。しかしこの積極政策は、1920年の戦後恐慌の影響を受けて後に行き詰まります。

普通選挙を求める世論への対応

当時、世論は普通選挙の実現を求めていました。原敬は普通選挙については時期尚早であると考えていました。そのため選挙制度の改革については、納税資格を3円以上に引下げ、小選挙区制を導入するにとどまりました。これに対し国民のあいだでは普通選挙を求める声がさらに強まります。

しかし、1920年の新しい選挙制度のもとで政友会が圧勝したことから、政友会の政策が支持されているとします。ただ、普通選挙の実現を求めているのは選挙権の無い人々であり、選挙権のある人たちの選挙の結果で普通選挙は必要ないとされるのは説明がつきません。普通選挙を実現しなかったことは、原敬の「平民宰相」としてのイメージをそこなうことになりました。また、衆議院で絶対多数の議席をもつ数の力で押し切ろうとする政治運営は、反対派から批判されます。こうした中で、1921年11月、東京駅で原敬が暗殺されるという突然の出来事により、原敬内閣は終わります。

なぜ原敬が暗殺されたのかわかりましたか?

今日はここまでとします。

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