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ドアノブと冬

ドアノブが怖かった時があった。
引き戸はまだ開けることができるが、それ以外の扉は開けるのが難しかった時期がある。大学三年生の秋学期、玄関のドアを開けることが難しかった。ドアの故障ではなく、私がドアを開けることが怖くて逃げていた。 
誰かにあけてもらったり、誰かに頼まれてあけるのは怖くなかった。少しひやりとなるけれど、ちゃんと開けることができた。
1人のときはまるっきりだめだった。開けるのに30分以上かかり、玄関前でウロウロしたり、開けることができそうになるまで、ソファに座っていた。どうしても開けられない時は、家に私以外の誰かがいる状態になってから外に出かけた。
外に出れば、私の行くところはだいたい自動ドアや引き戸が多いので簡単に移動できる。
「なんだ、私扉あけれるやん」と思って家に帰って寝ると、また扉が開けるのが難しくなる。視界に入るドアノブがなんだか敵に見えていたこともあった。
どうやってドア開けれるようになりましたか、なんて変な質問すぎて友達にも親にも言えなかった。ドアが怖いなんてどうすりゃいいんだと頭を抱えていたが、大学4年生の頃には知らない間に、扉が怖くなくなった。前みたいに扉を開けることができていた。
何がきっかけでドアが開けれるようになったんだろうと思い出そうとしても思い出せない。忘れられない出来事であり、今、また同じような状態になっているかもと思う。
ひやり、とドアノブの冷たさを指で感じるとドアノブから手を離したくなる。冷たさ以外の何かが覆い被さってきて扉の前から逃げたくなる。前の時には言語化できなかったことが、言葉にできているのはいい傾向なんかなとも思う。
また明日、ドアが怖くなってるんだろうか。嫌だな、仲良くしたいな。手袋をしてもカイロを持ったまま触っても扉は重たく冷たいことは分かってる。
できるならスムーズに扉を開けたい。開けるために、何をすればいいんだろうと最近考えている。ドアを開ける、何を持って私は扉を開けて行くのか。考える機会かもしれない。

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