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【不妊治療】第4章【顕微授精に至るまで<2>】レースの折り返し地点に立つ

レースの折り返し地点に立つ


平成8年12月19日

仕事を辞めよう・・・と考え始めている。
もちろん、顕微授精が成功する事が前提だけど。それでも、長くても来春には、辞めようと思う。

仕事を愛しているし、とてもやりがいがある・・・自分にしか出来ない仕事もある、自分で企画して進めてきた仕事もある。
会社からの評価も十分にして貰ってきた。

でも、この御時世・・・会社の体制も大きく変わる。
仕事を続けたい・・・けれどそれは今のままの部署で同じ仕事が続けられるなら・・・という事だ。
でも、上司や仕事の体制も変更になる・・・そんな中で、仕事を休みながら治療を続けて行く事は、会社にも大きな迷惑をかけるだろう。
仕事も続け、治療も続ける・・・両立は難しいだろう。


平成8年12月28日

年内最後の通院日だった。やはり左の卵巣とその内膜症の事がM院長は気になっているようで、内診を受けた。
・・・内診の結果、右の卵巣からしか、採卵できないとの事。
左の卵巣に卵子が出来ても、とれない・・・数もチャンスも減る

来月の生理開始日から顕微授精に向けての治療がスタートすることになった。
まず、生理がはっきりと始まったら、スプレキュアを1日3回行い、生理を止める。
そして生理が来た日から3日目に通院し、排卵誘発剤(HMG)を肩に注射(筋肉注射)する。
その注射を4日続けてうち、その後の経過を診察しながら約11日目に採卵・採精、そして『顕微授精』となる。
採卵した日は、クリニックで2時間安静にして帰宅。翌日、受精卵が確認できたら2日後に移植(子宮に受精卵を戻す)
延べ、2週間ぐらい集中して治療にかかるそうだ。

費用は、諸経費を含めなければ、60~70万円くらいかかる
採卵した数や、卵子・精子の凍結保存など、その他諸々合わせると、やはり100万円近いだろうか
驚いたことに、スプレキュアだけで2万円もかかる。
いきなり保険が利かないので、会計へ行ってびっくりした。

費用は、都度支払うので採卵時に約30万円(採卵数が5個まで、プラス1個採卵につきプラス1万円かかる。)ぐらい見ておかなくてはならないそうだ。
そして、移植時に15万円くらいかかる。凍結保存に6万円ぐらいかかるそうだ。排卵誘発剤の注射(1回5千円ぐらい~種類や、処方する量によっても違う)や、診察代、その都度の費用や交通費・・・いろいろ合わせると60万円じゃ当然足りそうも無い。

それでも、ようやく見えてきた治療が進んできたことに感激している。
『やっと・・・』と言う感じである。一度にいろいろ説明を受けたので、ややこしくって、いっぺんには頭に入らなかった。
とにかく、来月の生理が来るまで待って、生理が来たらMクリニックへ『顕微授精の予約です。』と電話をして・・・2日後(生理から3日目)に通院・・・そこからがスタートだ。

平成9年1月6日

明日から、仕事だ・・・。平成9年度の仕事始めだ。
今度の3月で、まる9年勤めることになる。そして、その3月末で、会社を退職しようと考えている
仕事・・・やりのこす形になるものもある。
誰かに迷惑をかける事になるものもある。
得意先にも、ご迷惑をおかけするだろう。
色々な方にもお世話になったし・・・楽しい事、嬉しい事、それ以上につらい事しんどい事がいっぱいあった。
ようやく、自分のポストや明確な仕事が確立したけど、その全てを辞めようと思う。

今度の、初めての顕微授精が、もし成功しなければ、少し先延ばしになるかも・・・治療費を稼ぎ出さなくちゃならないからなぁ。

一般には≪顕微授精(卵子と、精子を合わせて受精する確率)の成功率30%、そしてその後、子宮に受精卵を戻して着床率が20~30%≫という、中でのチャレンジだから、決して高い成功率では無い
でも、やってみようと決心したのだ。
おそらく後1週間ぐらいで、今月の生理が来る。

年始の間、風邪をひいてしまい少し風邪薬を飲んだ
影響は無いのだろうか・・・心配もしながら、風邪をひいたまま、長引かせておくわけにも行かず、やむを得ず薬を飲んだ。
こんな事でも、気になってしまう。
体調に気をつけておかなければ・・・治療が始まったら、薬を飲むことは良くないのだろうから。

暮れから正月にかけて、主人の郷に行っていた・・・主人の下の妹さんに2人目の子供が出来たと義母から聞いた。
少しショックだった。
もちろん人は人・・・私は私のスタンスで良いのだけれど、やはり、一歩も、二歩も出遅れたという懸念は振り払えなかった。

とにかく、体調を万全にしておかなくては・・・やっとやっといろんな決心をしてここまで来たのだから。
主人は、時々なんとなくやる気が無い態度だったり、少し不安にさせる態度だったりする・・・。
コタツでうたた寝・・・風邪でもひかれたら困るのに・・・。
今も、うたた寝中。本当にやる気があるの?

平成9年1月7日

主人には、私の不安が伝わらない。
私は、昨夜もあまり眠れなかった。風の音が大きかったせいかもしれない。眠りが浅く1時間おきに目が覚め、その度に不安になる。

もうすぐ本番だ・・・自分でもすごく緊張しているのが分かる
すごく神経質になっている。
Mクリニックで一度に説明された事を思い返す・・・聞き間違いは無かったか?!いっぱい説明された事が途切れ途切れになっている。
『成功させなきゃ』と言うプレッシャーと不安。そして期待。

先日購入した不妊専門の本には、今までに買った本より顕微授精に関する情報が多く書かれていたので、かなり助かった。
少ない知識を少し補った。排卵誘発剤の危険性や、治療の経過、使用する器具や、その治療の期間など、わりと参考に出来た。

あぁ、本当にもうすぐなんだ。
私達はようやく本当のスタート地点に立とうとしているのかもしれない。

でも、振り返れば今まで2年以上かけて走ってきた道がある。
この道が無ければ、今この時点も無いのか・・・
そう思えば、今は折り返し地点なのだろう。
だとしたら、後どれくらい走るのだろう。

この期待だけは、かなえたい・・・。
2度のAIHの失敗。屈辱的とも思える治療や検査。数知れない通院とその為の欠勤・・・など、諸々の負担。
やっとたどり着いた最後の方法
周囲からの何気ない言葉に、潰されそうになったときもあった
何度やめてしまおうと思ったか知れない。

でも、やっぱり、子供が欲しいのだ
だから、今は、やれるだけの事を・・・。


次回・・・第5章 顕微授精のスタート<1>
朝は、まだ来ない・・・
をお届けします。


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