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Tu・Na・Ga・Ri つながり~君は一人ではない~

映画は〝人間〟を描かなければならない。映画は社会を〝批評〟をしなければならない。……そんなもん本当に面白いのか? 映画は他人を見下す道具ではない。note空想映画劇場 ゴールデン・フェイク ただいま開場いたします。

今回もなかなか……

〇問題作である。

 本作は赤城ミヨ原作の「つ・な・が・り」を基にした作品のリバイバル上映である。

 新進気鋭の売れっ子女優が書いた処女作で、第二回もみのき新人文学賞の大賞受賞作でもある。

〇ゴースト疑惑?

 このニュースの一報、彼女を知る誰もがこう思った。お前が本当に書いたのか、と。

 自ら読書家ではなく、文章も今まで書いたことがない、と公言してきた彼女に、疑惑の目が向けられる。
 
 しかも彼女は賞金1千万円の受取りを辞退。理由として 執筆の目的は、「表現者として赤城ミヨの可能性」を追求するためで、決して金ではないのだと主張。

 そんなよく分からない理由に、世間は納得するはずもなく、まことしやかに、ある噂が流れ始める。

〇自分で書きました。

 出版社と手を結び、本の売り上げと知名度を上げる。そのためにゴーストライターを雇い、茶番を演出したのだ。

 これが世間の、最初の反応であった。だがしかし、その疑問はあっさり解決することになる。

 手に取った本を一読し、世間はすくなくとも代筆疑惑を否定せざるを得なくなった。

 下手くそなのだ。誤字脱字、稚拙で文法上誤りも多く、校正もろくにしていない。

 ゴーストライターならその辺、もっと上手くやるはずだ。「文章を書いたこと」がない人間に無理やり書かせた作品であることが、すぐに分かる。少なくとも、本当に本人が書いた作品であることは間違いないだろう。

〇そして何よりおもんない。

 彼女のゴースト疑惑は晴れた?が、もう一つ重大な問題がある。この作品、面白くないのだ。

 オレオレ詐欺の受け子が老婆を騙そうと電話をするが、逆に老婆に説得され改心する。そして人生の意味を改めて考える。

 いわゆる「人はいつでもやり直せる」「さあ、泣いてください」本である。あたりさわりのない、薄っぺらい内容に事務所側から持ち掛けた八百長疑惑はまだ払拭できていない。

〇そして新たなるトラブルが……

 内容はともあれ、人気女優の処女作とあって重版出来の売上を誇る。一時期は転売屋の手に取って3倍以上の値がついたこともあった(3か月後には暴落することになったが)。

 売り上げに準じて(かねてからの計画通り?)、映画化の話が進み今日の公開に至るわけだが、ここでまたトラブルが。

〇原作の大幅改変である

 監督・脚本を担当した井川啓二は、原作に不満があるのか内容を大幅に変更したプロットを練り上げた。

 主人公を老婆にし、アクションあり、笑いありの大衆作に仕上げたのだ。しかも原作者や事務所に無断で。

 原作者側がその事実を知ったのは、試写会の席のことで、当然怒り、抗議の声を上げた。
 
 だが、取り直しのリスクを避け、タイトルを「つ・な・が・り」から「Tu・Na・Ga・Ri」に変え、赤城ミヨは原案者とすることで何とか公開に持っていった。資金がすでに尽きていたのだ。10億円近い製作費がすでに費やされている。後戻りは出来ない。少しでも回収しなければならない。との思惑が勝ったのだろう。

原作本の表紙。このデザインがこの映画の行末を暗示している?

〇しかし、やっぱりおもんない

 原作がつまらないから、映画版は何とかしようと思ったのだろう。クリエーター魂。映画は映画監督のもの。おれが何とかしなければ……

 残念ながらアクションは迫力がなく、しょぼい。特に終盤の銃撃戦は、実に安い。銃声には違和感しかなく、しかも画とあっていない。微妙にズレている。

 極力スタントは使わず、本人に演技をさせるのが監督の方針だそうだが、主演となったおばあちゃんの役者は齢78で、所作も年相応だ。もっさりスローモーな動きに、周囲は明らかに合せ、気をつかっているのがスクリーン越しからも分かってしまう。

 合間に、ギャグが挟み込まれているのだが、正直すべって、コメディの要素をも満たしていない。

 なんでも脚本は白紙に等しく、現場で完成したそうで、明らかに、練りこみ不足だ。原作と同様、控え目にいっても、相当ヒドイ。

〇ある意味、伝説。

 井川監督は現場のライブ感を大切にしたかったと、後のインタビューに答えているが、それは言い訳に過ぎないだろう。単なる実力不足である。

 この作品が関係者にもたらしたものは、不幸である。興行成績も惨敗。製作費がそのまま赤字となったとの話だ。原作者の赤城ミヨは芸能界を引退し、その後の執筆活動も音沙汰がない。彼女の所属事務所も会社更生法の申請をしたとの情報が入り、もみのき新人文学賞もその後開催を見合わせることとなった。
 
 配信の予定もなく、この映画を見ることができるのは、今回が最後かもしれない。好事家たちよ、お見逃しなく

〇最後に……

 このコンテンツはフィクションであり、実在の人物・組織とは一切関係がありません。数字なども同様です。すべてはフェイク。




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