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置かれた場所で咲く花は

 それは何も価値などないのかもしれない。しかし、それは確かに存在する。
 note空想映画劇場 ゴールデン・フェイク ただいま開場いたします。

人生に意味がないのが問題なのか、価値がないのが問題なのか

〇別に失望などしていない。

 世界は変わっていたのか。

 アンドロイド、AI、空中を漂う3Dデバイス……。魔法のようなハイテク技術が、日常にあふれ出している。しかも人々はそれを自然に受け入れ、使いこなしている。

 慣れるしかないな。アンドロイドの店員にセルフレジのレクチャーを受けながら日下部啓一はそう思った。自分は古い人間だ。初老の域を超えつつある。だからといって、生きる事をやめるわけにはいかない。

 日下部は組織の人間だ。しかも裏の。組織の汚れ仕事を一手に引き受けてきた。もう30年以上にもなる。選んだわけでも、流されてきたわけでもない。ただ、それがそこにあったからだ。

〇運命はコントロールできない。神でさえも

 それはいつもの仕事とは少し違っていた。

 ある人物の始末。対象の情報が最小限で、ただ処分しろとの命令だけ。こんな事は初めてだった。いつもなら対象の背景、組織内での立ち位置、そして理由が事細かに説明されるのに……。疑問に思いながら日下部は仕事をこなす。そして間髪入れずの仕事の依頼……。

 組織もまた変わったのだ。

 組織の代替わりによって、組織の方針も変わった。そしてそのための再編成……。

 組織にとって、日下部はもう必要ないと判断したのだ。彼の役割は他のもので代用できる、と。

 日下部は処分の対象となったのだ。組織の裏表を知る彼。その情報が外部に漏れたら。〝守秘義務〟の仁義は持っているだろうが、〝情報漏洩〟の危険性はある。生きている限り。

  組織は、日下部の最後の利用方法を思いついた


〇知るか。てめえで処理しろ。

 賭け試合。同じ事情を抱えた他の組織と手を組んで、賭け試合を開催した。
 その対象は日下部と同じ古参か、組織にとって足手でまといになる者、カタギにオラつくしか能のないチンピラどもの処分。これからの組織運営の邪魔になる者どうしで殺し合いをさせるのだ。組織のクリーンアップと資金調達。これは長年組織に尽くし、貢献してきた男に対する礼儀ではない。

 しかし、それでも日下部は忠実に命を実行する。淡々とマシンのように。始末されるチンピラがこう泣き叫ぶ。

「俺たちはどうすれば良かったんだよ。俺たちみたいなクズには、こんな所しか居場所がなかったのに。一体、俺たちはどこに行けば良かったんだよ」

〇ただできることをやるだけだ。

  一通りの清掃が終わり、とうとう日下部の番が来た。
 パティ〝スマイル〟マーリン。幼少期に巻き込まれた墜落事故によって、東欧の武装集団に保護された女。少年兵として訓練を受け、幾多の戦場を駆け抜けた元傭兵。過酷な環境の影響で、身体の80パーセントを機械化、大脳皮質の異常により、全ての感情表現を〝笑み〟でしか表現できなくなったヒットマン。

 彼女との戦いで、日下部は組織の真意を知る。そして、彼は生まれて初めて組織に抗う事に決めた。自分の組織が相手側に掛け金を積んでいた、しかもそれが少額だったからだ。

〇私は消耗品だ。だから量産できる。

 日下部との戦闘を繰り返しているうちに、彼女もまた自身が〝断捨離〟の対象だった事に気付く。機械化した彼女のデータを収取して完成されたアンドロイドに襲われたからだ。いわば、彼女の簡易量産型……。組織は、いや裏社会全体がいわゆる機械化・合理化の道へと進んでいたのだ。彼女は日下部と組む事に決めた。

〇まあ、こんなもんだろう。

 パティと八百長戦闘を繰り返しながら、日下部は組織の上層部に迫る。そして事を成し遂げるが、彼らもまた疑似人格を植え付けられたアンドロイドに過ぎなかった。消耗品が消耗品に雇われ、〝欠陥品〟がそれを裏切る構図。では、この絵を描いたのは誰だ? 日下部を処分しようとした幹部が、死に際に呟く。これからは、〝バカ〟では消耗品にすらなれないんだ。〝表〟だろうが〝裏〟だろうが……。

 大量のパティの量産型に囲まれた二人。真実を知るために彼らが取る選択を――置かれた場所で根を張り、そこで咲くしかなかった花の色――あまり責めないでほしい。

 
 

 In Memory of アレサ・シーン(asパティ)

 キヅナ。つなげようココロと心。
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