マガジンのカバー画像

子どもの小説

43
「子ども」が主人公だったり、印象的だったりする話。
運営しているクリエイター

2023年3月の記事一覧

【短編】 妹と緑色の生物

 そいつはリスに似ており、緑色で、何かに反応して光ったりする生物だ。  小学生の妹が手を差し出すと、そいつは首を傾げたり光ったりしたあと、キューンと鳴き声を出した。 「きっと、ひとりで寂しかったんだね」  妹はそう言いながら、緑色のそいつを手のひらに乗せて指で愛撫する。  しかし、そいつはたぶん地球外生物で、見つけた場合はすぐに衛生当局へ通報しなければ、重い罪に問われる。  数十年前から地球人が宇宙に進出したり、宇宙人と交流を始めたせいで、宇宙船に入り込んだ外来生物が地球にや

【短編】 木星トロヤ群 第五ラグランジュ小学校へようこそ

 小惑星に着陸すると、そこには小学校があった。 『木星トロヤ群 第五ラグランジュ小学校へようこそ』という大きな看板。  校舎の一階を全て確認したが、人の気配がない。  じゃあ二階はどうだろうと階段を上ったら、廊下が壁で行き止まりになっていて『ここで宇宙服を脱いで下さい』と書かれたドアがあった。  ドアを開けると真っ白な狭い部屋があり、中に入ると「ドアを閉めて下さい、ドアを閉めて下さい」というアナウンスがしつこく流れるのでドアを閉めた。 「現在、空気充填中、空気充填中。絶対にド

【短編】 狸のランタン

 小学校に通い始めた頃、私は帰り道で狸に話し掛けられた記憶があります。 「おい子ども、わたしのランタンを知らないか?」 「ランタンてなに?」 「ほらその、火を灯して夜の闇を照らすものだ」 「しらない」 「はあそうか、でもランタンがないと大変困るのだ」  狸と出会った場所は、都会の住宅地でした。 「今夜、妹の結婚式があるのだが、私はランタンの明かりで妹を綺麗に照らしたいのだ」 「じゃあ、昼間にやれば?」  子どもの頃の私は、案外冷静に狸と会話をしていたように思います。 「狐の嫁