「私に汚い数字を言って」(短編小説)
小学生の息子が算数のテストで、図形問題の出来が悪かったので、両親は図形の問題集を買ってやらせているのである。
子「この問題がわかんないよ」
父「どれどれ。『右の図の四角形ABCDは1辺8cmの正方形で、辺AB上にEを、辺BC上にGを、辺DA上にFを、AE=BG=2cm、FD=3cmとなるように取ります。四角形AEHFと三角形GCHの面積の差を求めなさい』か。変な問題だな」
子「どうして?」
父「比を求めなさいならよくあるが、差を求めるのか。まあいいや、がんばれ」
子「わかんないよ」
父「ええと、DAとCEとが正方形の外で交わる点をIとしようか。文字はAからHまで使っているからな。それで、直角三角形IAEとIDCは相似だ。で、大きさの比は1対4になっている。AEが2cmで、CDは8cmだからな。まずIAの長さを求めようか」
子「どうするの」
父「AEの長さをXと置いて」
母「小学生は方程式なんか習っていないんじゃないの?」
父「いいんだよ、こっそり使えば。Xと置くとだな、IAの長さと、IDの長さは、1対4になるはずだ。ここまでわかるな?」
子「うん」
父「だから、X+8は、Xの4倍だ。これを解くと、あれれ、X=3分の8か。分数になってしまうな」
母「大丈夫?」
父「大丈夫、計算は間違っていないはずだ。それで、三角形GCHと、三角形FIHの面積を求めよう。どちらも底辺は、既に出ている。GCは6cmで、FIは3分の23だ。それで、この二つの三角形も相似形だから、高さの比も、6対3分の23、つまり18対23だな」
子「それで?」
父「だから、高さはそれぞれ、(41分の18)×8と、(41分の23)×8となる」
母「なんだか汚い数字になってきたわね」
父「これで合っているはずだから。東工大なんか、答えがわざと汚い数字になるような問題を出して受験生を不安にしてるんだから。これを根性で解くんだよ。さ、解いてみて」
子「えー」
父「算数はな、半分は、いや、半分以上は根性だ」
子「根性で算数が解けたら苦労しないよ」
父「三角形GCHの面積は、底辺の6に、高さの(41分の18)×8をかけて、2分の1にすればいい。三角形FIHの面積は、底辺の(3分の23)に、高さの(41分の23)×8をかけて、2分の1にすればいい」
子「なんだか大変だな。分母が123になっちゃう」
父「ほら、がんばれ」
10分後
子「だめだ、すごく汚い数字になる」
父「いいんだよそれで」
母「間違ってるんじゃないの?」
父「しょうがない答えを見てみるか。あれ、4㎠だって。おかしいな。こんなきれいな数字になるなんて。ああ、台形ABGFの面積から、三角形CEBの面積を引けばいいのか。それなら簡単だ」
母「やっぱり」
父「私に汚い数字を言って」
子「パパ、なにそれ」
父「なんでもないよ」
注)ここに挙げた図形の問題は、『隂山英男の完全習熟シリーズ 図形プリント』(学研)によるものです。「私に汚い数字を言って」は、有名なポルノ映画「私に汚い言葉を言って」(1980年)のパロディです。
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