BLACKJISAYKUMONOE

【設定】
世界は磁気の波に満たされ、頻繁に磁気嵐が起こる。人間は地上で暮らすことが困難となり、地下へと避難して暮らしている。

⚫MAGNET WAVE:表向き普通の研究所だが、秘密裏に電磁波で人間の脳に影響を与えられないか、支配できないか研究していた。研究過程で磁気が暴走し、世界は荒廃してしまう。
⚫磁富モノエ:MWの実験により強い磁気を放つ体質を持つ。???(青モノエ)のオリジナル。記憶の一部が欠落している。
⚫栗山やんみ:元MWの研究員。優秀な技術者で、AIの開発や電磁波が人間に与える影響について研究していた。アシスタントアンドロイド日ノ森あんずを作る。後に磁富モノエをベースに???(青モノエ)を作るが、MWに悪用されていることを知り、それを阻止しようとしたため研究所を去ることになる。
⚫日ノ森あんず:栗山やんみに作られたアンドロイド。自己学習型AIを搭載していて、人間とほぼ遜色がない。栗山やんみの研究データを保有している。
⚫???(青モノエ):磁富モノエをベースに作られたアンドロイド。栗山やんみによって作られたが、MWにより磁気の力で人間の脳に影響を与える実験の過程で作り替えられる。
⚫KD-DiZ4:磁気嵐警報機、通称ディズム。栗山やんみがベースを作り、MWが改変している。巨大なAIにより自我を持ち、磁気の力で砂鉄などで作られた眷属を外へ放つことができる。
⚫○○○牛:ぬいぐるみのような見た目の牛。KD-DiZ4の内部に干渉することができる。

https://www.youtube.com/watch?v=wSV7x3AsweY

磁気の波で世界を満たす
私の存在理由とは?

記憶の断片
私は……

辺りは強い磁気で満たされていた。砂鉄が波を作り、時折強風が吹き抜ける。
私が知っている世界はこんな風ではなかったはず。
磁気の力は人のため、みんなの笑顔のためだと思っていた。
やんみ博士もあんずちゃんもどこかへ行ってしまった。
磁気の力があれば病気で苦しむ人を治すことができると教えられた。電磁波の力で戦争だってなくせるとも言っていた。
磁気の波で世界を満たせば、みんな笑顔で幸せに、平和に暮らせると思っていた。
自分がその第一人者になるんだと思っていた。
やんみ博士も周りのスタッフもそれが正しいことだと言っていた。
自分は磁気の力を持っている。これを使えば多くの人が幸せになれるんだと信じていた。
でも今この状況は一体?
辺りは磁気の嵐が吹き荒れ、研究所もなくなってしまった。
それどころか人間はどこにもいない。
私が眠っている間に一体なにが起こったの?
遠くで磁気嵐警報が静かに赤灯を灯している。
あそこに行けばなにかわかるの?
途中で、砂鉄や鉄柱によって形作られた黒ずくめの人形とすれ違う。
彼らは私をちらりと見ると、まるで意に介さないかのようにどこかへ行ってしまった。
あれはたしか磁気嵐警報器、ディズムと同じ形をしているような?
そんなことを考えている間に、彼らの姿は忽然と消えてしまった。
ふと見ると、さきほどまではそこになかったはずのぬいぐるみのようなものが足下に転がっている。
牛?
丸々としたそれは『牛』と書かれた帽子を被っており、見た目もホルスタイン柄。虚無を見つめるような瞳と半開きの口。
どこか間抜けに見えるそれを、思わず手に取ってみる。
すると、その牛と視線がかち合う。
「君は磁富モノエくんだね。」
ぬいぐるみと思ったそれは突然しゃべりだした。
驚いて手から落としてしまうと、牛は思った以上の弾力性を持って地面に着地した。
「ずいぶん乱暴な。今はこんなに小さいんだから気をつけて扱ってほしいな。」
思ったよりも横柄な牛だ。
少しむっとしたが、落としたことは素直に謝っておく。
「まぁいいや。ところでモノエくん、ぼくをあそこに連れて行ってくれないか?ディズムさんのところに行かないといけないんだよ。
君もあそこに用事があるだろう。」
そんなことを言われても、なぜ私がディズムに用事があるのかわからない。
あそこには行ったことはない。
ずいぶん前にやんみ博士があれのAIを作っていたのを少し覗いたぐらい。
ずいぶん前?前っていつだろう……?
頭の中をノイズが走る。
何か大事なことを忘れているような気がする。
一体何を?私はあそこに行かなければいけないの?
いろんな疑問が頭の中を駆け巡る。
「ここは磁気の波が不安定だから、この磁気嵐が去るまではせめて建物のあるところに行かないと。
ほら、あそこ。あそこに行こう。」
そういうと、牛はその見た目からは想像できない俊敏さで近くの半壊した建物へと向かっていく。
そういえば、この牛はなんと呼んだらいいんだろう。というか牛なのか?
そんな疑問を抱えつつ、丸い牛のあとに続く。
建物は何か強い衝撃を受けたように半壊していて、壁や天井など至る所に穴が開いていた。
隙間から差し込む明かりがなぜだか幻想的だと思った。
こんな荒廃した世界が、美しいと思ってしまった。
そんなはずはない。自分のものではないような考えに、慌てて頭を振る。
視線をずらしたときに、見覚えのあるマークが目に入る。
これは……?
磁気のマーク……MAGNET WAVE……
ここは、ここは私が居た場所。
また頭の中にノイズが走る。
たくさんの白衣の研修者。物々しい機械。少し不安げな表情のやんみ博士。側にはあんずちゃんもいる。
やんみ博士が何か言っている気がするけど聞こえない。
「……っと、ちょっとモノエくん聞いてる!」
はっとして意識が戻ってくる。
少し高い瓦礫の上に上った牛型のそれが呼びかけていた。
「何ぼーっとしてるの。こんなところでぼーっとしてたら危ないよ。
ところでここ、MAGNET WAVEだよね。すごい、聞いたことはあったけど入るのは初めてだ。モノエくんも来るべくして来たってところかな。
あ、名前?そういえば言ってなかったか。ぼくは○○○牛。え、わかんないって?○○○牛だよ。」
牛の前に何か言っているようだが、それがなんなのか聞き取れない。
この世界の言葉ではないような気がする。
「あー、もしかして○○○のところ聞こえてないのかな?じゃあまだら牛、まだら牛でいいよ。」
結局不思議な名前に変わりはなかった。
まだら牛はあたりをキョロキョロ見回すと、ぴょんと瓦礫から飛び降りると、半壊した建物の奥へと進んでいく。
「あっちに行ってみよう。磁気の残滓があるような感じがする。」
この牛も磁気を感じることができるのだろうか。
建物を奥へと進むと、瓦礫の中にかろうじて形を残したロッカーや机、機械などが散らばっていた。
胸の奥がざわつく感覚。
思わず足を止める。
これ以上進みたくない。体が何かを拒む。
「うーん、ここにはないかなぁ。あんまり奥まで行っても危ないし、戻ろうか。
もう少しで磁気嵐も過ぎるだろうから、そしたらディズムさんのところに行こう。」
頭の中のノイズが大きくなる。
青。磁気制御装置。鎖。もう一人の、私……?

『私(オマエ)が望んだ世界だろう』

そうか、これは……
私が望んだ磁気で満たされた世界。


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