BLACKJISAYKUMONOE ーAnother牛ー

https://www.youtube.com/watch?v=4Pbq8IDFmus&t=4878s

空は重く鈍色で、見たこともない世界に放り出された体はどこか不自由な感じがした。
「ここは…?……ボクは何だ?」
何かが欠けている感覚。こうして動かしている手足もどこかふわふわして、自分のものなのに自分のものではないような……。
何か大切な、とても大切なものをどこかに置いてきてしまったようなそんな気持ち。
体は知っているのに心は知らない。
それでも足は前へ。
行かなければいけないところを知っている気がする。
彼が待っている気がする。

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「あぁ、やっと来た。この体じゃ動きづらくて大変だったんだ」
そのぬいぐるみのような不思議な生き物は、ボクに向かってトコトコと近寄ってくる。
短い手足を器用に使いこなして、瓦礫の山を登って視線を合わせる。
「不思議そうな顔をしているけど、君はボクだからね。ずっと君が来るのを待ってたんだ。」
そう言われると、頭の奥の方がジンジンと痺れるような感覚がした。
足りなかった何かが体中でうずくような、感じたことのない焦燥感。
導かれるようにそのぬいぐるみのようなものに手を伸ばす。
『おかえり。』
それに触れたとき、微かな声が聞こえた。
意識は遠く真っ白な世界に飲み込まれ、懐かしい匂いに包まれた気がした。
ふっと目を開けると、体を駆け巡った焦燥感も、自分のものではないような不自由な感覚も、何もかもなくなっていた。
『あぁ、そうか。君はボクだったからね。先に行って待っててくれたんだ。
ただいま。』
手のひらを開くと、さっきまで目の前にいたぬいぐるみのようなもののキーホルダーが収まっている。
「君はボクだからね。一緒に止めよう、この世界の悲しみを」
ゆっくりと手のひらを握りしめる。
空は相変わらずの鈍色で、砂鉄を舞い上げた風がザラザラと肌を撫でた。


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