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パルデアの歴史③ 「石」である結晶体 その分類と「重力子」的存在の影

様々な側面を持つ結晶体

 今回は結晶体とその粒子の様々な側面のモチーフを挙げ、何故エリアゼロにそれが滞留するのか、ポケモンの特性を決める「タイプ」エネルギーとの関係性は何なのかを体系的にまとめてみたい。また、ポケモンに及ぶ「重力」のような力が見え隠れしないでもないような…。歴史の章までもう少し…な気がする。

石の物語である「ポケットモンスター」

 ポケットモンスターは第一世代カントー地方の物語の時から「石」をテーマの一つとする。

 当時の田尻智氏はゲーム設計を語る際にフランスの哲学者であるロジェ・カイヨワ氏の「遊びと人間」に言及していたが、カイヨワは同時に「石」についても考察を深めた人物であり、例えば彼は遠い宇宙のどこかの石の断面にすべての事象の似姿を見ることが出来てしまう人間の認知の性質を深く考えている。何かを別の何かに見立てることは「遊び」の始まりでもあり、身近なものに似たモンスターたちを集めて世界を受け入れていくこのシリーズは、こういったカイヨワの深い思考の影響を受けていると言って過言ではないだろう。つまり田尻智氏の作り上げたポケットモンスターのゲームという遊びの礎には「石」への哲学があると言える。

 そして特に欧州がモデルとなっているガラル・カロス・パルデアでは古代の巨石文化があったことが仄めかされ、様々な関わりが描かれている。スカーレット・バイオレットにおいては「石」の要素は随所に見受けられるが、ガラルに引き続き石とエネルギーの問題に向き合っている。人間は石器時代から現代に至るまで石の様々なエネルギーを引き出して生活し、報いを受ける時もあった。そして結晶体もまた、現代における科学技術の功罪とエネルギー問題の諸問題を映しているようである。

テラスタル結晶体の形態の分類

 この物語で最も謎の深い「石」である結晶体は様々な形態を取るが、意識しなければどれがどれなのかよくわからないので、まずは整理していく。ポケモンには「伸び縮みする」「光る」「変態して強うなる」の変化の軸がある点も意識したい。名称はいずれも分類用の仮称である。

1. テラレイド結晶体

 地表に現れるいわゆるテラレイド結晶体である。ガラルのダイマックス巣穴と同じくポケモンの巣穴に形成され、内部のポケモンがテラスタル化している。
 テラスタル化は、メガシンカ現象とは違いポケモン自体の能力を劇的に強化させるわけではない。あくまでもタイプを変える。そしてダイマックス現象と違いポケモンを大きくはさせないが、光らせる。結晶はテラスタルタイプの色をしているが、エネルギーが強力とされるものは真っ黒になる。ポケモンを倒すと消えてしまう。
 また、ゼロの大空洞の最奥の巨大な結晶体はこれの成れの果てである可能性がある。そう考えると、あの中にはまだ何かが存在していてもおかしくはない。

2. テラスタルシンボル結晶

 テラスタルポケモンの頭上に現れるタイプのシンボルの形をした結晶である。その結晶の形が人工物であったり人間の認知に最も訴える形の形状となるのは、メタ的なわかりやすさを超えて違和感があり、誰にとってのイメージが反映されているのかが重要になってくる。これはテラパゴスの甲羅の模様にも言える。
ポケモンが倒れると粉々になり、テラピースとなるらしい。ただし自分のテラスタルポケモンが倒れても手に入らない。

3. テラピース

 タイプごとに存在する。2のテラスタルポケモンの頭上の結晶が粉々になったものである。宝食堂における特殊な調理によって食用可能である。これをポケモンに食べさせることを誰が考えたのかを考えると、ポケモンの生理とタイプのエネルギーの関係性を熟知したものであろう。
 そしてその「人生を変える料理」は有無を言わさずポケモンのテラスタルタイプを変更できる。ステラタイプが「願望」であることが仄めかされているが、どういう作用なのだろうか。

4. ひでんスパイスの木

 少々情報に乏しいが「ひでんスパイス」である。ペパーと探し歩き、ヌシポケモンの巣穴に生えているのを発見できる。
 形状は光り輝く小さな枝木で、ヒカリゴケのようなものを伴う暗い洞窟や、テラレイドの空間で入手でき、またテラリウムドームに自生していたことをネリネが語ることから、テラスタルエネルギーのみで生育する植物の可能性がある。暗がりにあるため、日光を嫌う性質があるとも考えられるが、太陽信仰を有するパルデアにおいては逆の意味で象徴的と言える。

5. 結晶樹

 ゼロの大空洞の結晶化した木もしくは木のような結晶体である。大穴上層では木に結晶体が付着する場合はあるが、このような地下空洞に木が生えていたとは考えにくく、謎である。
 この樹を守るように佇んでいたのが岩塩ポケモンのキョジオーンであったことと、同じような環境で生育するように見える光る植物としてひでんスパイスであるので、これが成長したものと見る向きもあり、恐らく間違ってはいないものと思われる。

 後でも長々と述べるが、ゼロの大空洞はいわゆる旧約聖書を主たるモチーフにしている節があり、例えばこれに出てくる「生命の樹」の最下層には「最上にある王冠と関係のある虹色の王国」があるとされる。当該宗教の信徒ではないのでそれが真に意味するところは何とも言えないが、まさにテラパゴスを彷彿とさせる要素は揃う。
 他にも、生命の樹の虹色の王国の手前には紫色で表される「基礎」の宝珠があり、その守護天使はガブリエルである。つまりテラパゴスのいる最奥手前に立ちはだかる「じめん」タイプのガブリアスは駄洒落だった気配もある。その線でいけばキョジオーンは神との取引を言う「塩の契約」を表しており、すなわちゼロの大空洞における主人公の行動が表面上描かれない部分の何かしらの意味を持っていた可能性がある。

 そしてこういったポケモンの根源に関わる場所において、その相手の一つがこの結晶樹であるということになれば、ガラルの「ダイ木」に続き、sこの世界における人間とポケモン以外の第三極の生命である植物の何らかの立場を描いている可能性がある。

6. 第四層型結晶体

 パルデアの大穴の第四層の虹色の結晶体である。仮に第四層型の結晶体と呼ぶ。建築物を覆う規模の非常に巨大な結晶である。ここの結晶体はAIやタイムマシンを成立させるために利用されているということから、ゼロラボが結晶体から効率的なエネルギーを受けるために付着することを前提にして六角形に設計された可能性はある。

 この景色はヘザーの本にもスケッチがあるが、その絵は現在よりもたくさんの結晶体があったような描写である。しかし、そもそも第四層の見事な巨大結晶体は六角柱形状のゼロラボとその周辺の関連施設が核となって形成されているはずである。何故ヘザーが来た時点でスケッチのようになっていたのか?
 また、ヘザーが述べる「円盤のポケモン?」はテラパゴスのようであるが、この時点でもテラパゴスが休眠状態だったのであれば、大空洞に至らなければ会う事はできないはずであるが、ゼロラボのエレベータ以外に大空洞に通じる道がなく、今現在と同等以上の結晶体があることを考えると至ることはまずもって不可能ではないかと言わざるを得ない。

 更に言えば、後から来た博士たちはどうやってゼロラボを建設したのだろうか?後者は撤去する力がありそうだが、前者がテラパゴスに出会う道筋は一切描かれていないため、不思議である。

 ヘザーが見たものについては恐らく、前の記事で述べたようなタイムパラドックスの類であり、あくまでも今のところの仮説だが、いくつかある両世界のマイナー世界線(恐らく最初に実際の博士AIと出会った、科学技術の遅れたラボ部屋の時空)の姿だったのではないかと推察する。

7. 大空洞型結晶体

 ゼロの大空洞の虹色の結晶体である。第四層型結晶体と結晶化の形態がやや異なるように見えるため、念の為区別する。仮に大空洞型の結晶体と呼ぶ。第四層型と比べると放射状に結晶をつくり、比較的細い。必ずしも角ばったり六角形状にはならず、溶けたような形も見られる。また天井面からも結晶を生じる傾向が見て取れる。大空洞がエリアゼロの下に位置しているとすれば、発生源がエリアゼロであるから上部にも生じると考えられなくも無いが、深く進むほど結晶体の量は増えるため、そこまで強く関係はしていないようである。
 1でも述べたが、一番奥の大型結晶は巨大なテラレイド結晶体のようであり、テラパゴスが張り付いていた。何の力によって張り付いていたかは不明だが、スグリが素手で取り外したことから、子どもの力で剥がせる程度の力がかかっていたと思われる。

8. 結晶体粒子

 大穴からエリアゼロにかけて空中を漂う恐らく結晶体を構成する物質の粒子である。タイプエネルギーの前駆的な扱われ方から、本来はタイプエネルギーにすぐ変化するが、エリアゼロが非時間的領域であるために因果が生じない、もしくは生じにくいため滞留している量子のようにふるまう性質を持つものと仮定する。結晶体は何らかの力で互いに引き寄せられ、何らかの核となるものに付着し結晶体に成長するものと考えられる。
 どこから来たかについては、ブラックホールやワームホールの気配があるのでエリアゼロから排出される情報がくだかれたものであったり、諸々が考えられる。

9. 黒色物体

 結晶体と同質のものかはわからないがゼロの大空洞の最奥の空間の壁と床を構成する真っ黒な水晶のような物体である。表面を見ると常に上方に向かってが移動している。このようなものはここだけにしか存在しないため、地味だが非常に重要な要素と考えてよい。
 光沢のような鏡面反射はせず、光を吸収しているように見える。主人公がゼロラボのタイムマシンの部屋にアクセス出来なくなってから現れる強力なテラレイド結晶体も黒いことから、何かしらの関連がありそうである。

10.液化結晶体

 ブライアが管理していると思われるテラリウムドーム天井部から吊り下げられている球体の中の結晶体とその液体である。内部では様々な色の泡のようなものが生滅して一部は球体の外へ出ている。水ではない何らかの液体に結晶体が溶けるのか、加熱か冷却によるのか、陽圧か負圧で液化するのかはわからないが、一定の条件でこのようになる性質があるらしい。液体化することで球状の器に均一に広がり、ドーム全体に効率的な照射ができるのであろう。

11.キラーメとキラフロル

 花びらのように見える部分はテラスタルの結晶と同じ材質であるらしい。外部サイト「とまてんラボ」のとまてん氏によれば次のようなことから、硫酸銅(II)五水和物(CuSO・45H2O)を主成分とする青い鉱物であるカルカンサイトがモデルにあるとされる。

カルカンサイトという名前は、ギリシャ語で銅を表す”khalkos”と花を表す”anthos”を組み合わせたものと言われています。その名の通り洞窟に咲く青い「銅の花」です。

「とまてんラボ」【現役化学者が考察】洞窟に咲く毒の花!キラフロルのお話 より

 この点は長々とやっている世界観と結晶体の話を終えられたら歴史の考察で書きたいのだが、パルデア地方には近代以前に致命的な鉱毒災害を経験しているような形跡があり、「石」がもたらす「毒」の一つである鉱毒を表現しているのだろう。(ただしモデルとなったスペインに対するその根も葉もない風評被害の懸念から、絶対に表立って表現はされない設定であると思われる。)地上の遺跡にみられるドーミラーなども滅びた青銅器文明を思い起こさせ、これらとキラフロルたちは無関係ではないと思われる。
 そして過去に人間の営みによって地下に染みた、人間視点で言えば汚染された水が大穴という地底に到達し、後述するが長い時間をかけて結晶体エネルギーが「銅の毒」に照射され続け、ポケモン化しているものと思われる。主人公らがエリアゼロを歩いて平気なのは、彼らが壁から硫化物イオンや銅イオンを「栄養」として吸収するため「浄化」されているためであると考えられる。そうであれば原作ナウシカっぽい。
 また、てらす池山頂にもキラフロルが確認されることについては、カルカンサイトが自然状態でも存在するし、休火山のような鬼が山にも銅イオンや硫化物イオンに関連する鉱物が多いからであろう。

12. 大空洞型の結晶体の残骸?列柱洞の石柱

 パルデアで最も経緯が理解出来ない場所として、オージャの湖とロースト砂漠の間の列柱洞がある。この地形はパルデアの地上や他地方を含めて他に類を見ない。見れば見るほどわけがわからないが、この縦横無尽の柱構造はゼロの大空洞型の結晶体に似てはいないだろうか。
 大空洞内部の岩壁には無数の小規模な結晶体がくっついているが、物語の都合上時間経過がないのと結晶体の性質が不明瞭なことからこれらが岩壁に付着し成長しつつあるのか、それとも元々大きな結晶だったものが岩に変化していく途中なのか判断できない。
 仮に後者であることを考えると、放射性物質の側面のある結晶体はエネルギーを放出し終えると、ほぼ黒体放射しかなくなる単なる岩と化すのでは?という仮説を立てることができる。
 つまり、列柱洞の石柱は古い時代の地殻変動による隆起で地底から露出した結晶体がエネルギーを放射し尽くした姿なのではないかということである。真偽は今のところわからないが、パルデア史を考える上であり得るギミックの一つとして心に留めておく。

各結晶体の関係性の図式

 ここまで整理した結晶体の形態を発生、変化、利用の順に並べると、ひとまず次のようになる。

始原

①発生源
 根源不明ながら、結晶体の粒子が生じる。ポケモン自体、エリアゼロ内部からの何か、大空洞の最奥の巨大テラレイド状結晶など、どれも怪しい。

②結晶化
恐らく非時間的領域にてタイプエネルギーとはならずに滞留しているものと見られる。テラパゴスの体内で結晶化するが、テラパゴスは結晶体自体からエネルギーを得ようと休眠していたので今の所テラパゴス自身が結晶体自体を作っているとは考えにくい。溜まるほどエネルギーは強くなり、一部は大穴の外へ漏出するようである。

変化

 結晶体から放射されたテラスタルエネルギーは概して形而上的な、あるいはプラトンの言うイデアのような「もの」に反応している節がある。この考え方は言い方を間違えるととても胡散臭いが、この物語が時間という次元の四つ目を扱うことからあくまでも物理学にもそこそこ気を払ったSFに立脚した世界観において、それら概念の高次元における実在とテラスタルエネルギーの関係性がアレしているのかもしれない。

③タイプエネルギー、ポケモンへの変化
 放射されたエネルギーは大穴の外で様々な物体や事象に触れて「タイプ」と「色」を得る。例えば草木に触れれば草タイプのエネルギーになるように変換される。そして特定の条件で何らかの「核」となるものに集まり、ポケモン化する。大穴の例で言えばキラフロルである。
 主としてポケモンの身体を構成するものはこのエネルギーである可能性がある。廃されたアニメ映画三部作の三作目のように、人間の脳が認知しなくてもそこに「在った」のかは現時点でわからない。

③’ ポケモンに触れた場合の反応
 触れたものが既にポケモンである場合、ポケモンの脳内のA10神経群的な何かに処理されている願望に合うタイプのエネルギーと化し、そのポケモンが長く留まる巣穴にテラレイド結晶体を生じてある種の励起状態、つまり本来のエネルギー量を超えた状態になる。闘争時に過剰分のエネルギーが解放されポケモンの体外で結晶化し、一時的に願望に基づくタイプをまとうことができる。

③’’ 植物的形状あるいは植物を生育する反応
 結晶樹のように暗がりで植物状の形をとるか、もしくはテラスタルエネルギーにある種の植物を発生および生育させる性質が存在する。これらの植物はテラスタルエネルギーの波長を主とした光合成回路を発展させていると考えられ、ひでんスパイスの木はそれである可能性が高い。
 結晶樹については岩塩ポケモンのキョジオーンが守っていたことから恐らく「しおスパイス」を想起せよという表現と推測できるが、後にネリネがどうやらひでんスパイスではないテラスタルエネルギー由来の植物で丸薬をつくるなど、これらテラスタルエネルギー植物種は、ひでんスパイスの木の数種ではない気配がある。

利用

 概ねポケモンの地力の部分を変質させるか、それ以外では素粒子分野での話題がモチーフになっているように見受けられる。

④ポケモンの志向のコントロール
 方法が開発された時期は不明ながらテラスタルポケモンが倒れるとテラピースを生じる。特殊な技術で調理し、ポケモンの体の中に戻し嗜好を変えることができると思われる。

⑤仮面の形態をとるテラスタル現象制御
 オーガポンの仮面には恐らく結晶体が使用されており、おそらく100年以上前のスグリの先祖はテラスタルエネルギーとタイプエネルギーの関係性を理解していたことになる。この場合、画面自体が巨大化しており、「タイプエネルギー」には少なくとも「モノ」への巨大化の作用がある可能性が示唆される。

⑥小型化・高汎用性のテラスタル現象制御
 10年前に博士の開発したテラスタルオーブはモンスターボールとほぼ同様にポケモンを縮小化もしくは身体を構成していたエネルギー体にして入れられるらしく、そこでテラスタルエネルギーを印加して再び外に出す事でテラスタル化を引き起こすことが可能となっているものと思われる。

⑦高度AIやタイムマシンの実現
 博士はこれらをほぼ一人で成しており、結晶体の助けを得たとしてもアインシュタインもホーキングもエジソンもテスラも超えている。
そしてその博士をして「この時代では不可能」とするこれらの技術は結晶体によってそれぞれ実現しているが、機械に対して応用している例は博士の他に見られない。
 シアノは倫理的にまともであるし、ブライアはヘザーの名誉回復とテラリウムドームに執着し、投資した企業は及び腰となる程には常識があったものと見られるが、ある意味で真の産業的価値にもっと近づいたのは博士のみであったということになる。
 そして、高度AIを支えるコンピューティングに必要なものを量子コンピュータ、タイムマシンに必要なものをいわゆるエキゾチック物質であると考えると、どちらも実現できる物質を想定しても、SF上そこまでの無理はなさそうであり、あながち結晶体を完全なる魔法物質として描こうとはしていないのではないか。これらは一つひと項目で後述したい。

⑧大規模なテラスタルエネルギーの人工照射
 ここ数年でシアノとブライアが開発したテラリウムドームでは、テラスタル結晶体そのものを持ち込み、何らかの液体によって効率的にエネルギーを照射する技術を開発している。ここではテラスタルエネルギーが何かに触れる前にポケモンに直撃するためか、唯一ステラタイプのテラレイド結晶体が生じる。どうも人間に対してテラスタルエネルギーが何の影響も及ぼしていないように見えるが、パルデア、キタカミ、イッシュのどの場所においても「遮蔽」されている構造が見て取れ、やはりあまり外に出してはよろしくない性質があるようである。

⑨テラスタルエネルギー由来植物による調味料および丸薬
 結晶体や結晶樹との関連性はイマイチ不明だが、ひでんスパイスはサンドイッチに用いる。同じ食用でもテラピースとは異なり、そのままイケる。そして誰かから伝えられたものでもないのに何が「秘伝」なのかはよくわからない。
 5種あることから、単純に初代のひでんマシンがフィールド技であったのでオマージュであるとは思うが、意外と留意した方がよい点かもしれない。(まあ、そもそもひでんマシンは何のひでんなんだという話ではあるのだが。)

 以上の通り、その発生から利用まで概ね素粒子にまつわるモチーフから筋を通すことが出来そうである。しかし、最後のポケモンに関わる箇所だけはいまいち我々の宇宙に比べられるものが見つからない。何故これらがテラスタルエネルギーと関連するのか?

ひでんスパイスと「重力」の意外な関係性?

ひでんスパイスは何を回復しているのか?

 前の章で最後で触れたが、ひでんスパイスを摂取した人間は「美味い」だけで終わるのに対し、ポケモンの反応は基本的には「HPとは別枠の、ポケモンの存在に関わる何かの回復」である。そしてヌシポケモンはこれによって大きくなったように見え、関連性が疑われてきた。確かにポケモンは命の危機に瀕すると小さくなるという生き物であるので、大きくなるということは元気にはなっていると言える。
 だが、コライドン、ミライドン、マフィティフのいずれもポケモンセンターでは治らないということであったので、やはりHPの減りではない何かが存在している。

翼を授けるネリネの丸薬

 そこでイッシュに目を向けると、ネリネはテラリウムドームのその辺に生えていたよくわからない草を丸薬にして人のポケモンに食べさせて、コライドンおよびミライドンにひでんスパイスと同様の効果をもたらしていた。
 あれらの「不思議な葉っぱ」は、状況的にはテラスタルエネルギーを浴びて育った植物であり、コライドンおよびミライドンが「パワーアップ」したので、恐らくひでんスパイスに類するものだろう。ろくに治験もしていなさそうなお手製の薬を特段の説明もなく与えるその行為はよろしくないが、彼女は「ライドポケモン」が飛べるという効果を確信していた。そして彼女の読み通りにコライドンおよびミライドンは飛行能力を得たが、仮に主人公が連れていたポケモンがただのモトトカゲでも飛べるということでよいのだろうか。確かにコライドンはともかく、ミライドンには羽がないのに飛んでいるので、モトトカゲも浮けるのかもしれない。

 と言ったことを間に受けると、俄かには信じ難いが「反重力」的なもの…なのだろうか。確かに、ひでんスパイスを摂取する度にコライドンとミライドンは「重力から解放されていく」節がある。弱っていた際には歩くだけであったが、大地を蹴って進めるようになり、大ジャンプが出来るようになり、水に浮き、滑空でき、崖を登るようになる。段々と上向きになっている。そしてマフィティフにしても「立ち上がった」のである。

 大穴という場所にしても、前の章で述べた通り、エリアゼロが金属プレートの重なった光円錐の図通りであれば究極の重力と言える「ブラックホール」を生じかねない状況にあり、今更ではあるがあの図は「上部が若干大きい」ことからペンローズらが惑星がブラックホールに吸い込まれようとする場面を説明した構造図にも似ている。そしてそれが我々の思うブラックホールそのものの出現ではなく、ポケモンの存在自体のカタストロフなのであれば、シリーズの根幹に関わるテーマとなり得る。

 また、演出面でも博士AIとの最終決戦の際のもう一匹の威「圧」的なコライドンおよびミライドンに対して、主人公との絆によってフォルムをチェンジさせて「立ち上がって/浮いて」闘うという象徴性を見出すことが出来る。

ポケモン衰弱の原因は大穴の何かか?

 つまりコライドン、ミライドン、マフィティフの例からは「大穴の中で、何かの原因で重力ないし彼らを構成する特有の物質に及ぶ引力に捕まって動きが制限されたが、テラスタルエネルギーが植物によって変換された何らかの物質の補充によって抗えるようになった」という仮説が立つ。
 粒子にかかる力の謎や重力というと、我々の世界の物理学では重力を媒介するのではないかと言われるヒッグス粒子の問題が思い出される。

 以上のように、ここでも結晶体由来の事象に素粒子分野のモチーフを仮定し考えると、ある程度の筋は通るように見える。
 異次元、重力的な概念が彼らの存在に伴うのであれば、ひこうタイプでもないのに質量に関係なく浮いているポケモンたち、埋葬したポケモンが浮かび上がるゴーストタイプ、オーガポンにタコ殴りにされて死んだと思いきや祠から飛び出し大きくなったイイネイヌたち、質量の増大をあまり伴わないとされるダイマックス現象が「空間を歪ませて起こる」ことなど、ポケモンという生物の生死の構造やコア部分すら統一的に理解できるのでは?という淡い期待が湧いてくる。

 次回は今回出てきたそれぞれのモチーフを考察する。歴史のことはもう忘れ始めた。

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