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亀と牡蠣殻と生物濾過に関する考察

#アクアリウム   #アクアリウム初心者 #ミシシッピニオイガメ #水槽 #濾過 #バクテリア #バイコム


どんな人向けの記事なのかについて

この記事は中性付近を好む亀飼育者向けの、とりあえず濾過フィルター設置したけどうまくいかないなーって悩んでる人向けの記事です。ゆっくり読んでいってね!

注意書き

この記事はミシシッピニオイガメの飼育をしていく中で得られた知見です。一般的に水質が弱酸性であることが求められる熱帯魚水槽、水草水槽などではうまくいかないことが書かれていると思いますし、また硬度には鈍感な北米原産ニオイガメ飼育だから濾過に特化したことが言えるのかなと思っておりますゆえ北米原産ニオイガメ飼育以外の方は参考程度に捉えてもらいたいです。
また、著者は生物学未履修で生物学に詳しくありませんのでダニング=クルーガー現象に陥ってる可能性もありますし、この記事は厳密な記事を目指しているわけではないので孫引きなどを多用しておりおそらく正しい引用の仕方をしていません。そのことをご了承した上でご覧ください。

前書き

初心者亀飼育者である私のミシニ水槽で立ち上げてからつい最近まで、生体に害はないレベルで存在したアンモニウムが牡蠣殻を濾過層に入れたことで綺麗に無くなりました。

この経験と文献、seraのアドバイス、バイコムからの見解を元に牡蠣殻を入れることによる濾過のメリットを考察していきます。

水槽環境

生体:ミシシッピニオイガメ(10cm)1匹
上部フィルター:GEX  グランデ600  
                             ウェット&ドライ濾過そう  3段
                             ポンプをエーハイムコンパクトオン1000NEW(600Hz)に変更
水量:45ℓ
飼育水の回転数:1分あたりのポンプ流量の測定結果より1時間あたり12.3回転
生物濾過用ろ材:zoox  バイオメディアS  1.5箱
                             バイコムバフィー  2箱
                             バイコムバフィーボード 1箱      
バクテリア材:スーパーバイコム21、78    

牡蠣殻入れる前と入れた後の水質検査結果の変動

牡蠣殻入れる前の水替えから一週間後の状態 (水槽立ち上げから2.5ヶ月経過):
ph: 5.5  NH3+NH4: 1.0mg/l   NO2: 測定下限(0.3mg/l)未満   NO3: 10mg/l
このときGH,KHの測定はしていなかったため、水道水のデータになるが、GH: 1   KH: 6

牡蠣殻入れたあとの水替えから一週間後の状態:
ph: 7.5   NH3+NH4: 0mg/l   NO2: 測定下限(0.3mg/l)未満  NO3: 25mg/l   GH: 8    KH: 13
今現在、この計測結果で安定しています。

牡蠣殻を入れた事で生物濾過が成功した理由の候補

  1. phが中性〜弱アルカリ性になったことによってアンモニア酸化細菌(ニトロソモナスなど)が活性化した

  2. KHが高まったことによってアンモニア酸化細菌が効率よくアンモニアの酸化を行えるようになった。

この2点のどちらかもしくは両方が考えられるためそれを考察していきたいと思います。

ニトロソモナスのpHによる活性の違いについて

まず、アンモニアを酸化するのはアンモニア酸化菌(亜硝酸菌)と呼ばれるバクテリアが行なっている。そのバクテリアの種類は大まかに、「ニトロソモナス属」「ニトロソコッカス属」「ニトロソスピラ属」に分かれており、このうちニトロソコッカス属は塩湖、海洋中に存在しているので、淡水中に存在できるのは「ニトロソモナス属」「ニトロソスピラ属」の二種類である。
この二種類ともどうやら酸性環境では活性が落ちるらしい。

これまでに分離された硝化菌のすべてが, pH6 ~ 6.5以下では生育できないこと (Jiang and Bakken, 1999[2])。即ち酸性環境に適応していないことであった。[1]

[1]Masahito Hayatsu, Kanako Tagao. , 土と微生物 (Soil Microrganisms) Vol. 72,  No.1, 14-21(2018)
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010921815.pdf
[2] Qing Qiao Jiang, Lars R. Bakken. , FEMS Microbiology Ecology, Vol. 30, Issue 2, 171–186 (1999) 
https://doi.org/10.1111/j.1574-6941.1999.tb00646.x

(ただし酸性土壌にも硝化が行われていることは昔からしられており、これは既存の検出方法や分離方法では捕らえられない硝化細菌が存在しており彼らが硝化を担っているという仮説が有力視されている[1]。実際に2018年に新たに酸性土壌に対応できる硝化細菌が見つかっている[1]。)

その活性率について、phとの兼ね合いは以下のグラフのようになっていることが知られている。

[3] 嶋津 暉之, 木村 賢史, 三好 康彦. , 下水処理場の硝化に関する研究(その2) -硝化促進の方法とその技術的条件-, 東京都環境科学研究年報(1993)
https://www.tokyokankyo.jp/kankyoken_contents/assets/meeting/report/1993suishitsu3.pdf

同図のとおり、硝化速度はpHの影響を大きく受け、pHが6台まで低下すると、pHの低下と共に、硝化速度が急速に小さくなっていく。pH7の時の値を1とすると、pH6.6で0.5、pH6.3で0.2である。逆にpHが上昇すると、pH7.5で1.5になる。

[3] 嶋津 暉之, 木村 賢史, 三好 康彦. , 下水処理場の硝化に関する研究(その2) -硝化促進の方法とその技術的条件-, 東京都環境科学研究年報(1993)
https://www.tokyokankyo.jp/kankyoken_contents/assets/meeting/report/1993suishitsu3.pdf

つまり、以前の自分の状態、つまりpH5.5の状態ではアンモニア酸化菌が存分に動けなくなった。そこで牡蠣殻を入れることでpHがアンモニア酸化菌に最適なものとなりアンモニアがきちんと分解されるようになったと考察できる。

KHと硝化細菌との関係性

KH、炭酸塩硬度はpHの変動を緩やかにするpH緩衝効果があることが知られているが、実は硝化細菌は炭酸塩($${\mathrm{HCO^{-}_3}}$$)を用いて硝化反応を行っている。
化学反応式は次のように示される。

[亜硝酸菌]
$${\mathrm{55NH^{+}_4 + 76 O_2 + 109 H CO^{-}_3 \rightarrow C_5H_7O_2N+54NO^{-}_2+57H_2O+104H_2CO_3}}$$
[硝酸菌]
$${\mathrm{ 400NO^{-}_2 + NH^{+}_4 +4H_2CO_3 + HCO^{-}_3 + 195O_2 \rightarrow C_6H_7O_2N + 400NO^{-}_3 }}$$

[3] 嶋津 暉之, 木村 賢史, 三好 康彦. , 下水処理場の硝化に関する研究(その2) -硝化促進の方法とその技術的条件-, 東京都環境科学研究年報(1993)https://www.tokyokankyo.jp/kankyoken_contents/assets/meeting/report/1993suishitsu3.pdf

つまり、硝化を行えば行うほど$${\mathrm{HCO^{-}_3}}$$が低下する(ついでにpHも降下しやすくなる)。
しかしこのままではどれくらいKHが低下するのかがわからないためわかりやすい単位に計算しなおす。
アンモニア態窒素$${\mathrm{NH_4 - N}}$$とそれに必要な炭酸カルシウム$${\mathrm{CaCO_3}}$$(アルカリ度)について、以下のことがわかっている。

$${\mathrm{NH_4-N\ 1mg/\ell}}$$が硝化されて$${\mathrm{NH_3-N\ 1mg/\ell}}$$に変わると、アルカリ度が$${\mathrm{\frac{50}{7}\ mg/\ell}}$$低下する。

[3] 嶋津 暉之, 木村 賢史, 三好 康彦. , 下水処理場の硝化に関する研究(その2) -硝化促進の方法とその技術的条件-, 東京都環境科学研究年報(1993)https://www.tokyokankyo.jp/kankyoken_contents/assets/meeting/report/1993suishitsu3.pdf

また、$${\mathrm{CaCO_3}}$$換算で、$${\mathrm{1mg/\ell = 0.056dH}}$$なので、$${\mathrm{NH_4-N\ 1mg/\ell}}$$が硝化されるとKHが0.4下がる計算になる。
つまり、KHについて浄水器などを用いて極端に低い環境の場合、pHが変動しやすくなるデメリットだけでなく、硝化に必要なKHも足りない状態に陥りやすいということだ。
しかし、私の住んでる環境については水道水のKHが6ぐらいはあり、浄水器などは利用していないため、これは理由ではないように思われる。

バイコムの見解

バイコムにスーパーバイコム78で用いているバクテリアとpH、KHとの関係性を質問したところ、以下のように回答された(掲載許可済み)。

硝化菌は、活発に働く環境条件が限られている事が広く知られており、当社で培養している硝化菌についても、同様の性質を有しております。
今回、お問い合わせ頂いたpH特性については、pH 7.0~8.5で最も高く、これから外れると、徐々に硝化活性が下がります。

弊社の「Super BICOM 78」については、通常の飼育条件として、pH6.0~9.0の区間を想定しており、この範囲で問題なくご使用頂けるように、規定量(添加の目安量)を定めております。

仮に酸性側に大きく外れた場合、pH5.0以下では、従来の10%以下に活性が低下する為、アンモニアが思うように分解されずに、水中に残ってしまいます。
このため、pH調整を行って頂いたり、ろ過面積を大きく採った上で添加量を増やすなどの対策が、別途必要となります。

今回、ご経験されたケースでは、当初pH5.5とかなり低いため、硝化菌がうまく働いておらず、総アンモニアが検出される状況にあったと思われます。

その後、牡蠣殻を投入されて、徐々にpHが高まるにつれ、硝化反応が活発になる事で、総アンモニアが検出されなくなったものかと思います。

なお、硝化菌が働く事で、徐々にpHが低下するのですが、今回は牡蠣殻を入れられているため、このpH低下を抑える事が出来ており、硝化菌が働くには最適な環境が保たれているものかと思います。

また、硬度についてですが、硝化菌の働きに必要なのは、炭酸塩ですので、KHでご確認頂くのが良いかと思います。ただ、浄水器等を利用されて、KHが殆ど0という様に、極端に低い状況では硝化阻害を生じますが、水道水レベルであれば、左程気にされる事は無いかと思います。

考察&まとめ

以上のことがらを整理すると、牡蠣殻をいれたことにより、pHが上昇する。このことにより硝化菌の活動により本来下がっていくpHが、硝化菌が活動しやすいpHで維持された。このことによりアンモニアの分解がうまくいったのだと考察できる。
牡蠣殻をいれることによりKHも上昇するが、KH上昇が硝化反応に直接的な影響を与えるというよりは、pH緩衝作用のほうを期待したほうがいいだろう。
また最適なpHについて、バイコムの回答ではpH 7.0~8.5とあったため、おおよそ中性から弱アルカリ性を保てるようにしたほうがよいことがうかがえる。

参考文献

[1] Masahito Hayatsu, Kanako Tagao. , 土と微生物 (Soil Microrganisms) Vol. 72,  No.1, 14-21(2018)
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010921815.pdf

[2] Qing Qiao Jiang, Lars R. Bakken. , FEMS Microbiology Ecology, Vol. 30, Issue 2, 171–186 (1999) 
https://doi.org/10.1111/j.1574-6941.1999.tb00646.x

[3] 嶋津 暉之, 木村 賢史, 三好 康彦. , 下水処理場の硝化に関する研究(その2) -硝化促進の方法とその技術的条件-, 東京都環境科学研究年報(1993)
https://www.tokyokankyo.jp/kankyoken_contents/assets/meeting/report/1993suishitsu3.pdf


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