赤司 拓海

赤司 拓海

最近の記事

素敵な雨の日

雨が降っていた。 一面灰色の曇り空だったが、遠くの空の雲のほんの少しの隙間から、透き通った青色がこちらを覗いていた。 日の光が差し込んできて、僕の周りを優しく照らした。 包み込むように繊細に、柔らかく。 僕はビニール傘をたたみ、雨に濡れる。 大きく手を広げ、今立っているこの世界に身を預ける。 雨は髪の毛をつたいシャツの色を変え、夏の束の間の涼しさを届ける。 日の光は僕の頬に触れ、溶けるように体に入り込み熱を送る。 近くにある百日紅の木は、可愛らしい薄紅色の花をつけて

    • 大学生、下宿で一人暮らしをしていた頃の話だ。 ある晩布団に入ったがなかなか寝つけず、気がつくと時計は朝5時を回ってしまっていた。 機械的に音を打ち続ける秒針、思い出したようにうなり声を上げる冷蔵庫、重たいカーテンの隙間から不気味に線を引く光。 全てにうんざりしていた。 このまま部屋にいても寝られそうになかったので、気分を変えようと外を歩くことにした。 季節は春から夏に移る時期だったろうか。 もう日が差していてもいい時間だったが、空を覆う陰鬱な雲がそれを阻んでいた。 先ほど

      • 僕は絵が描けなくなった

        僕は絵を描くのが好きな子供だった。 それは別に珍しい話じゃないと思う。 「子供の頃は絵を描くのが好きだったけど、成長するにつれてだんだんと絵を描かなくなった」 そんな人は多いんじゃないだろうか。 僕もそんな一人だ。 赤、青、緑、そして黄色。燃えるような原色のクレヨンを手でわしづかみにし、真っ白の画用紙にぐりぐりと押しつける。 小さい頃はそれが何より楽しかった。 *** 5歳くらいの時、自動車の絵を描いた。タイヤは黒いクレヨンで。 何重にも何重にも円(と呼べるほど丸くは

      素敵な雨の日