平さんと真田さん(だいちゃんへのお礼状)
だいちゃん。このサポートは不意打ちでした。本当にありがとう。
私がしばらく続けているNHK大河ドラマ『麒麟がくる』の怪しげなレビュー記事に、ある日サポートを頂きました。
ナンダッテ?
だいすけさんからでした。
彼は障がい福祉施設で働き、奥さんと共に息子さんと娘さんとを愛情一杯に育てている、とても細やかな優しさをもつ人物です。
彼のコメント力、記事を書くときの視点は鋭くて深く、いつも「上手いこと言うなぁ」と思います。
例えば、この記事。
この「昔話に学ぶ」シリーズでは、毎回子供の頃から親しんだ昔話などから導かれる気づきを深掘りしていきます。
この回も雪女の話から、地域社会の福祉についてのお話に繋がっちゃった。
だいちゃんは、こうやっていつも自分の仕事について真面目に考えている人なんです。
上すべりな同情だけではやっていけない福祉施設の現実を知っている人。
だから、私はだいすけさんへのお礼の手紙には、真田さんと平さんのことを書こうと思いました。
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中学生の時、あるトイレ掃除担当になった私は、俄然そのミッションに燃えた。
ピッカピカにしてやる。
以前に別のトイレを担当したこともあった私には自信があった。
やったるで。
さぁて、この私と一緒にトイレ担当になった残り2人のメンバーは誰だ?
振り返ると、そこに無表情で突っ立っている2人のクラスメートがいた。
真田さんと平さんだ。
全くの無表情。
なんか2人とも強そうな(日本の歴史上の人物的に)苗字だけれど、トイレ掃除のマンパワーとして、私が期待するほどのパフォーマンスを見せてくれるのだろうか?
(当時、学校のトイレ掃除のベテランだった私は、その点においては上から目線だ)
さて、真田さんは、のっぽだ。
いつも遠くを見ているようで、シャイな彼女は、何をしても少し微笑むクセがある。
一方、背の低い平さんはすごく太っている。
間違いなく肥満体だ。
目が顔の肉に埋もれてしまっていて、糸のように細い。
彼女の表情を掴むのはわりとむずかしい。
このデコボココンビは、いつも一緒だった。
早速3人で作業を分担して掃除に取りかかることにした。
真田さんと平さんはトイレ掃除を担当したことがないので、私が説明をする。
「わかった?」
話を終えて2人の顔を見たら、真田さんの様子が変だった。
立ったまま、遠くを見つめて固まっている。
「真田さん・・・?」
私の声など聞こえてないみたい。
姿も見えていない様子。
え。
どうしたの?
すると、平さんが彼女のボンレスハムみたいな腕を大きく振って・・・
ばああああん。
真田さんの背中を思い切り叩いた。
うわ、痛そう!
すると、視点の定まらない目で遠くを見る目をしていた真田さんは、フッと我に返って瞬きした。
「あ、戻った」
真田さんは、少し恥ずかしそうに微笑みながら平さんの背後に半分隠れるようにした。
「もうダイジョブ?」
私が真田さんに尋ねると、彼女はうんうんと首を縦に振る。
平さんも大きくうなずいてる。
「あ、そ」
2人はきちんと私に説明してくれたことはなかったが、後から考えると、真田さんのそれは、てんかん発作の一種だったのじゃないかと思う。
そういう発作を起こした人に、背中をばーんと叩くことが正しい対処の方法なのかどうかは知らない。
しかし、平さんはいつものようにやっていた。
真田さんの発作を目撃した日から、私は彼女を注意して見るようになった。
どうやら彼女の発作は1日に数回は起きていたようだった。
真田さんの発作に気づくたびに、平さんが彼女の背中をばあああん、とやる。
我に返った真田さんは決まって恥ずかしそうに笑うのだ。
その後も我々のトイレ掃除の最中に、何度か真田さんの発作が出た。
私は怖くて、申し訳なくて彼女の背中を叩くことはできない。
でも、平さんはいつも遠慮無くぶっ叩く。
声を立てて笑う姿など見たことのない2人だが、仲は良いらしかった。
平さんはいつも真田さんの側にいた。
いっつも側にいた。
無表情なんだけど、あの細い目の端から真田さんのことを見守っていた。
実は真田さんはうっかり屋でもあった。
忘れ物とか勘違いも多い。
平さんは、発作が出ないときも真田さんのために、いつも忠告する。
でも、
「大丈夫?」
「気を付けて」
「頑張って」
とかじゃない。
平さんは、そんなことは言わない。
「これしなきゃダメだよ」
「●●しようか?」
「一緒にやるよ」
そして、ばああああん、だ。
平さんのアドバイスやサポートはとても具体的なのだ。
優しい?
彼女の口調は全然優しくない。
平さんはいつもムスッとして見えたけど、あれがデフォルトの顔だったのかな?
ただ、真田さんが、自分を特別扱いしないでぶっきらぼうに指示してくれる平さんに、絶大なる信頼を寄せていたのは間違いないのだ。
掃除時間には鼻の頭に脂汗をかきながら黙々と便器を擦る平さん。
なんか彼女はカッコよかった。
だいちゃん。
私はあなたなら、平さんときっと話が合うんじゃないかと思ってる。
もしかしたら、だいちゃんの今の職場に平さんみたいな人は、既にいるかもしれないな。