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お宝さがし(前篇)

休暇で実家に帰ったとき、父が言った。
「お前が好きそうな古い掛け軸とかが衣装箱にいっぱい入ってるんが見つかったんやけど、見るか?」
何よ、それ。私の好物じゃん。
早速その衣装箱とやらを畳敷きの部屋に運び込んだ。

うちは名家なのか?

付けた画像には私の足の指まで見えて、いささか生活感にあふれているのは申し訳ない。
写真の水墨画はほんの一例だが(縦長の写真全部見えないのでわかりにくいですね)、こんな感じのきちんと掛け軸になったものが沢山箱に入っていたのだ。見慣れない箱。木製で、ミカン箱が2.5箱か3箱くらいの容積がある中には、掛け軸以外にも沢山の水墨画や書、それに短冊もあった。中には桐の箱に入った掛け軸もある。

「こりゃおもしろいことになった」
こんなお宝が見つかるなんて、うちは名家だったのか。そうだ、そうに違いない。
これはちゃんと調査をしてみよう。実家は愛媛の松山にあるので、もしかしたら正岡子規か、高浜虚子関連の書とかが紛れてたりするかも。

そんな期待をしながらさらに衣装箱の中身を漁っていると、ピンクのプラスチックの筒が出てきた。うーん、この色と素材では歴史を感じない。
とにかく開けてみたら、なぜか中身は弟の小学校の卒業証書だった。
「なんでこれがお宝に紛れてんの?」
そんな最近のものが一緒に箱に突っ込まれていては、他の水墨画の希少度具合が下がる。
でも父は
「さあなー。物置を片付けるときに突っ込んだんかなぁ」
とヘラヘラ言うだけだった。

調査タッグ結成

私のイトコがこの話を聞きつけてきた。うちの親戚の中で一番頭のいい彼女(私が彼女に勝るのは車の運転のみである)が「私も一緒に調べたい」と言ってPCを抱えてやって来たのだ。

私と彼女でタッグを組み、調査を開始した。一つずつ作品を取り出し、書なら読める部分を頑張って読み、署名をできるだけ解読し、絵の場合は何を描いているのかを確認する。私はそれにポストイットで番号を振り、作品全体と署名部分にズームした写真を撮影。その間、イトコはエクセルシートで番号や作品の特徴をまとめる。署名を解読する中で、読めるものについてはネットでサーチして名前を確認しながらイトコはサクサク作業を進める。一つずつ作品を大事に出したりしまったり、するのは結構面倒くさい。しかし、もしかしたらうちは隠れた名家かもしれないし、作品はお宝の可能性があるから粗末にもできない。一人で作業をしなくてよかった。

調査の結果

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全部で作品数は29点。中には習作のような水墨画の束もあって、それらは一つの作品として扱ったので、バラバラにすればもっと増える。
作業を終えて私もイトコも疲れたが、それなりに成果もあった。
私でも知っている人物の作品としては、
・柳原極堂の俳句の短冊
・前田伍健の書や水墨画
などが発見された。

柳原極堂は、正岡子規の友人であり夏目漱石とも親交のあった人物だ。
また、前田伍健という人物は絵も出来る川柳作家で、松山で伊予鉄道に勤務していた人物。地元では松山まつりの野球拳を作った「家元」として知られた人なのである。

また、もしかしたら名のある人かも知れない人名もあった。
・手島石泉(愛媛在住だった画家?)
・秋琴
・香泉
・江月宗玩(16世紀の大徳寺住持か?)

だけど、もうそこまでだった。私たちは読めない文字部分も多くあり、これ以上解読できなかった。それに極堂だって伍健だって、読めはしたけど本物かどうかはわからない。

ついに私は、地元の博物館の協力をお願いすることにしたのである。(後編につづく)