つくることをつくること:クリエイティブリーダーシップ特論 第5回
このnoteは武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダーシップコースの授業の一環として書かれたものです。
武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダーシップコース クリエイティブリーダーシップ特論 第5回(2021/05/10)
講師:八田晃さん
八田さんは京都のソフトディバイスというデザイン事務所の代表をされています。
今回の講演では「Prototyping?」というテーマでプロトタイピングの方法と実践についてお話し頂きました。
プロトタイピングとは
近年、プロトタイピングという言葉が示す範囲が拡大していると八田さんはいいます。
もともとプロダクト領域における試作という意味合いが強かったプロトタイピングについて、リサーチやコンセプトワークなどの上流工程におけるスケッチから、振る舞いやシーンなどの形のない領野まで、プロトタイプの範囲が拡張しているとのことです。
背景の一つとして、観測が難しい領野(例えば「未来」)のデザインが求められていることを挙げられていました。
だからこそ、とりあえずつくってみるということを実践しているとのことです。
ソフトディバイスの社是である「Predicting the Future by Making」が示すように、作ることを通して新たな価値を模索しているのだと理解しました。
プロトタイピングの方法・実践
ソフトデザインで実践されているプロトタイピングの手法について幾つかご紹介頂きました。
Hardware Skech:最低限の機能をもった実機を試作する。見栄えは無視。
Acting Out:自分たちで演技することで、振る舞いやシーンを疑似体験する。
Photo Modeling:写真にアイデアを書き込むことで視覚化する。
Projection Modeling:空間にシーンやアイデアを投影して視覚化する。
これらの手法は議論が空中戦になりがちな上流工程において、実体験しながら検討を進められるという点で有効だと言います。
さらに、ノンデザイナーでも参加できるため、クライアントなども巻き込んで共に検討を進められます。
このようにデザインの方法論そのものを自らデザインされているソフトディバイスは、自社ビルの地下にプロトタイピングのためのLAB施設を設立したとのことです。さらに、昨今の状況を鑑みて、プロトタイピングにおけるフィジカルな体験をライブ配信できないかということを試行錯誤するなどしたそうで、つくることを通して考えるということを日常的に行なっている企業なのだと感じました。
【考察】未来をつくること/つくることの未来
イギリスの人類学者であるティム・インゴルドはつくりながら考えることを「探求の技術」と呼び、以下のように述べています。
探求の技術はリアルタイムで前に進んでいく。次に何が起きるのかを見るために、自分の手が触れるものの生に随伴されて、両者が属する世界を巻きこみながら物事を試すのだ。計画や予測に答えることから遠く離れて、希望と夢のなかで、その手は物事と出会う。〔…〕このメソッドの実践は、世界を記述したり、それを表象したりすることを意味しない。そこで現在生じていることに次々に即応できるように、知覚を研ぎすませることであり、すなわち、世界との関係を調整することである。ここではそれを「応答」と呼びたい。(引用:『メイキング 人類学・考古学・芸術・建築』 ティム・インゴルド 金子遊・水野友美子・小林耕二 訳 pp27)
インゴルドはつくる過程における感覚や知覚を重視します。
つくることは、明確なイメージを物体に落とし込むプロジェクトとして捉えられがちですが、実際には、感覚と素材・状況が絡み合って成長していく生成のプロセスなのではないだろうかとインゴルドは言います。
つくることのプロセスは〔…〕通り道に沿って進路を進むことである。その進路では、目的地をつねに踏み越していく道程の上で、個別の部分はひとつ前の状態から成長し、次の状態に生成していく。(引用:前掲書 pp103)
つくることを通して道が開けていく(見通しが立つ)というのは、まさに「Predicting the Future by Making」といえます。
現代において、複雑な世界を知り、不確実な未来を見通すことは容易ではありません。
近代以降半ば自明視されていた自然科学や資本主義経済の成長の論理に、綻びが出始めていることが一つの要因ではないでしょうか。
世界を分解し、カテゴライズし、単純化し、合理化しようとする試みが、分化と統合を激しく繰り返す現代社会を前に失効してしまっているとも言えるでしょう。
つくることは複雑な世界を複雑なままに捉える方法論です。我々は常に歩くことを通して道を開き、つくることを通して世界との関係性を結んできました。つくることを通して考えるという「探求の技術」を意識的に実践することは、今後さらに重要度を増していくのではないかと感じます。
話がやや大きく広がりすぎてしまいましたが、改めて「つくること」の意義について思いを巡らせることができた講演でした。
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