武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダーシップコース クリエイティブリーダーシップ特論 第2回(2021/04/19)

このnoteは武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダーシップコースの授業の一環として書かれたものです。

クリエイティブリーダーシップ特論 第2回(2021/04/19)
講師:岩渕正樹さん


1984年生まれ、東京出身。巣鴨中学校・高等学校、東京大学工学部、同大学院学際情報学府修了後、IBMDesignでの社会人経験を経て、2018年より渡米し、2020年5月にパーソンズ美術大学修(MFA/Design&Technology)。
デザイン思考の「次」、22世紀のためのデザイン、をライフワークとし、現在はNYを拠点に、Transition Design等の社会規模の文化・ビジョンのデザインに向けた学際的な研究・論文発表(Pivot Conf., 2020)の他、パーソンズ美術大学非常勤講師、Teknikio(ブルックリン)サービスデザイナー、Artrigger(東京)CXO等、研究者・実践者・教育者として日米で最新デザイン理論と実践の橋渡しに従事。
https://note.com/iwabm/n/n528f4aff196f

岩渕さんはパーソンズ美術大学にてスペキュラティヴ・デザインなどを学んだのち、デザイン理論の実践や教育活動などを行われております。

 スペキュラティヴ・デザインとはRCA(Royal College of Art)で教鞭を執っていたアンソニー・ダンとフィオナ・レイビーが提唱した概念。従来のデザインとは異なり、問いの解決ではなく「問いの提起」を目的とする。実現しうる未来に向けた、思索的なデザインアプローチ


今回は「Social Dreaming through Design」というテーマで「夢」を起点とした未来へのアプローチについてご講演頂きました。

Vision or Dream

未来志向の思考法としてビジョンドリブンのアプローチが有名ですが、岩渕さんはあえて「Dream」という言葉を使います。夢はビジョンに先立ち(Vision comes from Dream)、かつ誰でも持ちうるものであるからだといいます。ビジョン(ドリブン)というとどうしてもビジネスとの繋がりを感じさせますが、「夢」はビジネスの文脈に関わらずより広く世界について想像することを意味しています。

夢は希望に成り下がった?

岩渕さんは、ダン&レイビーが『スペキュラティヴ・デザイン』に記した次のような問いかけに衝撃を受けたと言います。彼らは、今や夢は希望に成り下がってしまったのではないか、と問いかけるのです。人新世とも言われるこの環境において我々が夢を描くことは難しく、「人類が絶滅しないように」などといった淡い希望を抱くのみになってしまったと。しかし、逆説的ではありますが、だからこそ夢を持つことが重要なのです。

夢の手ざわり

「夢」とは未来や可能性に開かれたものですが、テクノロジーの進歩という狭い様相を見るのではなく、人文知なども踏まえたより広範な「夢」を描くことが重要だと岩渕さんは述べます。とはいいつつも、あまりに自由に膨らませすぎると、ファンタジーやエンタメになってしまいます。あくまでありうべき未来に向けた思索である以上、なんらかの形を伴っている必要があるといいます。形を伴うということがまさに「through Design」であり、アートと異なる点になります。ここでいう形とは、物理的な形状というより、現実感・実体・手ざわりなどと考えるべきでしょう。

夢想/アブダクション

テクノロジーとの関連について、誰の言葉だったか、次のような言葉を思い出しました。(記憶は朧げ、あやふやです…)

あの丘の向こうに住めるところはあるだろうか?と考えるのが科学(Science)であり、住まう方法を構築するのが科学技術(Technology)である。

科学もまさに「問い」や「夢」から始まる学問であり、テクノロジーはそれを現実に落とし込む解決策であるという話は、冒頭で述べた問題提起/問題解決とも繋がります。

そしてもう一つ頭に浮かんだのがパースが提唱したアブダクションという概念。仮説的推論などと訳されるこの概念は、演繹や帰納といった思考法に並ぶ第三の推論であり、科学の発見においてとりわけ重要な効果を発揮するとされます。ニュートンによる万有引力の発見も、ケプラーによる惑星の楕円運動に関する法則の発見も、まずもって「仮説」が駆動したのです。現実世界を深く洞察することで、世界についての説明を導き出すという姿勢が、偉大な発見に繋がったとされます。
パースはこのようなアブダクションについて、考えうる可能性に開かれた「拡張的」な推論であるといいますが、これはまさにありうる世界を探求する「思索的(スペキュラティヴ)」な態度です。「夢」と「仮説」を半ば強引に繋げて考えてみましたが、パースが有力な仮説を選定するための条件として上げている4項目も示唆的です。それはもっともらしさ、検証可能性、単純性、(思考の)経済性です。つまり、良い仮説とはある種の「手ざわり」があるのです。そして、そのような人間には仮説を導き出す能力が本能的に備わっているとパースは述べます。

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Be a Dreamer

講演の締め言葉は「Be a Dreamer」。「夢」を持つことこそが、社会や経済、環境にはびこるニヒリズムに打ち勝つ起動力になるのだ、という強いメッセージを受け取ったように感じました。


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