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かきかけのLink -1 

*自分がかつて若造だった古の頃書いた小説を発掘したのでちょっとずつ載せる(手直しあり)


その惑星には、とても大きな書庫があった。

ありとあらゆる言語で書かれた、ありとあらゆる本が、そこにはあった。
町ひとつ分、いやそれ以上はあろうかと思われるほどの大きな書庫。
カテゴリーごとに分類された本は、その一つのカテゴリー内だけでも、端から端まで歩いて辿ればずいぶん時間がかかるだろう。
また、書庫内のみに張り巡らされたネットワークには、そこにある本の何十倍、いやもはやどれくらいの量かもわからないほどの本の電子データが収められていた。そのすべてを読みきろうと思っても、人の一生の長さではとてもすべてを読みきることはできないだろう。

しかしそのすべてを、読み終えようとしている人間がいた。その書庫にたった一人取り残された、ある一人の女だ。
ソファーにたたずむその女の手には、最後の本。その指はすでに最後のページを導こうとしている。が、なかなかそれを捲ろうとはしない。
彼女の脳もまた、文章など追ってはいなかった。ただ、並べられた文字列を、その目で眺めているにすぎない。もう何時間もそうして、彼女は過ごしていた。寝ているわけではない、死んでいるわけでもない。腹も減っていなければ心が病んでいるわけでもない。ただ彼女は、その最後のページを捲ろうとはしなかった。
なぜ捲れないか、なぜその指が動こうとしないのか、それは彼女にもわからない。けれど、ただひたすらに本を読み続けた歳月はあまりにも長く、それゆえにその「なぜ」に答えを見出すことも出来ず、それゆえにおそらく最後のページを捲れないのだ。

彼女がその書庫に、いやその惑星にたった一人で取り残されてから、どれほどの時間が流れたのだろうか。時間・・・時代と言ってしまえるほどの長い時間を、彼女は一人で過ごしていた。
しかしそれも、終わりを迎えようとしていた。その惑星に残された、最後の命。今ここで命尽きようとも、それでかまわないと彼女は思った。

いつだったか、この『時の流れない身体』を手に入れてしまってから、それでも彼女は生きることを選び、裏切られ傷つけられ・・・最後にここに一人取り残されてからも、生へしがみつく事をやめることが出来なかった。
―――なぜそうまでして、生きようとしていたのだろう?
その理由を、彼女はもう思い出せなかった。
ここで一人死んでいくのもいいだろう。このまま、静かに、目を閉じて死んでいけたらそれでいい。
本を閉じて、静かに目を閉じる。そうして浮かぶ風景も鮮明さを失っていくけれど、それでも彼女の心には、いくつかの思い出が駆け巡った。


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