うそ子の話145

〘 超短編小説…ある喫茶店での話〙

とある町の
小さな小さな喫茶店。
どんな店にでもいる常連のお客様。
そんなある2人の常連さまのお話。

彼女はとても可愛らしい女性。
愛嬌があると言えばいいのか
彼女がこの店にやってくるようになり
1年半ちかく、沢山の話を聞いたし
時々知人連れでやってきてくれたり
お店を好きで大切にしてくれている。
彼女のあだ名は、
〘ねこ 〙ちゃん。

そしていつも窓際の席に座る
グレイヘアーが似合う男性。
彼はそうしょっちゅくるわけではないけれど
思い出したようにあらわれ、
あらわれてからしばらくはまめに通ってくれ、
また、ふっと来なくなる。
それの繰り返しで
かれこれ、5年ほど通ってくれている。
彼の名前は、
〘オウム 〙さん。

何故、この2人の話をしたのかと言うと、
小さな喫茶店の常連さま。
この2人が一緒になることがあり、
かなりの時間一緒に店内にいるというのに
2人はちっとも仲良くならないのが
マスターの私としては
不思議でならなかったからだ。

猫ちゃんも、
オウムさんも
とても気さくで
話しかけられれば誰とだって
にこやかにほがらかに話す。

猫ちゃんに至っては、仲良くなると
初対面でもすぐに携帯電話を取りだし、
写メを撮ったりしているのに。

年齢も性別も気にしない2人なのに
2人の距離だけは
縮まらないことが不思議でならなかった。

あるとき、
思いきって、ねこちゃんに聞いてみた。

〘 オウムさんと話さないのは、
なんでだい?〙

〘 え?そんなことないよ。
何度か話したよ。〙

〘そうだったんだね。知らなかった。
あまり仲良くみえないから。 〙

〘 うーん。だって、つまらないから。〙

〘 え?〙

〘 オウムさんって、さすが、オウムさんだな。って。
だって、他人の話しかしないもの。
噂話だけじゃなくて、他人から聞いた話しか
しないから。〙

〘 なるほど、、、、。〙

それから数日して、オウムさんがやってきたときに
猫ちゃんのことも聞いてみた。

〘 オウムさんは、猫ちゃんとは
仲良くないのですか?〙

〘 そんなことはないよ。
楽しい可愛い子だとおもう。
僕は彼女を好きだよ。〙

〘 そうなんですね、、、〙

マスターは、黙ってグラスを磨くのに
専念する振りをして考えていた。

なるほどね。

猫ちゃんは、とにかく多趣味で
そのあだ名にふさわしく気まぐれに
興味の対象もコロコロかわる。
よく動き回り、追いかけ回し、
すぐ飽きて、またすぐ新しい玩具(マイブーム)を
見つけ出す。

オウムさんは、時々しかやってこないぶん、
溜め込んだ噂話や、周りの人々や社会の変化など
とにかく情報を話したがる。

オウムさんが、ふいに口をひらく。

〘猫ちゃんは、僕のこと
眼中になんてないんでしょうがね。 〙

マスターは、黙ったまま、
ふいていたグラスと共に
ちょっと首を傾げてみせた。

〘そうそう。
猫って、動体視力がすごくいいから、
動いてるものに興味を示すらしいですよ。 〙

そう言おうかとおもったが、
マスターは言葉を飲み込んだ。

とある町の小さな喫茶店。
窓際に座る常連さまの
いつもホットコーヒーしか
飲まないオウムさん。
それは、あまりにも絵になるので
そんなお客様を失う訳にはいかないと
思ったのだ。

〘言わぬが華。ということもありますね、、 〙
1人、心で呟いて
マスターは、オウムさんに
コーヒーのおかわりをいれた。

〘 今日は、心ばかりのサービスです。
また、来てくださいね〙

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