Q.E.D.〜証明終了〜
Q.E.D.〜証明終了〜
あぁ、やってしまった。
自分じゃどうしようもない。ってわかっていても、
つい、やってしまった。
どうしようもできないイライラを、目の前の恋人にぶつけてしまったのだ。
理論は大切だった。
昔から、裏付けがないことはあまり好きではなかったし、
あんまり見ないようにしていた。
数式に基づく世界は美しい。
とてもシンプルな公式に当てはめれば、
答えは最短の距離でやってくる。
きちんと証明された物事でないと、
その扱いに困ってしまう。
なのに、時折やってくるどうしようもない感情は、いつも証明ができなくて、
私は大人なんだから、自分でなんとかしなくては。と、
心の揺れ具合を抑えようとしているのに、時折どうしても抑えきれなかったものが、
ぽたぽたとあふれてきてしまう。
そんな私をいつも恋人は優しく受け止めてくれることばかりで、
そんな自分が時々、嫌になってしまう。
こんなめんどくさい私とどうして付き合ってくれるのだろう?
女性特有のホルモンバランスともまたちがう、日々の心の揺れ。
29歳ごろは何をやってもうまくいかなくて、
どうして私ばっかり。と、恋人のやさしさに付け込んで、
散々泣きわめいた日々だってあった。
「僕には人生の羅針盤があるんだ。」
そう笑って話すのは、
どうしようも行き場のないこの感情を私からぶつけられてしまった彼。
残念ながら今週とてつもなく仕事が忙しかった私のアパートの冷蔵庫には
サラダチキンとカニカマと乳酸飲料しかなくて、
料理とかそんな得意じゃないし、
もともと彼だって私に料理してほしいとかそういう期待をもってないから、
「ちょっと散歩でもしよう。」と夜の散歩に誘ってくれた彼と、
二人でコンビニでお弁当買って、缶ビール買って、今週発売の新作デザート買って、
で、アパートまで数分の道のりを歩いている時だった。
「もともと姉が好きだったんだけどね。」
と話し出す彼には『星占い』という人生の羅針盤があるという。
「その、なんていうかな?星占い。って理論派の君からしたら掴みどころがないもの。ってイメージがあるかもしれないけど、そんなことはなくて、きちんとした理論に基づいているんだ。」
まぁ、言ってみれば、星占いによって人生は証明されるんだよ。
だから、あぁ、今日はちょっと気持ちが落ちやすいね。とか、
仕事でミスが起こりやすいから、メールはマメにチェックしよう。とか
そういった心構えができるんだ。
君が、苛立ったり、何をやっても思った通りにならなくて、苦しくなっちゃうことも、
星はみんな知っている。
そしてそれを僕が学ぶことによって君の状態も知ることができる。
だから僕たちは星によって生かされているんだ。
ほら、Q.E.D.だね。
最後に《Q.E.D.》証明終了を持ってくるあたりが、
さすが私の恋人と言わざる得なかったが、
片手にコンビニの袋を持ち、
もう片方の手で私の手をつないでくれる彼の笑顔を見て、
なんだかおもしろそうだね。
と、ふふふっ。って二人で笑いあった。
感情は揺れる。
月の満ち欠けのように。
波打つその感情にいちいち振り回されたくない。
人生は巡る。
大海原に航海に出た船のように。
手には羅針盤。
そう、星占いという名の、
私だけの道しるべ。
証明されたものを信じるなら、
彼へのこの気持ちも羅針盤の一部。
Q.E.D.
証明終了。
あとは星の力を信じるだけ。
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