【短編小説】失恋マスク
家から駅まで徒歩10分ほどの道のり。
駅に向かって歩く人たちの口元を、目だけ動かしてチェックする。
マスクしてる、してない、してる、してる、してない・・・・・・
ここ3年、顔の下半分をマスクで覆った顔ばかり見続けてきたから、口元があらわになっている人を見ると変な恥ずかしさを覚える。見知らぬ人のセミヌードを見ちゃったみたいな。
新型コロナが流行する少し前。私は人生2度目の恋をしていた。
「唇、イチゴみたいで可愛いね」
彼は会うたび私の唇を褒めた。私は両頬に手を当て、高めの甘