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短編小説の棚

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1話完結の短編小説を並べています。気になるタイトルがありましたら、手を伸ばしてみてください(*^^*)♪
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【短編小説】ズブロッカの男

水曜日。 今夜も彼はやってくるだろうか? カクテルグラスを拭きながら、「BAR BLUE」のオーナーバーテンダー大久保は考えていた。 あの「ズブロッカの男」のことを。 1 謎の男 ごく普通のサラリーマンだった大久保が、脱サラしてBARをオープンしたのは8年前のこと。オープン当初は「1年もったら盛大に祝ってやるよ」などと元同僚たちから嫌味たっぷりに笑われた。口下手な大久保は腹の中では奴らをぶん殴りながら、反論もせずヘラヘラと苦笑いを返していた。 月日は人を変化させ、環

【短編小説】失恋マスク

家から駅まで徒歩10分ほどの道のり。 駅に向かって歩く人たちの口元を、目だけ動かしてチェックする。 マスクしてる、してない、してる、してる、してない・・・・・・ ここ3年、顔の下半分をマスクで覆った顔ばかり見続けてきたから、口元があらわになっている人を見ると変な恥ずかしさを覚える。見知らぬ人のセミヌードを見ちゃったみたいな。 新型コロナが流行する少し前。私は人生2度目の恋をしていた。 「唇、イチゴみたいで可愛いね」 彼は会うたび私の唇を褒めた。私は両頬に手を当て、高めの甘

【短編小説】ブルームーン

「決めた。もう、終わりにしよう」 天井との話し合いに結論が出て、私は勢いよくベッドから起き上がった。 ****** 彼と出会ったのは15年前。 25歳の時、大阪支店から東京本社に異動してきた2つ上の先輩。関西弁の明るいノリが楽しくて、あっという間に恋に落ちたっけ。 2年後、彼が大阪に戻ることになって一時は遠距離恋愛に。 「東京大阪? 近い近い!」 彼はそう言って笑い飛ばしたけど、結局続かなくなって5年で別れた。 その後ずっと音信不通だったけど、彼が会社を辞めて独立すると

【短編小説】睡眠銀行

「本日は、夢枕劇場にご来館いただき誠にありがとうございます。間もなく上映開始時間です。お客様は席にお戻りください」 観客の群れが静かに移動を始める。 暗い会場内に小さく光る誘導灯を頼りに、観客たちは指定されたシートに次々と着席した。 桑の実色の分厚い幕が上がり、巨大なスクリーンが姿を現す。 【キャスト】 成瀬 直樹・・・・大学3年、睡眠学研究会所属 浅野 遥・・・・・大学3年、睡眠学研究会主宰 板橋 宗一郎・・・大学教授、睡眠学研究会顧問 渋谷 淳・・・・・大学4年

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