見出し画像

人生経験と良い音楽について

「人生経験の豊富さと演奏や作曲の良さは関係があるか」という話が定期的にツイッターで話題になります。

どうだろう?

この手の話の答えを私なりに考えたことがなかったので少し思考を巡らせていました。


良い演奏や作曲に繋がる点

演奏や作曲で人生経験が影響しそうな点は具体的にどこでしょう。

演奏だったら、表現力でしょうか。

私は演奏というのは演劇的な能力も必要だと思っていて、そういう方向の表現力。感情が適切に伝えられる演奏をする能力。

悲しい曲を表現するさいに、いろいろな悲しみを知っていて、なおかつそれを演奏に落とし込めれば、表現力は上がるのではないでしょうか。
悲しい曲をすべて同じ「悲しさ」で表現する人よりも、大切な人が死んでしまった悲しさから、お菓子のパッケージが上手く開けられなかった日の悲しさまで、さまざまな「悲しさ」を使い分けられる人のほうが表現が豊かといえます。


作曲だったら、発想力でしょうか。

たとえば海をテーマに作曲するさいに、写真でしか海を見たことがない人は、青くて広いらしい、きれいらしい……と発想の限界があります。一方で人生経験で海の思い出があれば発想の解像度は上がるでしょう。

「中学生のころの夏休み、幼馴染の友達と海に行った思い出。彼女と一緒に遠出したのはそれが最初で最後だったけど、その時はずっと友達でいるのだと思っていた。太陽の光で波が輝き、永遠の夏の日のような海……」と人生経験で掘り下げればかなり具体的で複雑な発想ができます。

そう考えれば人生経験が良い演奏や作曲に繋がるということは十分にあり得ます。


人生経験があれば必ず良くなるか?

かといって人生経験が豊富でも、落とし込む力がなければ当然反映されないので、人生経験さえあれば必ず良くなるとはいえません。

人生経験が豊富というのは、その人の庭先に「おいしい野菜」が生えているということであって、実際の演奏や作曲という「料理する」工程によっておいしくもイマイチにもなるからです。

料理がうまい人ならおいしい野菜がさらにおいしくなりますが、料理がとんでもなく下手だったらいくら野菜がおいしくても……、うん、場合によっては食べられないものができる可能性も。

この場合の料理が指すのは、技術力とセンスです。
努力によるものも大きいですが、もともとの素質や筋の良さ、美的感覚も含まれると思います。


人生経験が少ないと良くならないのか?

料理に例えれば、食材というのは何も本人の人生経験だけではありません。
自分が持っていない食材を労力をかけて買ってくることもできるでしょう。

演奏なら、さまざまな「悲しい」演奏を注意深く聞くことでも「悲しさ」のバリエーションを学ぶことができます。演奏以外でも、小説や漫画や絵からも学べるはずです。
作曲も同様です。

さらには芸術以外でも、本などの知識が役立つこともあるでしょう。

いろいろな人と出会い交流し、話を聞くことで学ぶこともあります。

西野カナさんは、共感できる歌詞を周りの人の話を調べあげて作っているといわれています。賛否両論ありますが、私はひとつの良い作り方のかたちだと思います。


料理の例えに戻りますが、食材は少ないのに料理のレパートリーがずば抜けているような良い音楽もあります。
庭先には普通の野菜しかないけど、食べ応えのある野菜だけのフルコースを作れて、それが評価されるような場合です。

演奏だったら、大切な人が死んでしまったことはないが他の体験から想像して表現豊かにできるとか。作曲だったら、ありふれた日常から斬新な発想を汲み取ることができるなどです。


人はエピソードに弱い

また、違う方向から考えてみます。
作曲や演奏と人生経験が結びつけられる理由のひとつに、人はエピソードに弱いから、という点も考えられます。

昔テレビで二本指のピアニスト、イ・ヒアさんを知ったとき、感動しました。これは演奏の素晴らしさもありますが、二本指で五本指の人と同じ曲を弾きこなす、というエピソードに感動している部分も大きいでしょう。


作曲も、制作の裏話を読んだりインタビューを読んだりしてより好きになることもありますよね。そうじゃなければ、こんなに制作の話やインタビューの記事はないはずです。

そういうエピソードを含めて感動する経験から、良い演奏や作曲をする人にはすごいエピソード(人生経験)がある! というイメージがついている可能性があります。

この場合のエピソードは例えるならお店の雰囲気や、食器や、盛り付けでしょうか。
おしゃれな部屋でおしゃれな食器にきれいに盛りつけてあったらよりおいしく感じますもんね。
高級レストランの料理も、薄汚れた部屋で食べたら印象が違うかもしれません。


まとめ

人生経験が豊富なら有利だけれど、それだけで音楽の良し悪しが決まることはない、というのが私の出した結論です。

料理のおいしさはひとつの食材のおいしさだけで決まるわけではないように、人生経験が豊富だからといって必ずしも良い音楽になるわけではなく、逆に人生経験が少ないから良い音楽ができないことはない。人生経験は食材のひとつに過ぎません。

おいしい料理のような音楽、作っていきたいですね。


お口に合えば、一曲聴いていってください!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?