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Weekly Quest 2022年3月7日号<ウクライナ危機とアメリカ経済>

毎週月曜日にWeekly Questと称し旬な話題を深く掘り下げて投資のヒントにしていければと思います。


ウクライナ危機とアメリカ経済


早いもので3月になりました。毎日色々なことが起きていてあっという間に時間が過ぎていってしまいます。

2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻を開始いたしました。当初は「短期間で終わる」、「ロシア軍はすぐに引き返す」、「戦争をするはずがない」と言った楽観論が非常に多く心配していましたが案の定その予想が外れ、事態は深刻化の一途を辿っています。相場観もそうですが、楽観論は常に外れ事態を深刻化させてしまいます。

今月は<ウクライナ危機とアメリカ経済>と題し泥沼化しそうな今回の侵攻がアメリカ経済にどのような影響を及ぼすのかを考えていきたいと思います。


インフレ懸念


先週発表になった雇用統計は改善をみたものの相変わらず完全雇用には程遠く以前から指摘している労働力不足がまだ改善されていません。この労働力不足こそがインフレの原因となっており改善の余地がない中でロシアのウクライナ侵攻が始まってしまったのですから、アメリカ経済にとって良いわけがありません。

今後のアメリカのインフレ動向についてもっとも重要なものが”原油価格”です。

(WTI先物の推移。CNBCより引用)

アメリカ政府は原油備蓄の放出を決定し各国も追従しようとしていますが、肝心のサウジアラビアは ”全地域向け原油販売価格引き上げ” を決定しました。欧米に追従して供給量を引き上げるのかと思いきや、販売価格を引き上げると言うことで、足並みが揃っていません。さらにアメリカ政府はイランやベネズエラの経済制裁を解除して原油を流通させようとしていますが、議会が承認するかどうか不透明で効果があるとは思えません。物価には最大の影響を及ぼすのが原油ですから今後のインフレ動向もこれで決まると言って良いと思います。

その中で原油価格の上昇によりいちばん影響を受けるのが「ガソリン価格」です。アメリカではガソリン価格が1セント上昇すると年間の個人消費が10億ドル変化すると言われています。実際のガソリン価格の推移を見てみましょう。


アメリカは広大ですから場所によってガソリン価格のばらつきがありますが、カリフォルニアではすでに1ガロンあたり$5を超える大幅上昇 になってきており、家計にも物流にも今後大きく影響が出てくるのではないかと思います。

こういった動きについて当のアメリカ人は「民主国家守るためならガソリン高騰構わない」といった姿勢です。しかしこれは「戦闘が短期で終結」するという前提で言っているんだろうと思いますので、戦闘が長期化した場合にアメリカ人がこんな態度でいられるのかどうか甚だ疑問です。

現在アメリカはサウジアラビアを超えて世界一の原油埋蔵国になっていますが、輸入では世界第2位です。ちなみに世界4位の原油輸出国ですが、価格の上昇は物価高に直結しておりただでさえコロナの影響で物価が上昇している中で、ここにきてのさらなる価格上昇は経済にとっては良いはずがありません。さらに現在ロシア産の原油の輸入も禁止しようという制裁をアメリカ政府は検討中です。ロシア産の原油の買い手が少ないため価格も非常に安くなっているということで、これを大量に買っているのが中国です。中国はロシアとSwift以外にネットワークを持っていますので、不都合はあまりないのではないかと思われます。こういったことでロシア産の原油輸入規制をかけると中国との兼ね合いも気になるところです。

今回のウクライナ侵攻を受けてFRBが「金融引き締めをやめるのではないか」との観測が流れましたが、インフレ進行をうけてそのシナリオもないと思います。こんな状況で引き締めをやらないとますますインフレを助長することになってしまいます。

今後アメリカ経済にとって事態が好転するためには、「ロシアがウクライナ侵攻をやめて軍がロシアに帰る」、「産油国が協調して備蓄を最大限放出し価格安定と沈静化をはかる」ですが、こちらも現状では現実的ではありません。


(ブレイクイーブンインフレ率)

これはブレイクイーブンインフレ率と呼ばれるものですが、債券市場のデータを元に算出された期待インフレ率です。Break Even Inflation rateの頭文字をとってBEIと省略されることもあります。市場がどの程度の物価上昇を見込んでいるかを示すデータです。このグラフでは2月末時点のデーターが表示されていませんが概ね3.11%となっており、3月4日時点では3.19%になっています。FRBが物価目標としている2%を段々と超えてきています。

まずは原油価格とインフレについて簡単にみてみましたが、事態がすぐに好転するとは考えにくくロシア軍の侵攻も長期化の可能性がありインフレもすぐには沈静化せずに上昇していくことが予想されます。今月のアメリカのCPIは気になりますがウクライナ情勢のよるものがどのぐらい織り込まれた数字なのかを考えると、来月のCPIこそ重要な指標になってくるでしょう。

最後までお読みいただきありがとうございました。