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Weekly Quest 2021年12月13日号

毎週月曜日にWeekly Questと称し旬な話題を深く掘り下げて投資のヒントにしていければと思います。

米国株暴落の歴史を学ぶ


今月は米国株式市場において過去に起こった株式の大暴落を大まかに4つに分けてどのような暴落であったかを簡単に見ていきたいと思います。

①1929年10月 ウォール街大暴落 下落率35%

(Wikipediaより引用)


まずは1929年10月に起きたウォール街大暴落を見ていきたいと思います。この頃の米国は好景気でした。輸送において鉄道が自動車に置き換わり、石炭は電気に置き換わり、ガソリンが普及するようになりました。なかでも重要なのが電気と電話の普及でした。またラジオが普及し始めたのもこの頃でした。

1930年に行ったフォード従業員100家族の調査を見てみると平均年収は$1700、自動車は47家族が所有(フォードは従業員が自動車を買えるようにならなければならないという方針のもと、賃金を積極的に引き上げていきました)、ラジオは36家族が所有していました。また住宅建設は1925〜26年がピークとなりました。

ちなみにこの頃のGMは年間に190万台の自動車を販売し負債額ゼロ、保有キャッシュが1.27億ドル、年間の利益が2.47億ドルもあった企業でした。今ではとても想像つかないですね笑

消費活動の活発化による好景気を背景に都市部だけではなく郊外にも住宅建築の波が押し寄るようになり、フロリダに不動産ブームが訪れます。このブームはどんどん拡大し「手付証書」なるものが発行されるようになります。これは頭金として住宅価格の10%の資金で住宅を買うことができる証書で、転売が可能で証書の価値が値上がりすれば売却することも可能な証書でしたが、ブームの終わりにはこの転売がほとんどになっていました。

株式市場もこの好景気に湧き一大ブームになっていきます。それまでは株式に縁がなかったような人たちが株式投資に興味を持ち始めました。株価が上昇を続け一般大衆の隅々まで株式への関心が高まり「ウォール街の靴磨きの少年まで株価の話をしていた」ほどだったとのことです。

不動産でも見られたように当然株式も「投機的」な動きが加速していきます。1928年の株式市場の取引で現金取引が60%、信用取引(証拠金取引)が40%を占めるようになりました。

これには特に電話の普及が大きく株式市場に影響したのではないかと思います。電話の普及率は1900年〜1920年のあいだに10倍ぐらいに拡大しています。直接証券会社に電話して売買ができるようになったということです。

さらにレバレッジをかけた取引も拡大していきました。それをさらに拡大させたのが投資信託(会社型投資信託)の登場でした。投資信託は「広範囲なポートフォリオを巧みに運用してリスク分散を図っているため株価の下落はあるとしても市場の崩壊はあり得ない」などという謳い文句を掲げて販売を拡大していきました。

このような有様を見て当時のFRBが警戒感を持ち始め公定歩合を引き上げ始めます。投機抑制のための利上げが行われるようになりました。1928年2月に3.5%から4%、5月に4%から4.5%、7月には4.5%から5%へと金利を引き上げました。

金利を引き上げるということは証拠金取引の金利も引き上がることになります。株式の配当を考慮しても「カネを借りてまで運用するメリット」がなくなってきました。そしてアメリカ経済もピークを迎えます。1929年10月19日あたりからそろりそろりと株価は下落し始めましたが、当時の商務長官の「政府予算不足発言」をきっかけに一気に下落し始めます。そして10月24日あたりから売り気配になり値段がつかない状態が起こり始めました。そして10月29日を迎えることになります。この下落は1932年6月まで続くことになりました。この株価の下落が世界恐慌を引き起こしました。

この流れを見ているといくつかの重要なポイントがあります。このポイントは今後の暴落にも共通する要素となります。

・金利の引き上げ
・投機を可能にする新技術・・・電話の普及や不動産における「手付証書」
・投機の拡大・・・証拠金取引と投資信託の拡大

当時のことについて書かれた文献を読むとよくわかりますが、上記の要素以外に投資家の姿勢にも特徴が見られます。それは「ブームが終わることをなかなか認めようとしない」ということもありました。「株価は買えば必ず上昇する」、「下げた株価は必ず上昇する」という考えに取り憑かれた投資家のみならず政治家や企業、銀行などがこぞって強気姿勢を続けたこと、いわゆるEuphoriaが正しい判断を遅らせ大惨事を招いたということになります。

次回は暴落のその②1987年10月 ブラックマンデーを見ていきたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

バックナンバー:Weekly Quest 2021年12月6日号

参考文献
・アメリカ経済の歴史 1492-1993/ 東京大学出版
・お金は「歴史」で儲けなさい/ 朝日文庫
・[新版] バブルの物語/ ダイヤモンド社
・大暴落 1929/ 日経BP
・世界恐慌 1929年に何が起こったか/ 講談社学術文庫