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Weekly Quest <PERはどう?>

(2022年12月19日号)


毎週月曜日にWeekly Questと称し旬な話題を深く掘り下げて投資のヒントにしていければと思います。


先週はCPIの発表に端を発した楽観論で上昇するかと思いきや、FOMCも終了し金融政策自体は予想通りで完全に否定された市況になりました。しかしこの期に及んでもまだ楽観的な投資家が多いのはアメリカ人の気質なんでしょうか。


株価は割安なのか?


いつの間にか ”現状どうでしょう” シリーズになってしまいましたが、今週はPER(株価収益率)からみた現在と今後の株価を確認していきたいと思います。

確認ですがPER(株価収益率)とは株価がEPS(一株当たり純利益)の何倍買われているのかを見る指標です。

PER(株価収益率)=株価➗EPS(一株あたり純利益)
Price / Earning Ratio
 

EPS(一株あたり純利益)とは企業の年間の純利益額を発行済み株式数で割った数字です。Earning Per Shareの略です。

例えばPERが20倍ということは20年間分の利益を織り込んだ株価ということになります。2000年のITバブル時はPERが1000倍以上というのがほとんどでした。1000年分の利益を織り込んだということになりましたが、1000年どころか1年後にはなくなった企業がほとんどでした。

さすがにPERでは株価が測定できなくなってしまったので代わりになるEBITDAやEVなどという指標も出てきましたが、目盛りの大きさが違う定規で測定するようなものでした。従来の尺度と併用するどころか数値が小さくなる尺度で株価が割安だと言っていましたが、結果はご存知の通りでした。

ちなみに赤字会社だと日本ではあまり表記を見かけませんが、米国株ではマイナス表記になります(表示しないサイトもある)。PERの実際の表記をCNBCから引用して見てみます。



これは12月15日現在のTeslaのPER/FwdPE/EPS(赤ライン)を表示しています。Fwd PEとはForward PERの略で次の12ヶ月の予想PERを示しています。おおよそ来年の予想PERと考えて良いと思います。決算発表で来年度の予想を発表していますのでそれをもとに計算しているものです。当然ですが株価によって日々変わります。

上図のTeslaだと今期はPERが48倍、来期は29倍ですから来期は今期よりも純利益が増加するためにPERが下がるということになります。利益が増えるので株価も今期並みに上昇(PER48倍)し再び買われるとすれば逆算するとEPSは5.4ドルぐらいになりますので理論株価は260ドルになります。

今期:PER48倍=株価(157.67ドル)➗EPS(3.25)
来期:PER29倍→48倍=株価(X)➗来期EPS(5.4)*
  * = 157.67÷29=5.4
X = 260ドル

利益が順当に増え株価が将来にわたって割安と判断した場合の仮説ですが、しかし、こんなものはあくまでも理論上の計算に過ぎません。そもそも本当に来年に予想通り純利益が増益になるという保証はありません。

Teslaの車が飛ぶように売れるという保証もありませんし、今期の受注状況や生産状況から「何事も起きなければ、だいたいこんなもんだろう」として計算したものです。これが実際の決算を見て「予想より少なかった」ということになると株価は大きく売られるということになり、Teslaに限らず決算時にみなさんがよく見かける時間外で暴落(暴騰)ということになるのです。

簡単にPERとEPSの関係を見たうえで現状を確認するために代表的な指数であるSP500を見てみたいと思います。12月16日現在のSP500の現在のPERは18.91倍で、来期のFwd PERは17.83倍になっています。SP500指数は17年間分の利益を織り込んだ株価になっています。


来期予想とはSP500構成銘柄の来年の決算予想から割り出したものですが、これだけ見ると来期のSP500構成銘柄のEPSは6.8%ぐらいの増益になるということで来期PERが下がり今期よりも割安ということになります。今までの推移も見てみましょう。


(Yardeni Research,Incより引用)



この図によると過去にはForward PER(来期予想PER)がだいたい24倍が最高で、直近でも2020年から21年にかけて23〜24倍だったということになります。直近のお祭り騒ぎもあって上下していますが業績の悪化懸念から17倍台から再び上昇傾向にあります。

しかしながら、FRBによる今後の金融引締や賃金インフレなどを考えると、個人的には今後は増益すら危ういのではないかと思っています。

そこでまずSP500指数の構成を確認して見ます。SP500の各業種の構成比率をみると情報技術が27.4%、ヘルスケアが14.1%、一般消費財が11.6%で構成されこの3つの業種で53%になりほぼ半分を占めるということになります。

この3つの業種の来期のForward PER を見て見ると、情報技術:20.8倍、ヘルスケア:17.6倍、一般消費財:22.1倍となっています。このなかで情報技術関連のForward PERについて考えて見たいと思います。まずは以下の推移をご覧ください。



これはYardeni Research, Inc.より引用したForward PERの今までの推移になります。

情報技術セクターのForward PER:20.8倍

IT関連のForward PERは20.8倍となっていますが、概ね20年後までの利益を織り込んだ株価ということになります。このなかでもApplication Software部門が25.7倍となっています。

そもそもIT業界では技術の推移が速く20年後なんてどうなっているのかわかりません。PER20倍や25倍が正しいのかどうかも疑問です。特に半導体については余程の劇的な構造変化が起きない限り性能の向上は望めないのではないかと思います。

例えばIntelの今期PERが8倍であることが正解なのではないかと思います。ちなみに来期のIntelの予想PERは19倍ですが、最近コロナ禍の半導体不足を補う設備投資拡大のツケが回り始め需給がおかしくなってきていることによる減益を示唆しています(要はPERが一桁に下がるまで株価が下がる可能性があるという意味)。

クラウドは安定しているという声が聞こえてきそうですが、企業の本業が景気後退等で儲からなくなってくると、設備投資も削減されることが予想されますので、やはりまだまだ割高なのではないかと思います。

情報セクターに限らず、おそらく他のセクターも似たり寄ったりな状況になると思います。景気後退時のディフェンシブ・セクターやセクター・ローテーションはこの限りではないという意見がありますが、そんなものは一瞬の話であって1年経過してみるとやはりダメな時はダメというのが上図を見てもわかります。今までの歴史の流れから明らかなのです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ここに書いた記事は株価や将来を保証するものではありません。あくまでも投資は自己判断・自己責任でお願いいたします。