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Weekly Quest 2022年4月4日号<DPAとアメリカ>

毎週月曜日にWeekly Questと称し旬な話題を深く掘り下げて投資のヒントにしていければと思います。


DPA(Defense Production Act)とアメリカ


アメリカのバイデン大統領が、2022年3月31日に「バッテリーメタル生産拡大に国防生産法を発動する」と発表しました。EVを作るのに必要な希少金属を自国で賄うようにしようという内容です。DPAとは ”国防生産法” とよばれており、朝鮮戦争下で制定されたもので、政府に対して、緊急時に産業界を直接統制できる権限を付与する法律です。いままでにもたびたび発動されおり、最近ではコロナ禍でトランプ前大統領がGMに対して人工呼吸器の製造を命じたことなどはこの法律に基づくものでした。戦争だけではなく国家の存亡に係るような事象に対して発動されるもので、国が資金的なバックアップも行います。

当初は楽観的に考えられていたロシアによるウクライナ侵攻が勃発して1ヶ月が経過していますが、世界経済にじわじわと悪影響が出始めました。食糧や原材料価格の上昇、物資の調達や輸送に支障が出始めているのはご存じのとおりです。それが物価の上昇という形で出てきています。

マーケットの反応も経済的な負担からロシアが侵攻をやめるということを伝えるメディアもありますが、今回は「戦争が終わればハイおしまい」ということにはならないと思います。戦争が終結したからといって世界の主要な食糧を担うウクライナ経済がすぐに回復することはありませんし、世界に原料を供給しているロシアの経済破綻も不可避なのではないかと思います。プーチンがいなくなったとしてもロシアが世界的に失った信頼を回復できるのかが非常に疑わしいです。

戦争のコストを考えると現代ではもはやこういった身勝手極まりない軍事侵攻は起きないだろうという前提でいままで世界経済が動いてきましたので、その大前提が崩れた以上、政策や生活も変わっていくのは当然のことです。これはマーケットについても同じで、今までと同じような考え方に基づく投資も儲からなくなることを意味します。特にインデックス投資では今までのような利益を出すことは難しくなると思います。

今回バイデン大統領が発令したDPAはEV用のバッテリーを作るのに必要な希少金属を確保するという内容ですが、実はEVに限ったことではありません。兵器にも希少金属は利用されています。アメリカの希少金属政策を担うのはエネルギー省と国防総省の二つです。ニッケルについては先月のブログでも書きましたがロシアが10%のシェアを持っており埋蔵量では世界5位なのです。今回のDPAについてはニッケルも含めることになりましたが、対ロシアを考えると安全保障的にも当然のことだということができます。


他国に頼るわけにはいかない


コロナ禍では人手不足で原材料や食糧の物流に大きな支障が出たわけですが、今回はその根幹部分の問題になりました。

それは国防を担う兵器製造の原材料に関わる問題で、これはアメリカの安全保障に関わる大問題なのです。コロナ禍でも他国依存が問題になりいままでの前提が崩れてしまいその修復の最中なのですが、それは国同士が友好的な状況での話で、その中では安全保障の問題も目立ちにくかったのですが、非友好国から自国の製造業に関わる根幹資源、ましてや安全保障に関わる原料を調達するわけにはいかなくなってしまったのです。これは本当にアメリカにとって大問題になってしまったのです。

アメリカは希少金属について、対中国を想定して貿易を盾に供給を確保してきましたが、さすがに物理的な戦争は想定しておらず、いままで希少金属の供給問題について真剣に考えてきませんでした。ただ、最近ではEVなどに使われるモーター用の磁石(ネオジムなど)について実は2019年7月にトランプが希少金属の増産について拡大するように指示を出しています。しかし中国との戦争などという有事は想定していませんでした。中国に対し貿易制裁を盾に脅せば供給はなんとか間に合うだろうと考えていたのです。

その証拠としては1950年代以降アメリカ国内では希少金属鉱山が新規で操業していません。探鉱開発もほとんどやっていませんでした。希少金属の鉱山開発には最低でも10年かかると言われていますが、今回のバイデン大統領の対応は、今始めないと供給が途絶えるという最悪のシナリオを想定し始めたのではないかと思われます。

今回のDPAでEVがテーマになっていますが、これはおそらくそうしないといけない事情があるのではないかと思います。民主党はクリーンエネルギーを推進していますが、鉱山開発にはいままで共和党も含めて予算をつけることにはあまり前向きではありませんでした。しかし、今回の事態を受け方向性を変えざる得なくなりましたが、クリーンエネルギであるEVを中心にすれば政府としても補助金を出しやすくなります。

こういったことを受けて今後アメリカ国内での希少金属開発が補助金等の援助を受けながら加速化してくるのではないかと思います。今回のDPA発動でTeslaが恩恵を受けるのでは?と想定されますが、私は関係なしと思っています。車に必要な希少金属の値段が上昇しており、Teslaは最近販売価格を値上げしています。値上げにより販売台数が今後減少してくるのではないかと思います。

テスラ襲う資源高 「モデル3」値上げ幅、1年で120万円

当ブログで今月はこの希少金属探鉱開発に必要な技術などについて探っていきたいと思います。また、もう一つのテーマとして「希少金属のリサイクル」関連についても見ていきたいと思います。この希少金属のリサイクルはアメリカでいちばん遅れている分野だと言われていますので今後の成長性がこれから期待できるのではないでしょうか。次回から具体的な技術や個別銘柄を考えていきたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。