THE 戦闘員 第6話
【ケンカ 息子にバレる ダイナミックな走りで追いつけない 再会】
「はい。…ええ、そうですけど。…え?正利が?…はい、今から向かいます」
小野剛は電話を切り、家を飛び出した。
小野剛は走った。正利が通っている小学校へ走った。パラパラと雨が降っていたが、傘もささずに走った。メロスのように走った。読んだことないけど、読んだことあります風に走った。もう一層のこと太宰治のように走ってみようか?そうしてるうちに学校に到着した。
小野剛は教室のドアを開けた。そこには先生だけがいた。担任の先生だ。
剛「息子が殴られたって本当ですか?」
先生「えーまあ」
剛「息子は?今、どこですか?」
先生「お父さん、落ち着いて。今、保健室ですから」
剛「正利ー」
小野剛は太宰治のように教室を飛び出そうとした。
先生「お父さん待って下さい。正利君は全然大したケガじゃないですから」
剛「え?」
先生「相手の方がボコボコでして。正利君が一発殴られたら、倍にして…いや5倍にして返すっていう感じですかね」
剛「あ、そうなんですか」
小野剛は嬉しそうな表情を浮かべた。
先生「何誇らしげなんですか?まあ、三人とも顔は腫れあがりましたが、骨折とか大きな事故にならなくてよかったです」
剛「え?1対3だったんですか?」
小野剛は嬉しそうな表情を浮かべた。
先生「お父さん!」
剛「すいません。でも原因は?」
先生「これです」
先生は原稿用紙を出した。何やら作文のようだ。『将来の夢』と書いてある。授業で発表したらしい。
他の生徒は夢がないのか恥ずかしいのかわからないが、もじもじしている。そんな中、正利は元気に手を挙げ、大きな声で読み上げた。
将来の夢。僕の夢は、お父さんみたいになることです。お父さんみたいに、強いサタンの戦闘員になりたいです。お父さんみたいに、仮面バスターをやっつけたいです。お父さんみたいに、結婚して、3年後嫁を寝取られたいです。
正利はバシッと読み切った。静まり返る教室。
先生「はい、拍手」
先生の号令のもと、教室はドッと盛り上がった。
これを発表した次の休み時間に事件は起こる。
正利の机の周りを3人の同級生が囲んだ。
「お前、何ウソついてんだよ」
ガムは噛んでいないがそんなイメージで同級生は言った。
正利「何が?」
同級生「お前の父ちゃんが強いわけねーだろ。怪人ならわかんねーけど、戦闘員なんて超弱いわ」
正利「そんなことないやい。毎回仮面バスターやっつけて帰ってきてるもん」
同級生「バーカ。もし、仮面バスターがやられてたらニュースになってるわ。お前見たことある?」他の同級生に振る。
「ない、ない」
「そんなんあるわけないだろ。だってこいつの父ちゃん、ウソ言ってんだから」
同級生3人は笑う。
同級生「このウソつき父ちゃんが!」
同級生は正利の机に置いてあった鉛筆箱を投げつけた。
正利の顔に当たった。正利は机をバンと叩き勢いよく立ち上がる。そして、同級生を睨みつけた。
同級生「なんだ、やんのか?」
同級生3人は構えた。
正利「1対3なんて卑怯だな」
同級生「仮面バスター1人相手に、大勢でかかっていくのって誰の父ちゃんだっけ?」
正利「うわーーー」
飛びかかった。正利はキレた。
小野剛は先生からケンカに至る経緯を聞いた。
剛「そうでしたか。それは申し訳ありませんでした。全て私の責任です」
先生「お父さん」
剛「いや先生、私が息子に、戦闘員の仕事をちゃんと理解させなかった私の責任です。息子は悪くないし、そして、相手の3人も悪くない。悪いのは全て私です」
先生「ほんとですよ、お父さん」
剛「え?」
まさかの答えに小野剛はびっくりした。
先生「子供にウソ言っちゃいけませんよ。戦闘員が仮面バスターを倒せる訳ないでしょ。なんでそんな事言うかな?ねえお父さん。正利君、かなりへこんでましたよ。こういう結果になるって何でわからないんですか!あなたはそれでも親ですか?」
先生の立場としての意見というより、世間の声といった感じだった。
剛「すいませんでした」
先生「土下座しても許しませんよ」
剛「土下座?」
先生「未来ある子供に何てこと言ってんですか、全く。土下座して許されるんだったら、警察なんていりません」
小野剛は土下座を要求されてると思った。だから、土下座した。額を地面につけて。
剛「すいませんでした」
先生「許しません」
帰り道。小野剛と正利。父と息子。気まずい帰り道。こんな時に限って満月だ。お互いの顔がよく見える。
剛「あれだってな、お前凄いな。3人相手に勝ったんだってな。さすがお父さんの息子だわ」
正利「パパって本当は弱いの?」
剛「…」
小野剛はすぐに否定しようとしたが、言葉が出てこなかった。正利は歩みを止めた。
正利「仮面バスターやっつけたってウソなの?」
息子の顔がはっきりと見える。悲しい顔だ。離婚した時よりも悲しい顔だった。
剛「ごめんなさい。お前にがっかりされたくなくてな。自慢のお父さんでいたくて。本当に悪い事をした」
正利「パパのウソつき!」
正利は走っていった。
剛「正利」
小野剛は後を追う。
逃げる正利。追う小野剛。小学生と大人の本気の走りなので、そのうち距離縮まって、追いつく。
はずが全然追いつかない。小学生なのに凄いダイナミックな走り。地面を足の指で捉えている。しばらくして、小野剛は止まった。
剛「あいつ持久力もあるじゃん」
さらに夜も更け、家にて。小野剛は時計をちらちら見て、あちこち動き回っている。
そこに電話が鳴る。小野剛は発信者も見ず、慌てて取った。
「もしもし。…ああ、久しぶりだね。…え?そうか、すぐ行く」
小野剛は家を飛び出した。そして向かった場所は?
見た目では何階まであるかわからない高層マンションに入っていった。小野剛の家とは天国と地獄ほどの差があるが、臆せず向かっている。玄関前に着きインターフォンを鳴らした。はーいという女の人の声が聞こえた。そして玄関が開いた。すると中から出てきたのは、
小野剛の元妻、女戦闘員だった。