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不幸占い師が感謝されることの意味を知った日の物語

『不幸占い師』

ユウキはカードを手に持って友達の目を見た。
彼は自信満々に言った。

「この数字がスペードエースだったら、お前の明日は幸せが訪れる」

彼はカードを開いた。カードはスペードエースだった。
友達は驚いて叫んだ。「マジかよ!すげえな!ありがとう!」
彼はユウキに抱きついた。
ユウキは苦笑しながら言った。
「いやいや、ただのマジックだよ。偶然だよ」
しかし、友達はそれを信じてしまった。

次の日、友達から電話がかかってきた。
「おい、ユウキ!お前の占い当たったぜ!今日彼女できたんだよ!」
彼は興奮して言った。
ユウキは呆れながら言った。
「マジで?よかったな」

友達は言った。
「マジでよかったよ!ありがとう!お前すごいぜ!占い師になれよ!」
彼は電話を切った。
ユウキは自分の耳を疑った。占い師?自分が?

その日から、ユウキは占い師になることを考え始めた。
自分には何も取柄がなかった。
親からも兄からも何も期待されなかった。
ただ生きているだけだった。

でも、友達から感謝されたことで、自分の存在意義を感じた。
もしかしたら、自分にも何かできることがあるのではないかと思った。

そんなある日、ユウキは勇気を出して占い師として店を開くことにした。
店の名前は「不幸占い師」だった。
ユウキは自分の占いがインチキだと知っていたからだ。
でも、それでも人々は占いに興味を持ってくれるだろうと思った。
そして、自分も感謝されるだろうと思った。

最初は客も少なかったが、やがて口コミで評判になってきた。
ユウキの占いは簡単な手品や心理学で相手を騙すものだったが、それでも人々は楽しんでくれた。
そして、感謝してくれた。
「ありがとう」「すごいね」「また来ます」と言ってくれた。

ユウキは嬉しかった。
自分はやっと何かできるようになったと思った。
自分はやっと人に必要とされるようになったと思った。
自分はやっと幸せになれると思った。

しかし、その幸せは長くは続かなかった。

ある日、ユウキの占いのインチキがばれてしまったのだ。
客の一人がユウキの手品を見破ってしまったのだ。
そして、その客はユウキを詐欺師呼ばわりして店を出ていった。
その客の言葉がネットに拡散されて、ユウキの占いは一気に信用を失ってしまった。

ユウキは怒った。
なんでだとユウキは怒った。
なんでこんなに言われなきゃいけないんだ。
良いこと言ってあげたのに。

なんで…。
なんで…。
…こいつら全員不幸にさせたい。

その怒りがユウキを覚醒させた。

本当に未来が見えるようになった。
なんでかはわからない。
ユウキには人の未来の不幸が見えるようになった。

次に来た客に、お前の不幸を教えてやると、怒りからぶちまけた。
「お前は明日交通事故に遭う」
「お前の彼氏は浮気してる」
「お前の親は病気で余命わずかだ」などと言って、客の不幸の姿を言ってあざけ笑った。
もちろん、客は怒って帰った。ユウキはいい気味だと思った。

そんなことを繰り返しているうちに、ユウキは感謝され始めた。
意味がわからなかった。
怒って帰った客たちが次々にユウキに感謝した。

「あなたのおかげで回避できた」
ユウキの怒りの腹いせが、不幸を事前に知らせる結果になったのだ。

…みんなの役に立っている。
ユウキは嬉しくなった。
客が感謝してくれてる。
ユウキも感謝の気持ちになった。
と、同時に怒りがなくなっていった。
それは、ユウキの能力が消えていくことを意味していた。

すると再びユウキの前から客がいなくなった。
再び何もないユウキになった。

もとに戻った…。

しかし、ユウキは前と違った。

ユウキは感謝されることで心が癒される力を持つことを知った。
そしてそれは特別な能力に頼ることではないと。

自分の幸せは自分で探すものであると。
ユウキは思う。

「よし、ここから」


赤岡典明(@noriaki_akaoka) • Instagram写真と動画

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