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悪のリーダーが脳移植によってが優しくなる物語

『世界征服の形』

サタンは、悪の秘密結社のリーダーだった。
彼は、世界征服を目論んでいた。
彼は、人間だけではなく自分の部下も容赦なく殺した。
彼は、人間や動物や植物に対しても無慈悲だった。
彼は、自分以外のすべての存在を見下していた。

そんなある日、彼は重大な事故に遭った。

彼は、自分の研究所で爆発に巻き込まれたのだ。
彼は、一命は取り留めたが、全身に重傷を負った。
特に、彼の脳は致命的なダメージを受けた。

「サタン様……」

彼の忠実な部下であるベルゼブブが泣きながら言った。

「サタン様は……もう長くは持ちません……」

「そんな……」

サタンは、自分の状況を理解した。
彼は、死ぬことを恐れた。
彼は、自分の野望を果たすことができなかったことに悔しさを感じた。

「何とかしてくれ……」

彼は、弱々しく言った。

「サタン様……私にできることは……」

ベルゼブブは、言葉に詰まった。
彼は、サタンの脳を救う方法がないことを知っていた。

「あ……」

そこで、彼はひらめいた。

「サタン様……もしかしたら……脳移植ができるかもしれません」

「脳移植?」

サタンは、驚いて聞き返した。

「そうです。私たちは、世界中から捕らえた人間や動物の臓器を保存しています。その中に、サタン様と血液型や組織型が合致する脳があるかもしれません」

「それなら……早く探せ」

「わかりました。すぐに調べます」

ベルゼブブは、研究所のコンピューターにアクセスした。
彼は、保存されている臓器のデータベースを検索した。

「ありました!サタン様と合致する脳があります!」

彼は、喜んで報告した。

「本当か?どこの誰だ?」

サタンは、興味深く聞いた。

「こちらです」

ベルゼブブは、画面を見せた。

そこには、一人の男性の写真とプロフィールが表示されていた。

名前:田中 太郎
年齢:25歳
性別:男
職業:小学校教師
趣味:ボランティア、エナジードリンク好き
性格:優しくて明るい

「これが……私の脳になるのか?」

サタンは、呆然と言った。

「はい。彼は、私たちが拉致した人間の一人です。彼の脳は、サタン様と完全に合致しています」

「……」

サタンは、田中太郎の写真とプロフィールを見つめた。
彼は、自分と正反対の人間だと感じた。彼は、彼に嫌悪感を抱いた。

「こんな奴の脳を使うなんて……」

彼は、吐き捨てた。

「でも、サタン様……これが唯一の方法です。他に合致する脳はありません」

ベルゼブブは、懇願した。

「……しょうがない。やれ」

サタンは、渋々承諾した。

「ありがとうございます。サタン様。すぐに手術を準備します」

ベルゼブブは、感謝した。

「手術は大丈夫なのか?」

サタンは、不安げに聞いた。

「もちろんです。私たちは、最先端の技術を持っています。サタン様の脳と田中太郎の脳を完璧に接続できます」

「では、早く始めろ」

「はい。サタン様。どうか安心してください。すべてうまくいきます」

ベルゼブブは、サタンを手術室に運んだ。

手術は無事に成功した。
サタンは、田中太郎の脳を移植された。
彼は、一週間ほどの昏睡状態から目覚めた。

「サタン様……」
ベルゼブブが嬉しそうに言った。
「サタン様は、無事に生き返りました!」

「……」

サタンは、目を開けた。彼は、自分の周りを見回した。
彼は、自分が病室にいることを認識した。

「ありがとう……」
彼は、声を出した。

「ありがとう?」
ベルゼブブが驚いた。

「喉が渇いた……水を持ってきてくれ」
サタンが言った。

「はい。サタン様。すぐに持ってきます」
ベルゼブブは、応えた。彼は、病室を出て、自販機に向かった。
その時、思わぬサタンの声をベルゼブブは聞いた。

「お前も何か買って飲んでいいぞ」

彼は、サタンが自分に気遣ってくれることに感動した。

「ありがとうございます。サタン様」

彼は、涙ぐんだ。
しかしその姿は見られたくないと慌てて自動販売機へ走った。

「お待たせしました。サタン様」
ベルゼブブは病室に入って言った。

「水を持ってきました」

彼は、水をサタンに渡した。

「ありがとう……」

まただ。ベルゼブブはサタンの感謝の言葉に震えた。
彼は、水を飲んだ。

「ああ……美味しい……」

彼は、満足そうに言った。

「美味しいですか?それは良かったです」

ベルゼブブが笑顔で言った。

「あ、あと他にもいろいろ買ってきました」

彼は、コーラとジュースとエナジードリンクをサタンに見せた。

「これらも飲みませんか?」
サタンは、それらを見た。

「では、どれにしますか?」
ベルゼブブが聞いた。

「私は……エナジードリンクがいい」

彼は、そう言った。

「エナジードリンクですか?」
意外だった。ベルゼブブが驚いて言った。

サタン様が……エナジードリンクを選ぶなんて信じられない……『私のエナジーは人間を殺すことだと言っている』サタン様が…ベルゼブブは心の中で思った。

「私は……エナジードリンクが飲みたいんだ……」
サタンは、そう言った。彼は、自分の言葉に違和感を感じなかった。

「そうですか……でも、サタン様……」
ベルゼブブが言おうとしたが。

「黙れ」
サタンが遮った。

「私は……一人になりたい……」
彼は、そう言ってベッドに横になった。

それから数カ月後。
サタンは、悪の秘密結社のリーダーとして復帰した。
彼は、自分の部下に命令を出した。

「ここの地域の人間を殺して制圧しろ。車に気を付けて行くんだぞ」
彼は、そう言った。彼は、自分の言葉に違和感を感じなかった。

「はい。サタン様」
彼の部下たちは、忠実に答えた。彼らは、サタンの命令に従って人間を殺し始めた。

「明日は作戦決行だ。だから今日は早く帰ってゆっくり休め」
彼は、そう言った。彼は、自分の言葉に違和感を感じなかった。

「ありがとうございます。サタン様」
彼の部下たちは、感謝した。彼らは、サタンの優しさに感動した。

「ちょっと待て。…やっぱり人間は殺さなくていい。黙らせれば充分だ」
彼は、そう言った。彼は、自分の言葉に違和感を感じた。

「あれ?私は何を言っているんだ?」
彼は、自分に問いかけた。
彼は、自分の中にある田中太郎の記憶や感情や思考に気づいた。

「サタン様……」
ベルゼブブが不安そうに聞いた。
「サタン様が……人間を殺さないと言うなんて……」

「私は……人間を殺したくないのか?……人間に優しくしたいのか?……人間と仲良くしたいのか?」
サタンは頭を押さえた。

「サタン様……それは……田中太郎の影響ですか?」
ベルゼブブが疑問に思った。

「田中太郎……」
サタンは、その名前に反応した。彼は、その名前が自分の心に深く刻まれていることを感じた。
「そうだ……彼は……私の脳になった人だった……私の心になった人だった……私の魂になった人だった……」

彼は、思い出した。

「彼は……優しい人だった……小学校の先生だった……ボランティアが趣味だった……エナジードリンクが好きだった」

サタンは、田中太郎のプロフィールを思い出した。
彼は、田中太郎に共感し始めた。彼は、田中太郎に感謝し始めた。
「彼は……私に命を与えてくれた……私に新しい世界を見せてくれた……私に優しさを教えてくれた……」
サタンは、涙ぐんだ。

「サタン様……」
ベルゼブブが驚いて言った。

「私は……泣いているのか……」

サタンは、悪ではなくなってしまった。
彼は、自分の部下に優しくするようになった。彼は、人間を殺すのをやめるようになった。彼は、世界征服の野望を捨てるようになった。
彼は困惑した。

「これはこの脳のせいだ。田中太郎のせいだ。こんなのは悪ではない」
彼は、嘆いた。

「私は悪であるべきだ。私はサタンだ。私は恐怖と暴力と破壊の化身だ」
彼は、自分を否定した。

「私は死ぬべきだ。私はこの脳を捨てるべきだ。私は田中太郎を消すべきだ」
彼は、自殺を図ろうとした。彼は、自分の頭に銃を向けた。

「止めろ」

ベルゼブブが叫んで飛び込んだ。
彼は、サタンの手から銃を奪った。

「サタン様……何をしようとしているんですか?」
彼は初めてサタンに反抗した。

「私は死ぬんだ。私はこの脳を捨てるんだ。私は田中太郎を消すんだ」
サタンは、叫んだ。

「バカなことを言わないでください。サタン様」
ベルゼブブが懇願した。

「あなたが死んだら私たちはどうなりますか?あなたがこの脳を捨てたら私たちはどうなりますか?あなたが田中太郎を消したら私たちはどうなりますか?」

「お前たちは……お前たちは……」
サタンは、言葉に詰まった。
彼は、自分の部下のことを思った。

「お前たちは……私に従ってくれる部下だ……私に忠実な部下だ……私に感謝する部下だ……」
彼は、そう言った。

「そうです。サタン様」
ベルゼブブが頷いた。
「私たちはあなたに従っています。あなたに忠実です。あなたに感謝しています」

「でも……私は悪ではなくなってしまった……私は人間に優しくなってしまった……私は世界征服をやめてしまった……」

「それでいいじゃないですか?今のサタン様でも私たちは付いていきます。何がしたいか言って下さい」
ベルゼブブが受け止めた。

「何がしたいか……」

彼は、自分の中にある田中太郎の記憶や感情や思考に気づいた。

「私は……ボランティアがしたい……」

彼は、そう言った。

「ボランティアですか?」
ベルゼブブが驚いて聞いた。

「私は……ボランティアがしたいんだ……人間に優しくしたいんだ……人間と仲良くしたいんだ……」
サタンは、そう言った。彼は、自分の言葉に違和感を感じなかった。

「そうですか……でも、サタン様……」
ベルゼブブが言おうとしたが。

「黙れ」
サタンが遮った。

サタンは、ボランティアをするようになった。
彼は、自分の部下にもボランティアをさせた。
彼は、人間に優しくするようになった。

「これはこの脳のせいだ。田中太郎のせいだ。こんなのは悪ではない」
彼は、喜んだ。

「サタン様……」
ベルゼブブが微笑んで言った。

こうして悪の秘密結社のサタンの世界征服は着々と広がっていった。


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