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ありがとうから始まった恐怖物語

『節約狂気』

ある日、妻は夫から給料が減ったと告げられた。
夫は会社の業績が悪化したと言った。
妻は家計を支えるために、節約を始めることを決心した。
しかし、節約はやりすぎると危険なことになるとは、彼女はまだ知らなかった。

妻は節約のために、スーパーの安売りを狙って買い物をした。
また、電気代や水道代を節約するために、家の中の電気をこまめに消したり、お風呂の残り湯を洗濯に使ったりした。
さらに、服や化粧品などの自分の欲しいものは一切買わなくなった。

これらは仕方ないこと。
妻はそう思って、料理を作っていた。

そんなある日、妻の頑張りを知った夫は褒めた。
給料が減った原因は自分のせいではない。
しかし、夫は妻に目を合わせられなかった。
そんな妻が文句を言わずに何とかしようとしてくれている。
単純感謝した。

夫に「ありがとう」と言われた。

妻はその感謝の言葉に驚いた。
夫婦関係は悪くはない。
しかし、妻に感謝を述べる夫ではなかった。
そんな夫に褒められた。

妻は嬉しかった。
妻は思い出した。
そう、これが夫婦。これが私が結婚当初思い描いていた夫婦像。
むしろ給料が下がって感謝したいのは妻の方だった。

もっと感謝されたい。
私のダーリンにもっと褒められたい。

妻の節約に狂っていく。

彼女は20%引きのシールを自分で作って、スーパーへ行って貼った。
お風呂の残り湯を洗濯機に使って、さらに余った水を飲み水にした。
電気は夕飯の支度で包丁で指を切るまでつけなかった。

料理を並べる妻の手を見て、夫は驚いた。
「どうした?血だらけじゃないか?」

夫は最初は心配していたが、明らかに妻の行動はおかしくなっていった。
服はボロボロに、肌もボロボロになっていく妻。
そこら辺の草を炒める妻。
本屋に行って、「節約は幸せのもと! お金に困らないためのシンプルな生活術」を1ページずつスマホで撮る妻。

妻のそれはもはや狂気に変わった。
夫は妻の節約を止めさせようとした。
すると妻は驚きの表情を見せた。

「なんで褒めてくれないの?」
「なんでこんなに頑張っているのに、そんな顔するの?」
「あなた節約って文字知ってる?」
妻は腕をめくった。
「節約」という文字が腕に刻まれていた。
「このタトゥーも節約のために自分で掘ったの」

夫は呆然とした。

「え?なんで褒めてくれないの?」
「なんで節約をわかってくれないの?」

数秒間の沈黙があった。
妻は思いついたことがあった。

「人間二人分より一人分の方が節約になる」
そして妻は包丁を握った。


そんなわけでラジオトークのテーマは「節約」です。


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