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卵から産まれた子供は鬼退治に行った物語

『私と鶏太郎の奇妙な日々』

それは明らかに赤ちゃんだった。
しかも人間の赤ちゃんだった。
私は衝撃だったが、そんなことより充分熱したフライパンが、ジュージュー言っている。
その音が赤ちゃんが泣いているようで、パニックになった。
私は慌ててフライ返しで赤ちゃんをすくって、水にさらした。
一体どうなっているんだ?

私はいつものように朝食を作ろうとしていた。
私の朝食は決まって、トーストと目玉焼きだ。

まずはフライパンを熱する。
そしてパンをトースターに入れる。
5分にセットする。
そしてフライパンに油を注ぐ。
少しでいい。
それから卵を…。
今思えば、いつもより卵が重かったような気がする。

しかし、今思えばだ。
この卵はやめておこうまではいくわけはない。
いつものように台所の角に卵をぶつけて割ってフライパンに投入した。

いつもと違く、ボトッと落ちた。

最初はなんだかわからなかった。
何か凍った卵が溶けずに落ちたかと思った。
しかし、それはすぐに違うとわかった。

何かが丸まっている。

私はまずひよこかと思った。
にわとりの卵だからひよこが産まれたと思った。
しかし、スーパーに売っている卵は無精卵。ひよこは産まれないという知識は持っていた。
じゃあ何だこれは?

よく見ると、人間の赤ちゃんだった。
それはそれは小っちゃかった。


水にさらして熱とぬめぬめをきれいに取る。
私は料理の仕込みのように赤ちゃんを触っている。
いまだに何をしているのかよくわからない。

すると赤ちゃんが赤ちゃんっぽく泣きだした。

そこでほんとに赤ちゃんなんだと実感したのだった。
それにしても普通の赤ちゃんより小さい。
いや、こんなもんか?
いや、卵の大きさは小さすぎるだろ?

私は赤ちゃんをこんなまじかで見たことがなかったので困惑した。
何となく、ゆらゆら揺らしていたら寝た。
取りあえずよかった。
そしてチンとパンが出来上がった。

私はパンを食べながら、横には寝ている赤ちゃんがいる。
今日は目玉焼き抜きだ。

それからチャットGPTに赤ちゃんの育て方を聞いた。
もちろんにわとりの卵から産まれたことは言わなかった。

ミルクを与え続けた。
するとみるみるデカくなってきた。
普通の成長スピードではない。
3日後、もう立ち上がって、喋り始めていた。
ありえない成長だ。
このスピードはおとぎ話だ。
桃太郎だ。

なので私は鶏太郎と呼んでみた。
すると「ちょっといいですか?鬼退治に行ってきます」と言い出した。
私は止めた。
この時代に鬼はいないよと説得したが、鶏太郎の意志は固かった。

私は、もし子供ができたら、子供の自由にさせたいと思っていた。
子供のやりたいようにやらせてあげたいと。
だから、鶏太郎が鬼退治に行きたいと言えば、行かせてあげたいと思った。
でも心配だった。
これが親心というものであろうか?

「鬼退治ってどうするの?」と私は聞いてみた。
鶏太郎は答えた。
「まず、仲間を集めます。犬、猿、………キジ?」
なぜかキジに対して敵対心みたいなものがあるらしい。
おそらく自分も鶏だからだろう。

そして翌日、鶏太郎は鬼退治に向かって私の家を出た。

寂しさも束の間、それから3日後、すぐに帰ってきた。
私はいつのように朝食を作っていると、インターフォンがなった。

そこには鶏太郎と犬が立っていた。
おそらく犬を仲間にして諦めたのだろう。

しかし私はそのことには触れなかった。
何も言わずに鶏太郎と犬を抱きしめた。
鶏太郎は目に涙を浮かべていた。
途中で断念したのが悔しかったのだろう。

しかしやはり私はそのことには触れなかった。
私がもし子供がいたら子供の意志を尊重するからだ。
親がどうこう言うべきではない。
自分で解決する。
それがもし子供がいた時にしたいことだった。
それを今やっている。なんという不思議な感覚だ。
これが良いのか悪いのかわからないが鶏太郎を信じようと思った。

鶏太郎は「ちょっと考える」と言って部屋に閉じこもった。
その時「決して覗かないでね」と聞いたことある台詞を言い残した。

そう言われちゃうとどうなんだろう?
私は心配した。
私の自由に育てるというやり方はどうなんだろうか?
部屋の中が気になる。

私はこっそり覗いた。

すると鶏太郎は泣いていた。
悔しかったんだろう。
鬼退治に行くと言っておいて、何の結果も出せなかった自分を悔いているようだった。
鶏太郎は立派に成長している。私はそう思い、そっとドアを閉めた。

しかし本当は、私は子育ての方法に疑問を持つべきだった。
それは後になってわかることだった。

それから二日後。
私はいつのように朝食を作っていると、部屋から鶏太郎が出てきた。

前よりも大きくなって。
これはふたつの意味を指している。
心の成長と体の成長だ。
そして鶏太郎は言った。

「今度こそ、鬼の首を取ってくる」と。

私はもう何も言わなかった。
ただただ頷いて、鶏太郎を見送った。
犬も鶏太郎を見送った。

それから、1週間が経った。

私はいつのように朝食を作っていると、インターフォンがなった。
ドアを開けるとおじいちゃんがそこにいた。
それは鶏太郎だ。
なんという成長スピード。
一週間でおじいちゃんになってしまった。
しかしそれは鶏太郎だった。
「よく無事で」
私はそう言って鶏太郎を抱きしめた。

鶏太郎はおみやげがあると言って、箱を私に渡した。
「何の箱?」と尋ねた。

すると鶏太郎は語り始めた。
鶏太郎は鬼退治に行く途中、いじめられていた亀を助けたらしい。
するとその亀に竜宮城に招待された。
そこには乙姫がいて、鬼退治はいいやと思ったらしい。
そして最後に鶏太郎は、私にプレゼントの箱を持って帰ってきたというのだ。
聞いたことある話だ。

待てよ?鶏太郎のおじいちゃんは箱を開けたからおじいちゃんになったのか?
私は箱を見た。
しかし、開けた様子はない。
ということは、成長で鶏太郎はおじいちゃんになったということである。

ということは、この箱を開けると、私がおじいちゃんになる。
シンプルに何で?
何で私がおじいちゃんにならなきゃいけないの?
別に日にちは全然経ってないのに、おじいちゃんになる筋合いはない。

でも、箱が気になる。

これは開けないと、せっかくの鶏太郎が私へのプレゼントとして持って帰ったものだ。
これを開けないと鶏太郎の育て方を自分自身で否定することになる。

私は決めた。
開けよう。

私は箱をゆっくり開けた。
私は後ろにのけぞった。

箱の中から、血だらけの乙姫の首がボトッと落ちた。

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