婚約破棄をされた悪役令嬢ですが、天然な王子に一目惚れされました
私は、イルダが嫌いだ。
いつも微笑んでいて、誰にでも優しくて、皆から愛されている。
その、欠点のなさにウンザリしていた。
「アニエラ様、いかがいたしました?」
可愛らしい声で、イルダが私に話しかけてきた。
アニエラに招待されたお茶会には、オルランド第二王子も呼ばれていた。
私とオルランド王子は婚約している。
イルダは無邪気に微笑んでいたが、その表情を見てオルランド王子がうっとりとしているのを私は見逃さなかった。
「オルランド様、紅茶のおかわりはいかがですか?」
「ああ、頂きます」
イルダは執事に、紅茶を入れされると私にも尋ねた。
「アニエラ様は、お腹がすいていらっしゃらないのかしら? あまりお召し上がりになっていないようですけれど……」
私は思わず言った。
「不愉快な顔があるので、気が乗らないだけですわ」
「まあ……」
私の言葉にイルダが顔を曇らせる。
「アニエラ様、言葉を慎みたまえ。イルダ様、おもてなし感謝致します」
「いいえ、そんな」
アニエラはオルランド王子の台詞に頬を染めた。
「そういうことでしたの? イルダ様は私からオルランド王子を奪いたかったのですね」
私が笑いながら言うと、オルランド王子が立ち上がった。
その顔は怒りで赤く染まっている。
「アニエラ様。いままで我慢していたが貴方の振る舞いは最悪だ。婚約は破棄させて頂きたい」
私はひるまずに言った。
「そして、大人しいイルダと婚約するのですね? オルランド王子は」
「……それは……」
オルランド王子は頬を染めて俯いた。
「私、そんな大それた事は考えておりませんでした」
イルダは目に涙を浮かべて、オルランド王子を見つめていた。
「邪魔者は去りますわ。どうぞお幸せに」
私は冷めた気持ちでイルダのお茶会を後にした。
屋敷に帰ると、王宮から手紙が届いた。
「あら? オルランド第二王子ではなくユーリス第一王子からだわ? 何かしら?」
手紙にはこう書かれていた。
『親愛なるアニエラ様、このたびは私の弟が無礼を致しまして申し訳ありません。おわびというわけではありませんが、私と会って頂けませんか? ユーリスより』
翌日、王宮から使いが来て私はユーリス第一王子の元へ案内された。
「ごきげんよう、アニエラ様。このたびは申し訳ありませんでした」
「いいえ、オルランド様のお気持ちが離れたのなら仕方有りませんわ」
私がユーリス第一王子にそう言うと、ユーリス王子はうっとりとした目で私を見つめた。
「やはり、思っていたとおりの方ですね。そのはっきりした物言いと言い、堂々とした立ち居振る舞いと言い、私の理想です。アニエラ様、私と婚約して頂けませんか?」
私は開いた口が塞がらなかった。
もし結婚したら、私は優しいイルダとオルランド王子の姉になるのだ。あの忌々しい顔を毎日見るのは気が滅入る。私は言った。
「お断り致します」
「そうですか……それは残念です」
ユーリス王子があまりに悲しそうな顔をしたので、私はつい言ってしまった。
「お友達から初めて頂きたいとおもいます。お互いに、まだ何も知らない者同士ですから」
「ああ! そう言う意味でしたか! さすがアニエラ様、考えていらっしゃいますね」
ユーリス王子の無邪気な微笑みに、心臓がドキリとした。
ユーリス王子は私の悪意を感じていないのかニコニコと笑って、私と握手をした。
「それでは、お友達からよろしくお願い致します」
「……はい」
こうして私はユーリス第一王子と、婚約前提のお友達となった。
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