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週末エッセイ#41「自転車」


前回、「仕事つら〜wでも創作活動は辞めねぇかんな!」
みたいなnoteを書いておいて、

2月と3月、見事に撃沈してしまった。

はい、はい。負けました。


挨拶を返さない職員。大事な案件の準備を何もしていない上司。
担当者の中で最高責任者のくせに対応を絶対にしたがらない上司。
上の人ほど責任感が無くて、「この人のせいで迷惑しているけど、この人の上がもう居ないから誰も注意できない」みたいな事ばかり起こる。
そして言い掛かりに近いような電話の数々。

などなど、もろもろに対して嫌気がさして、爆発してしまった。

ああもう無理ですわと思い、その日の仕事を終えると、自転車を爆速で漕いだ。
もう、この先何をしたってもう上手くいかないんじゃないか?
いつまでこんな扱いを受けないといけないんだ?

そういう気持ちになってしまい、川沿いの道に差し掛かると、
自転車を降り、乗っていた自転車を思いっきり突き飛ばした。


ガシャーン!!


当たり前だが、金属製の大きな音が夜の道に響いた。
誰かに見られたらまずいと、変なタイミングで冷静になり、
自転車を起こしてもう一度爆走した。

それからマンションの駐輪場に自転車を停めた。
しかしどうにも怒りが収まらず、マンションのエントランスに背を向け、
マンションの目の前の大通りを走り、歩道橋を駆け上った。

まさかそこから飛び降りようとしているわけではない。
怒りをどうにかしようとした結果、地上から何メートルか高い場所に向かったというだけだ。
「私はそれくらい怒ってんだぞ」というのを世界にアピールしたい気持ちで、そこにずっと突っ立って、母に電話をかけた。

次の日は休日。
駐輪場に降りて自転車を見ると、驚くことに無傷だった。

あんなに強く突き飛ばしたのに?嘘でしょ?と思いながら車体のいろんな場所をいろんな方向に回り込んで見てみたが、傷は見つからなかった。

そっか〜どこも壊れていなくてよかったじゃ〜んと安堵し、

昨日までのストレスを晴らすために、急遽静岡県の沼津にある吉本の劇場に向かった。(その行きの新幹線で、前回のnoteを書いたのでした)

これがとてもよかった。この日推しの芸人さんの出番が新宿のルミネか何かだったりしたら、すぐ行ってすぐ帰って来られてしまう。そして家でまた悶々と悩んでいただろう。

しかし、今回は沼津の劇場に推しが居るということで、物理的に遠い距離を移動する事で、不安と怒りのあまり良からぬ事を考えるというのを回避できた。

「早く推しに会いたいなぁ」「今新幹線はどの辺を走っているのかな?」「あ!富士山だ!」などと考えながら、普段は見ない新鮮な景色を見ていたおかげで、上司から吐かれた嫌な言葉やクレーム客の捲し立てるような声がフラッシュバックせずに済んだ。

言うまでもなくお笑いのライブは最高だった。

昨日倒した自転車は無傷でだったし、沼津へ小旅行も出来たし、推しにも会えたし最高だったと、安心してそのひのよるは眠りについた。

推しに癒されて気持ちは回復しても、職場の諸々は何も解決はしていなくて、
すぐに充電はすり減っていった。精神的にも体調的にも不調が続き、3月中旬くらいまで結構絶不調だった。

さて、4月である。3月より少しだけ状況は良くなってきた。

仕事から帰ってきてふと自転車を見ると、カゴの塗装がぼろっと剥げていた。

おかしいな……

突き飛ばしたあの時、実は傷が出来てしまっていたのか?
怒りと悲しみのあまり、都合の悪いことは目に入っていなかったのだろうか…
それとも、あの時は軽くヒビが入っている状態で、今になって塗装がポロッと剥げたとか?

まあ、何にしても……

あんなに強く突き倒して、無傷なはずがないよな。
やっぱり傷はついていた。
私は物に当たってしまった。
やってはいけない事をしてしまった。
でも、それくらい自分も傷ついていた。
でも、自転車にはまったく罪はないはずで。

この自転車を迎えてから1年ちょっと。
私がどんな気持ちの時も、大雨の日も、不具合一つなく私を運んでくれたのに。

もし、「突き飛ばした時にヒビが入っていたけれど、4月の今日まで持ち堪えて塗装が剥げずにいた」という説を採用するなら、なんて優しい自転車なんだろう…と思う。

「職場での嫌な出来事」に「自転車に傷がついた」という嫌な出来事が上書きされずに済んでいたのだから。私の気持ちが回復するのを待って、「ああもう大丈夫そうかな」と思った時にポロッと塗装が剥げていたのだとしたら……


突き飛ばした時、痛かったかな。
私が職場で負った傷を一緒に味わってくれた自転車に感謝して、
もう二度とこんな風に乱暴に扱ったりしないことを心に誓った。

今は仕事が終わってマンションに着くたびに、
自転車のサドルを撫でてから自分の部屋に向かうようにしている。

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