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占います?

clubhouseというSNSをご存知だろうか?完全招待制で、コミュニケーションは全て音声のみ。誰かが話しているのを盗み聞きすることもできるし話したいと思ったらハンズアップ機能を使って、スピーカーたちがいいよ〜と言えば会話に飛び込むこともできる。「声のSNS」。このアプリが爆発的に流行り始めた時にはこんな風に言われていた時もあった。

ある時、『占います?』というトークルームを見つけた。

「あ、あかねさんこんばんは〜話せますか?」

ルームに入った途端に、スピーカにあげられる。

「こんばんは」
「こんばんは〜!ここでは、占いができる、と言っても似而非で占う似而非占いの部屋なんですが、占います?」

面白そうなので「占います」と言った。

似而非占いと言いながら、内容は悩み相談のようなものだった。
「あかねさんは何か悩みとかあります?」
と言われたので、実は今院進学するか就職するか迷っていて…というような話をした。

私は大学で『資本主義とメンタルヘルス』の関係性について研究している。資本主義という労働者の生活を全て市場がコントロールし、生産性と効率性の向上のためならなんでもやるというイデオロギーが、新自由主義、ポストフォーディズムと結びついて、現代人に多大なストレスを与得ていることが、現代人のうつ病や不安障害に繋がっているという定説を元に、「私たちはその社会システムの中でどのようにストレスから逃げるべきか」そして「社会はどのように変わっていくべきか」を研究している。そのことを学部生のうちに蹴りをつけられる自信がなく、大学院にも行って勉強しようと思っているのだ。そんなような話をしたと思う。

「なんで、資本主義とメンタルヘルスに興味があるんですか?」

と聞かれて、私は話を聞いてもらえるのが嬉しくて、「お金が嫌いで〜」なんて口を滑らせた。

すると、その似而非占い師は、「ちょっと核心的なこと言っちゃうかもしれないですけど言ってもいいですか…」と前置きしながら言った。

「お金が嫌いなんだったら研究なんかしないで、自分のやりたいことやった方がいいんじゃないですか?聞いてると、なんか他にやりたいことがあるのに、それがお金にならないことに納得できなくて社会を攻撃しているみたいですよ。」

は?と思った。でも、はっとした。

「周りの人に、自分のやりたいことが仕事になってるか聞いて回ってみなよ。きっとそんな人ほとんどいないよ。でも、自分のやりたいことができないってわけじゃないと思うんだよね。そこそこ働いて、自分のやりたいことに力注いでる人もいると思うし。それに、好きなことがあるなら、一回魂注ぎ込んでそれを作ってみなよ。それで売れなくても、満足するんじゃない?研究して、社会が変わるのを待つより、まず自分で行動してみた方がいいと思う。」

悔しかった。全くその通りだった。好きな絵や大好きだった演劇を続けていれば、それに全力を注いでいれば、と夢で何度も思った。でも、そこに全力を振り絞る勇気もなければ、妥協して社会に出て、そこそこ続ける気力もなかった。だから、私の夢を台無しにした社会を批判しているのかもしれない、私の研究動機は不純なものかもしれないとショックだった。

それから、メンタルヘルスに関しても、「スマホ脳」という本を引き合いに出され、さわりだけ読んだことがあるので「読んだことあります」と言ったら知ったかぶりを見透かされ、「とりあえず、本を読んで出直してきてください。」言われてリスナーに降ろされた。

ざわざわし続けた。今まで自分が自信を持って人に語っていたのは、不純な動機から生まれたものだったのかもしれない。それに加えて、知ったかぶりをしてしまった恥ずかしさ…最悪だった。占いでこんなに気分が悪くなるものなのかと思った。

それから、お金についてもう一度、考え、スマホ脳は最後まで読み切ることにした。

もしかしたら私はお金が嫌いなのではないかもしれない。物品交換における齟齬をなくすための価値を代替するツールとして現れたのが貨幣であるとしたら、貨幣はもともと競争を助長するものではなく、平和的再分配を促進するためのものではないのか?物品交換とは、奪い合いをなくすための平和的な手段であったにもかかわらず、なぜ、私たちはお金をめぐって争い、憎く罵り合い、時には殺し合いまでするのだろう。お金が嫌いなのではなく、私が疑問なのは、なぜお金が争いの種になるのかかもしれない。

そして、スマホ脳を読み切ったことで人間の生存本能が私たちをスマホ依存にしていることがわかり、スマホを使うことで私たちは強いストレスに晒されてしまうことがわかった。持っているデバイス全てのスクリーンを白黒にし(色があるより、白黒の方が、画面をみている時に分泌されるドーパミンなどの興奮を促す物質が少なくなるらしい)、SNSを使う時間を厳しく制限することにした。

clubhouseもやめることにした。

clubhouseをやめる直前、たまたま似而非占い師と話す機会があり、「スマホ脳読んだ?話そうよ」と言われたので、「実は、スマホ脳を読んだので、clubhouseやめようと思っています。」と正直に言った。すると、

「わかった。じゃあ、腹を割って話そう。」

ということになった。

clubhouseで「卒業します?」という部屋が立ち上がった。

主にはスマホ脳の話で、「いいねボタンを押すということはどういうことか」「いいねを押させるには、①注目を集める②関係性を持ちたいと思わせる③価値があると思わせるの三つのプロセスがありそうだ」「SNSが誰かと比較させることで、不幸な人を生んでるのはなぜ?」など、哲学チックな話を2時間も2人で頭をこねくり回した。話は難しいので画像で割愛。

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最後に、私たちの未来の話になった。

「これからどうするの?」
「まだ迷ってます。院進学か就職か。私はお金が嫌いじゃないことがわかったので、貨幣というものがなぜ私たちの争いの種になるのか知りたいんです。私たちがもっと貨幣や通貨をうまく使っていけるような社会を作れないかなって。あと、見えないものにも興味があるので、エネルギーとかインフラ関係で就職も興味があります。」
「いいじゃない」

そっちはどうなんですか?と聞いた。

「これからもclubhouseで話したり、自分なりにお金お稼いだりして生きていくと思う。clubhouseとかでいろいろな人とあったり情報収集したりして、どんなことがビジネスになるのか考えて実践してから就活しようと思ってる」

ということだった。私たちは、確実に未来に向かっている。そして、私たちが進んでいく道は別れ道にある。せっかく出会ったのだけれど、お互いが選ぶ道は、今のところ、寄り添わない。

最後に似而非占い師が言った。

「僕は、clubhouseを続けるし、あかねさんはclubhouseをやめるけど、いつかどこかでまた話を聞かせてよ。どうしてたのか、気になるし、僕も成長したのを知らせたい。」

ええ、ぜひ、私もあなたに会えてよかったです、と言った。

「じゃあね〜ではまたまた」

声だけしか繋がっていない私たち。スマホの向こう側にいる誰か。今さっき接続していた時には生きていた誰か、どこかで、元気に生きてね、と思う。私も私らしく生きるので、と。

「ありがとうございました〜ではまた〜」

今夜、また話せるみたな挨拶。だけど、私は私の人生を前に進めなきゃ。私はclubhouseを消した。どこかで、会えたら、と思いを馳せながら。


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