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「土の死」と《裸の花》について

この記事では、私が装飾をキイワードに制作することになったきっかけとなった《裸の花》の成立経緯とその作品についてお話します。

裸の花 2014

1. バックグラウンド:人工物と自然物への関心


 筆者が生まれ育ったのは愛知県半田市という地域であるが、その隣の市に窯業地として有名な常滑市がある。筆者が土を高温焼成した際にできるものであることを知ったのは高校生の頃だ。「焼いた土は、二度と土に還元されることはない」という陶芸の成り立ちは、筆者にとって「土の死」と捉えられる衝撃的なものであった。

 無論、土自体は生命を持たないものであり、ここでいう土の死は形容的な表現である。陶芸の技法によって作られる器などは、一人の人間の生より長く、時代と文化を超えて存在する。例えば、縄文土器をはじめとした土器の破片は、現在でも発掘されている。それらは元は大地であり、自然と認識されるものであった。しかし、高温焼成によって形を限定された土器(の断片)は半永久的にその形態で留まり続ける。

 筆者は、このような経緯から陶芸に関心を持ち、名古屋芸術大学で陶芸を専攻した。土が陶になる、自然物から人工物のプロセスに着目した作品に《Nobody, Nowhere》(2009)がある。それは排泄物を行うトイレの空間に、自身の身体を型取りしてその形態をバラバラに起こし、陶に変換した。トイレの空間に土を敷き、植物を成長させ、そのコントラストとして陶のバラバラになった身体を配置した。これは、自身のどこにでもない自然に還ることのない現在の自分の留まり続ける意識を表現したポートレイト作品でもある。

 このような人工物と自然の関係性を表現することは、陶芸という素材によって導かれた制作テーマである。また、筆者は陶芸を学ぶと同時に古物に関心を持ち、それらの採集の中で、装飾物が内包する「自然的なもの」に関心を持ちはじめる。

2. 《裸の花》のコンセプト

 《裸の花》の成立は、筆者のリサイクルショップや蚤の市などで陶芸や器など古物を購入する趣味から始まる。その際、たまたま購入したアンティーク調のサイドテーブルに施された装飾に対して生じた疑問が制作のきっかけとなる。

 テーブルにとって重要なのは、実際に人が使う場所である天板とそれを支える脚である。筆者が持っていたテーブルの天板と脚の接着部分を補強するような三角型の装飾部に対して「なぜこのような装飾と施すのか」という疑問を抱いた。おおよそ二等辺三角形をした装飾部は、長辺の中心が窪んでおり、その両端の角度は丸みを帯びた曲線となっている。さらにその装飾部の中心には、三つの細長い楕円形の穴が開いている。この装飾部が天板を支えるため必要不可欠な部分であるかもしれないが、わざわざこのような曲線的な造形物を入れるのはなぜだろうか。筆者にとってこの装飾は、テーブル全体の統一性を欠く少し浮いた造形物のように見え、そして花びらを抽象的に捉えた造形物のようにも見えた。筆者は、この装飾を「人工物における自然的なもの」として捉え、この装飾物を自然物へ還元させるような造形を試みたいと思った。このような着想から作られたのが《裸の花》である。

3.《裸の花》の記述

 《裸の花》は、先に述べたようにアンティーク調のテーブルと陶の造形物を組み合わされて作られている作品である。机の大きさは高さ50×幅45×奥行き62cm。既製品のテーブルは木製で、表面は塗られていたと思われる塗装が削られており、染み込んだオイルの跡が見られる。このテーブル机の幅45cmの端から10cmくらいの位置にある脚の近くに施された装飾を中心に、陶製の円型のレリーフが組み合わさっている。陶の造形部の全体は高さ100×幅100×奥行き10cmの円形である。全体は平たい円形の器を縦にしたような内側が窪みを持っており、外側はレリーフの中心に対して内向きに歪んでいる。陶の造形物は赤い陶土に白い化粧土が施されている。中心は厚く塗られているため白いが、外側の化粧土は所々剥がれ落ちており風化させたような処理がされている。
木製のテーブルは、陶の造形部と比較すると既製品の持っているシャープな線を知覚できる。陶の造形部は、秩序的な反復を伴って広がっているものの、外側が不均一でまばらに内側に曲がっているため柔らかい線の形態として知覚できる。造形部内側のモデルの反復によって生まれる模様も、手作業で繋いだぎこちない線の集まりのように知覚できる。

 陶の造形物はよく見ると陶の造形部は縦横幅20cm、厚さ1cmほどのタイル状のパーツが組み合わさって作られている。このパーツはテーブルの天板と脚接するテーブルの内側に二等辺三角形のような形態の装飾部である。前述した通り、長辺の中心が窪み、両端は丸みを帯びた曲線を描いている。他の短い二辺は机と脚に面しているため直線である。この装飾部を一つのモデルとして、それが連続するように形態が作られている。特にこのモデルを4つ組み合わせて菱形のパーツを作成し、それを反復させている。また、中心の菱形を9個組み合わせることで、さらに大きな菱形になる。その大きな菱形の裏側に接続されるように菱形が囲むように広がっている。さらにその菱形にもう一層囲むように菱形がひろがり、三層のタイルが重なって作られているようにも見える。そして外側の菱形の層は内側に曲げられている。

 陶の造形部は、装飾部をモデルとして、その形態を石こうで型取りし、粘土によって複製を行って制作させれた。そのため、一つ一つ型から形成することによって、モデルとは若干ではあるが異なるテクスチャーを作りだしている。


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