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雨の魔法使い

人物表
霧島紬(16)魔法使い見習い
アイラ=ミニーミニー(26)魔法使い
ルパート=クッカプーロ(46)魔法使い
ウッドロード(74)ロカポポ村村長

本文
○中央魔法魔術執行局・廊下(朝)
西洋風の内装の廊下を黒いローブを着たルパート=クッカプーロ(46)と、とんがり帽子を被った霧島紬(16)が歩いている。廊下の窓からは箒に乗って空を飛ぶ魔法使い達が見える。
ルパート「アイラちゃんはウチで一番多くの人間を救った魔女なんだけどね、彼女だいぶ卑屈なんだ。もしかしたら思ってるような魔女じゃないかもしれないよ」
紬「……他の先生方もそう仰ってました。そんなに卑屈なんでしょうか?」
ルパート「んー、まぁ実際さ、アイラちゃんの魔法って魔獣討伐隊みたいな派手なのに比べたら地味でしょ? でもアイラちゃんは、その地味な魔法のおかげでどんどん出世していくから、同期とかに嫌われてるんじゃないかってビクビクしてんの」
紬「……実際、嫌われているんですか?」
ルパート「まぁ大魔女様になった直後とかは若すぎるんじゃないかとか、過大評価だ、みたいに言われてたけど、実際一番多くの人間を救ってるわけだから、今じゃもう誰も何も言わなくなったね」
二人は大きな扉の前で足を止める。扉には大きな傘のマークが描かれている。
ルパート「ここだね。心の準備はいい?」
紬「はい! 大丈夫です!」
ルパートは扉を開ける。

○同・大魔女公務室(朝)
室内は水色と緑を基調としたファンシーな内装で、ぬいぐるみが大量に置かれている。ルパートが扉を開けて入るや否や、顔目掛けてカエルのぬいぐるみが飛んでくる。ルパートは右手に持った杖でカエルを操り、顔にぶつかる寸前でそれを止める。
ルパート「はい、今回も僕の勝ちだね」
ルパートが杖をしまうとカエルのぬいぐるみはその場に落ちる。部屋の奥にはアイラ=ミニーミニー(24)が嫌そうな顔で立っている。アイラは金髪のツインテールで、大きなとんがり帽子を被っている。
アイラ「嫌だ! もう絶対仕事しない!」
ルパート「そんなこと言っちゃダメだって。大魔女様でしょう?」
紬が恐る恐る部屋に入ってくる。
アイラ「なりたくてなった訳じゃない! 辞めれるなら辞めてるぞ!」
ルパート「辞任の制度がなくて助かってるね。ほら、今日は弟子入りしたい子が来てるんだよ? かっこいいとこ見せないと」
アイラ「えっ! 弟子!? わ、私に!?」
紬「霧島紬です! よろしくお願いします!」
ルパート「紬ちゃん。成績優秀なんだ」
アイラ「……東洋人じゃない。東洋人ならミツクニの所に弟子入りしなよ。私みたいな地味な魔法より、蘇生魔術とか、呪術の方がかっこいいじゃん……」
ルパートは呆れたように笑う。
紬「……私、ヤマトの国のミカガミ村出身なんです。覚えてませんか……?」
アイラ「そんなの、ひとつひとつ覚えてる訳ないじゃん。色んなとこ行ってるし……」
紬「そうですか……。でも、大魔女様の魔法のお陰で、私の妹が生贄に捧げられずに済んだんです! その感謝を伝えたかったのと、その……、そんな大魔女様みたいになりたいって思って……今日、来ました……」
アイラは両手を握りしめて俯く。
ルパート「……また雨の魔法使いにって依頼が来てるよ。行ってくれるかな?」
アイラは深く息を吐く。
アイラ「……どこにいけばいいの?」

○上空(朝)
アイラと紬は箒で空を飛んでいる。アイラは水玉のマントを羽織っている。
アイラ「ほらね、やっぱり嫌われてる。移動魔法どころか、ユニコーンも使わせてもらえない。箒じゃ時間かかんのに!」
紬「遠征で討伐隊が出払ってるってルパートさんが言ってました。仕方ないですよ」
アイラ「いいや、使わせたくないだけだよ」
紬は困ったように笑う。
アイラ「……そういえば紬、アンタ属性は?」
紬「それが……、分かんないんですよ」
アイラ「はぁ? 分かんない?」
紬「はい……。箒の操作とか、基本的な魔法は使えるんですけど、基礎属性魔法だけ発動しないんですよね……」
アイラ「ちょっと……、大丈夫なの……?」
紬「が、がんばります……」

○アニーニャ地方・ロカポポ村
数々の民家が並ぶ村。太陽が日照り、乾き切った大地にアイラと紬が箒を縦に持って立っている。
アイラ「んん? ここ前も来たことある気がすんなぁ……」
紬「ひどいですね……。ミカガミ村もここまで干上がってませんでしたよ」
二人の後ろからカラフルなトーブを着たウッドロード(74)がゆっくりと歩いてくる。
ウッドロード「お待ちしておりました」
アイラと紬は振り返る。
紬「あっ、私、中央魔法魔術執行局から来ました。魔法使い見習いの霧島紬です。こちらが雨の魔法使いです」
ウッドロードは力無く微笑む。
ウッドロード「ええ、存じておりますよ」
ウッドロードは村を見渡す。干魃した大地から枯れた植物が生えているのが見える。
ウッドロード「この村は、植物鉱石から取れる染料が名物でした。しかし、ご覧のとおりです。植物鉱石どころか、その日の食事もままならない。大魔女様、どうかもう一度、この村に雨を……」
アイラは持っていた箒を消して杖を取り出す。
アイラ「村長さん。雨を降らしたら、また私に可愛いマントを作ってくれる?」
ウッドロード「えぇ、もちろん」
アイラはフッと笑うと杖を空に掲げる。
アイラ「……ウルル・ティナ・ウルル!」
アイラが空に向かって杖を振ると、上空に段々と雨雲が集まってくる。干上がった大地に少しずつ雨粒が落ちる。
アイラ「フフン、どんなもんだい」
アイラは自慢げに振り返る。
ウッドロード「ありがとうございます……!」
雨が次第に強くなっていく。民家から村人達が外に出て、嬉しそうに雨に打たれている。
紬「見てくださいアイラ様。みんな嬉しそう」
アイラ「まあね、私の魔法はすごいんだ!」
アイラは箒を出して跨る。
アイラ「帰るよ紬。少し気になることがある」
紬「気になること、ですか?」
アイラ「うん。私、雨の魔法を同じ場所で2回も使うのは初めて。もしかしたら、雨が降らない原因は他に……」
アイラの言葉を遮るように、遠くから獣の叫び声と、ゴゴゴゴと地響きのような音が鳴る。アイラと紬が咄嗟に叫び声の方向を見ると、村の奥から全長30m程の巨大なサイのような魔獣が村に向かって走ってきている。魔獣の体は赤い水晶のようなもので覆われている。
紬「な、何ですかあれ……」
アイラ「あれは、グレンジャー・ジョー……」
紬「え? グレンジャー・ジョー……?」
アイラ「水晶の輝きを保つために周囲の水分を蒸発させる、第一級特別危険指定魔獣。討伐隊じゃないと、戦えないよ……」
アイラは呆然と魔獣を見る。魔獣は叫び声を上げながら村に向かって走る。
ウッドロード「大魔女様! ど、どうか、あの魔獣を……! 止めてください……!」
アイラ「できない……。私は……!」
村までの距離が近くなっていくたびに、村の上に集まっていた雨雲が小さくなっていく。
アイラ「だって私は、雨の魔法使い……。結局、ただ雨を降らせることしか……」
魔獣は民家を蹴散らしていく。村の上にあった雨雲はすっかり消えている。紬は必死な顔で杖を魔獣に向ける。
紬「……ティナ!」
紬は杖を振るが何も起こらない。
アイラ「属性魔法使えないんでしょ。今私たちは何もできない。討伐隊を待つしか……」
紬「討伐隊は遠征中です! 待ってたらこの村が持たないですよ!」
紬が再び魔獣に向けて杖を振る。
紬「ティナ! ティナ……!」
杖は空を切るばかりで何も起こらない。ウッドロードは目の前で魔獣に民家が
蹴散らされていくのを呆然と見ている。
紬「あっ……! アイラ様! 離れた場所に雨を降らしてください!」
アイラ「どうして……?」
紬「雨雲に釣られて離れてくれるかも!」
アイラ「そんな、時間稼ぎじゃ……」
紬「時間稼ぎでも! やらないよりは!」
アイラは紬の真剣な眼差しを見て、杖を取り出し、村より離れた空に向ける。
アイラ「……ウルル・ティナ・ウルル!」
村の外れに雨雲が集まり雨が降り出す。
アイラ「もう、雨の魔法はこれ以上……」
紬は焦った表情。魔獣が雨雲の方に向かって走り出す。
紬「……ッ! ティナッ……!」
紬が杖を振ると雨雲に向かって走った魔獣に向かって、雷が落ちる。


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