リビングデッド・デッドリビング

人物表
藍澤孤泰郎(39)黒魔術ハンター
伊奈詩織(20)黒魔術ハンター
仁科悠(22)黒魔術ハンター
八重十六(53)黒魔術対策室支部長
竹内孝治(44)式場スタッフ
白石柊(24)故人
城島忠道(83)故人
城島美和子(79)城島の妻

本文
○家族葬ホール大山・前(朝)
こじんまりとした式場の前、入り口には『城島家葬儀式場』と書かれた看板
が置かれている。その看板を、藍澤孤泰郎(39)と伊奈詩織(20)が見
ている。藍澤は腰にガンホルダーを付け、その中に銃を携帯しており、それ
を隠すようにジャケットを着ている。詩織は髪を後ろに一つで束ね、眼鏡を
かけており手元にiPadを持っている。
藍澤「……詩織ちゃん、ホントにここなの?」
詩織「ええ、本部からの指令も、予言もここで間違いないです」
藍澤は深くため息を吐く。
藍澤「はぁー、苦手なんだよなぁ……。こういう小さい式はさぁ……」
詩織「早く片付くから楽じゃないですか。行きましょう。あと2分で予言の時刻です」
藍澤「そうじゃないんだよなぁ…」
二人はホールの中に入っていく。

○同・斎場内(朝)
斎場には7人の喪服をきた遺族が椅子に座って僧侶のお経を聞いている。祭
壇には城島忠道(83)の遺影が飾られており、その前には棺が置かれてい
る。斎場の横開きの扉が開き、藍澤と詩織が入ってくる。僧侶のお経は中断
され、遺族たちは戸惑いの声を上げる。城島美和子(79)が戸惑った様子で
ゆっくりと立ち上がる。
美和子「な、ど、どなたですか。貴方達……」
藍澤「……詩織ちゃん、お願い」
詩織「分かってます」
戸惑っている美和子を気にも止めない様子で詩織は右手の人差し指と中指を
立てて眉間の前で構える。
詩織「縛」
詩織がそう唱えると、立ち上がっていた美和子や、その他の遺族と僧侶がそ
の姿勢のままピタリと動かなくなる。
藍澤「ありがと」
詩織「あと20秒です」
藍澤は祭壇の前の棺に近づき、棺の蓋を躊躇いなく開ける。
藍澤「ごめんなさいねー遺族の皆さん。おじいちゃんもう一回死んでもらうけど、死んでる間に殺すのが一番手っ取り早いの!」
藍澤はガンホルダーから銃を取り出し、銃口を棺の中の城島の眉間に向ける。
詩織「あと5秒です。5、4、3、2……」
銃口を向けられた城島がカタカタと動き出す。
詩織「……1!」
詩織の言葉と同時に棺の中の城島が目を開き、藍澤に飛びかかろうとするも、
藍澤に眉間を拳銃で撃ち抜かれる。城島は棺の中で倒れる。
藍澤「うぃ、終わり」
藍澤は拳銃をガンホルダーに戻し、棺の蓋を閉める。
藍澤「詩織ちゃん、戻してあげて」
詩織は二本の指を眉間の前で構える。
詩織「解」
詩織がそう唱えると、固まっていた遺族たちが動き出す。
藍澤「それじゃ! 式の続きをどうぞ……!」
藍澤と詩織は斎場を出ようとする。遺族達は二人を恐怖や怒りに満ちた表情
で見ている。藍澤はため息を吐く。
藍澤「これがやなんだよ。小さい葬儀だと少ない人数のヘイトが100%で俺に向けられる。しかも顔が見える距離で」
詩織「仕方ないですよ。嫌われることしてるんですから」
藍澤「俺がいなきゃ今頃殺されてたのになぁ」
詩織「割り切ってください。仕事ですから」

○教会・黒魔術対策本部・支部長室(夕)
大きなデスクと一つの椅子が置かれた室内に、藍澤、詩織、八重十六(53)の3人が立っている。
八重「次の予言も藍澤君に任せるよ」
藍澤「うへぇ、なんで俺なんすか」
八重「今ほとんどのハンターは東北支部に出向いているんだ。藍澤君しか適任がいないんだよ」
藍澤「俺もそっちに参加すればよかったなぁ」
詩織「藍澤さんが面倒くさがったんですよ」
八重「大丈夫。大きめの式ではあるけど大予言からはまだ離れてる。楽なはずだよ」
藍澤「楽でも仕事。仕事がやなんですよ」
八重「あ、あと次の式には二人の他に、研修中の新人が一人いるはずだから。頼むね」

○多摩ウェルライフホール・前(夜)
大きな葬式場の前、入り口には『白石柊儀葬儀式場』と書かれた看板が置かれている。その看板の前には藍澤、詩織、仁科悠(22)が立っている。仁科はスーツ姿で、背中に日本刀を背負っている。
仁科「仁科悠です! 戦闘は苦手ですが印術はできます! よろしくお願いします!」
仁科は緊張した様子でお辞儀をする。
藍澤「おぉ、同じハンターとは思えないくらい元気でいいねぇ。印術なら詩織ちゃんはエキスパートだよ」
仁科「はっ! よろしくお願いします!」
仁科は詩織に向けてお辞儀をする。
詩織「仁科さん。式の様子は分かりますか?」
仁科「はい。えっと、故人は24歳男性。弔問客はざっと50人程度ですね」
藍澤「24歳かぁ。仮に受肉させちゃったら大変そうだな。何が楽な仕事だよ」
詩織が左腕の腕時計を見る。時計は18時43分を指している。
詩織「予言の時間まであと7分程です。中に入りましょう」

○同・斎場・霧の間(夜)
斎場には50人程の喪服を着た弔問客が座って俯いている。祭壇では僧侶が
お経を唱えており、白石柊(24)の遺影が飾られている。祭壇の脇にはス
ーツ姿の竹内孝治(44)がマイクを持って立っている。その様子を藍澤、
詩織、仁科の3人が後ろから見ている。
仁科「なんか、気味悪いっすね……」
藍澤「人の式にそんなこと言っちゃダメだよ」
詩織「でも、何か異質なものは感じますね」
藍澤「ヤダねぇ、早く終わらせちゃおう」
藍澤は祭壇に向かって躊躇いなく歩いていく。詩織と仁科もそれに続く。
竹内「……何者ですか。貴方達」
竹内は3人に向かってマイクを通して言う。竹内の言葉と同時に椅子に座る
弔問客全員が3人の方を見る。
藍澤「うわ、なんだなんだ、気持ちわり。仁科くん、やって見せてくれよ」
仁科「はい!」
仁科は右手の人差し指と中指を立てて眉間の前で構える。
仁科「……縛っ! 硬っ!」
仁科が唱えると同時に、弔問客全員が3人を向いたまま動きを止める。
藍澤「やるじゃーん、仁科くーん」
仁科「ありがとうございます!」
3人は祭壇に向かって歩いていく。竹内がマイクを置きため息を吐く。
竹内「……今日は大切な日なんですよ」
仁科「なっ…!」
藍澤「あれ、効いてないじゃんか」
詩織は咄嗟に眉間の前に指を構える。
竹内「印術、怖い術ですねぇ。私を縛ることができればもっと怖かった」
竹内は左の掌を顔の前で立てて構え、薬指を垂直に折り曲げる。
竹内「磔」
竹内が唱えると詩織と仁科は十字架に貼り付けられたように動けなくなる。
仁科「なっ、なんですかこれっ……!?」
詩織「左手で唱える裏印術……。貴方、邪教徒ですね」
仁科「じゃ、邪教徒……?」
詩織「屍術による肉体の不滅を目標に掲げた、予言を絶対とする宗教です。信仰の対象である屍術師の加護で、仁科さんの印術を無効化したみたいですね」
竹内「邪教徒という表現は正しくないですね。貴方達が間違っているんですから」
仁科「……じゃあ! この葬式は……!」
詩織「恐らく、最初から予言に合わせて仕組まれたものです」
仁科が竹内を睨む。
竹内「ハハ、そんな睨まないでください。この若者は選ばれて自ら死を選んだのです。これは光栄なことなのです」
藍澤「へー、じゃあこの死体は大切なんだな」
竹内「なにっ……!?」
藍澤が竹内の背後に立っている。右手で日本刀を持ち、左手で白石の遺体を持っている。
藍澤「仁科くーん、刀借りてるねー」
仁科「いつの間に……」
竹内「貴方っ……! 私の裏印術を……!」
藍澤「印術も裏印術も俺には効かないよ」
竹内「はぁ!?」
詩織「印術と裏印術は、生きた人間に対してあらゆる縛りを与える術です。死んだ人間には通用しない」
仁科「えっ……?」
詩織「藍澤さんは屍術によって魂を入れられた、生きているだけの屍です」
藍澤「ご紹介ありがとね」
竹内「で、であれば! 大司教様の受肉は貴方にとっても利益があるはずだ! 永遠の命を手に入れられる!」
藍澤「そうじゃないんだよなぁ……」
藍澤は日本刀で死体を切り裂く。
藍澤「俺はもう一度、正しく死にたいんだ」



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