見出し画像

ママのための化学教室-4: アイをめぐる探究…

みなさん、東京オリンピックに向けて、KIMONO PROJECTというのが始動していたことをご存知でしょうか(1)。 コロナ禍のおかげで当初の計画からは外れてしまいましたが、5年の歳月をかけ、参加予定の世界207の国と地域、それぞれが大切に思い誇りとしている自然・文化・歴史を描いたKIMONO(着物と帯)、426点制作して、「世界はきっと、一つになれる」の思いで作られました。

2016年の熊本地震はじめ各地で災害が起こる中、5年間、種を植え、蚕を育て、最適の糸が必要量集まって初めて、一点一点考えた抜いた意匠に沿って糸を染めて布を織るもの、布に織って色を染めるもの…日本各地の着物作家の元、多くの方の力で、一つ一つこの振袖という作品が作られたことでしょう。コロナ禍の現在、世界に元気を届けようとWebで公開されています。今回は、絵本の代わりに最後に紹介しています。

その中のグアムを担当された久留米絣の山村省二さん、(有)山藍(2)と、先日、熊本県伝統工芸館の催事でお会いする機会があり、久留米絣や藍染について色々お話を伺いました。今回は、「藍」について(12)。(▼タデ藍の花と茂み)

画像1


青は藍より出でて藍より青し

ジャパンブルーとも呼ばれる藍の色を染める色素は、「インディゴ; indigo」(3)と呼ばれ、世界各国にこの成分を含有する植物は、確認されているだけでも100数種以上あるが、広く利用されるものに限ると6種類ほどです。興味深い点は、生物学的な分類が違う草に同じ色素が含まれていることと、世界各地で利用されてきたという点です(4、5)。現在では、天然のインディゴは合成染料に押され、かなり減少していますが、各地の生産者の努力で新しい活路も模索されています。

画像3

※インド藍は、藍の含有率が高く良い染料のため、合成藍の発明まで世界市場を凌駕。(5)


日本国内の藍産地は、6箇所。E-Stat政府統計で2010年に公開された2007(平成19)年の生産実績は以下のように示されます(6)

画像3

徳島県産の藍は阿波藍として有名で、鎌倉時代の中頃から栽培が始まり、江戸時代に阿波藩の保護奨励によって、日本最大の藍作地帯として知られるようになりました。戦時中の栽培禁止令を乗り越え、現在も国内ではダントツですが、「あおもり藍」のブランド化を狙う青森県など他の生産地もがんばっています(7)。

藍染めの方法には、生葉で染める「生葉染め(なまはぞめ)」と「発酵建て」という大きく分けて二つの方法があります。徳島県の藍染めは、阿波藍を収穫後、発酵・乾燥させた蒅(スクモ)に加工することで輸送・保存に便利になり、蒅をから季節に関係なく「発酵建て」という方法による染色が可能になりました。

阿波藍の蒅の作る工程は、本場阿波の公益社団法人 徳島県物協会HP 「阿波藍の紹介」にてわかりやすく紹介されています(8)。

強アルカリ性の液で染める発酵建ては、通常の染色方法では染まりにくい木綿がよく染まり、江戸時代の奢侈禁止令や木綿栽培の普及と相まって、全国に広がっていきます。各地に残る「紺屋町」という名前は藍染物商が居住した地域を表しています。

想像の翼を広げてみると……藍で世界がつながります

南フランス、ランドック地方の「モンペリエ」。その地名の語源は、「藍の山」です。ランドック地方では、かつてはウォードの栽培が盛んで、大量の藍玉を生産していました。藍玉は、軍服や制服の染色に欠かせないもので、インドアイが欧州に輸入されるまでは重要な産業でした。近年、フランスでは「大青」による藍染を復活させる動きが起きているようです。(10)

染色としての藍

「藍は染料ではなく、顔料です。日本中の藍の産地を歩いてこられた民俗学者です。水や湯に溶けて微粒子が繊維に入り染まるのが染料です。顔料は、水や湯に溶けないので、石灰や灰汁などのアルカリ分を加え水酸化物に変えます。これを還元といいますが、還元後、空気に触れて発色します。
化学構造式から作った合成藍、たとえば青色2号には、においはありません」

   ——竹内淳子(『藍 風土が生んだ色』(法政大学出版局)などの著者)

藍の色の発色は神秘的です。引き上げてすぐは黄土色ですが、絞って干し空気に触れると、緑から藍色へ変化します。この工程を繰り返し重ねて染めることで濃淡を表現し、同時に布を強くします。「藍四十八色」と呼ばれるほど。藍の色はこちらでお楽しみください(11)


日本各地の染織りの技術で彩る世界各国の振袖

今回は、絵本の紹介の代わりに、KIMONO Project(1)の完成した素敵な着物の数々をぜひ、親子で鑑賞してみてください。世界地図片手に、世界を巡ってみるのも楽しいかもしれません。とはいえ、着物は眺めるだけのものではありません。着物が儚く露と消えてしまわないよう、あなたのセンスで日常的に着こなしてみませんか? まずはこの夏の浴衣からとか... 

【おまけ】 2020年東京オリンピックに向け、世界各国をモチーフにした着物を!キモノプロジェクト「イマジン・ワンワールド」(31分23秒)、2019/5/2公開の中間報告を兼ねての着物ショーです。着物・帯の意匠、織や染め、作家、モデルの方に関する解説が、20点について1点ずつ入ります。衣桁にかけられた平面の着物が、体にまとうことでどう変わるか、比較してみるのも楽しいです。

昔から草木染めに使われる植物は薬草が多く、それで染めた着物を身に纏うことで、薬草の有効成分だけではなく、色・匂いも含めて健康を保つ一助としたようです。素朴な祈りとも言えるかもしれませんが、意外に本質をついているかもしれません。あなたがいま、身につけているものは、いかがですか?

参考文献

1. 一般社団法人 イマジン ワンワールド、KOMONO PROJECT ホームページ。各作品の紹介、モデルの紹介等。、紹介映像(14:41)

【おまけ】 2020年東京オリンピックに向け、世界各国をモチーフにした着物を!キモノプロジェクト「イマジン・ワンワールド」(31分23秒)、2019/5/2公開の中間報告を兼ねての着物ショーです。着物・帯の意匠、織や染め、作家、モデルの方に関する解説が、20点について1点ずつ入ります。実際に体に纏った着物は、衣桁にかけられたものとの違いも楽しいです。

2. (有)山藍(福岡県八女郡広川町長延250-1、Tel:0943-32-0150/Fax: 0943-32-0066)、


3. https://ja.wikipedia.org/wiki/インディゴ

4. 藍について

5. https://www.osaka-geidai.ac.jp/assets/files/id/728
藍植物による染料加工―「製藍」技術の民族誌的比較研究
A comparative study of Ethno-technology for “The process of making lndigo”. 井関和代=発表年は、内容から推測して1999(平成11)年ごろだと思います。民族史的に「製藍」について比較されている点が面白いと思います。

6. E-Stat政府統計の総合窓口—統計で見る日本、特産農作物の生産実績、藍

7. あおもり藍産業協同組合=Webも元気に更新中のHPです

8. 本場阿波の公益社団法人 徳島県物協会HP。阿波藍の紹介

9. 自然科学観察コンクール、第58回入賞作品、小学校の部、秋山仁特別賞、「藍より青く染めた夏」=山梨県南アルプス市立芦安小学校5年生の藍染に関する自由研究です。

10. https://www.afpbb.com/articles/-/3067685
仏南西部の「青い金」、復活した染料「大青」 薬効も
2015年11月29日 12:53 発信地:レクトゥール/フランス [ ヨーロッパ フランス ]

11. http://www.japanblue-ai.jp/enjoy/color.html
藍の色を楽しもう 
 
12. 「藍」の真実をどれだけ知っていますか、思わず人に話したくなる蘊蓄100章
モノ・マガジン編集部、2017年03月02日= 文字通り藍に関する蘊蓄集です。

最後まで記事を読んで下さってありがとうございます。楽しんでいただけましたか? 細かいことはさておき、意外と、化学も楽しくないですか? サポートいただけると、材料代や資料の購入にとても助かります。