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奇妙な対話

彼女とのファーストコンタクトは最悪だった。
怒られる、逃げたくなった。

初対面なのに挨拶もなく、口角を少しも動かさない。何年も笑っていないような表情は、皺としてくっきりと表れており、威圧感がある。
なにしろ、こちらにちらりとも目を向けてくれないのだ。

そのような態度を取られるような理由が思い当たらない。
こちらが意図せず気を悪くさせたのなら、謝れば良いのだが、そのような隙も与えてくれないようだった。
すこぶる相性が悪いらしい。

しかし、そのような彼女との関係も、束の間に同じ空間を過ごすことで、まるで旧友と別れるときのような名残惜しいものとなった。

壁も天井も白い、正方形の部屋の真ん中で
彼女と私は待つように命じられた。

気まずい この状況から逃れたい

こんな時に気の利いたことを言えたらな、と自己嫌悪に陥っていると、気まずさが伝播したのか彼女からそっと話しかけてきた。

相変わらず表情は険しいままだが、
長い間ロンドンに住んでいたこと
針仕事が主な仕事であったということ
中学生の孫娘が不登校になり田舎にある自分の自宅で過ごしていること
などを教えてくれた。

言葉を介して深い話をしたわけではない。
しかし、私からは見えない位置で指輪を触る彼女の姿は、とても大事な人物を亡くした悲しみに暮れていた。強い女性だった。

再び会うことはないだろうが、彼女はずっと居る。







参考)
十和田市現代美術館 スタンディングウーマン(2021/04/30閲覧)

https://bit.ly/3u8Y2Ar

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