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男の役割、女の役割



儀式に使用するもの

 アイヌの様々な儀式には、イナウ(木幣)がかかせません。
 今日はイナウについて少しだけ。
 
 イナウとはそれそのものがカムイであり、祈りである。

 イナウはカムイがこの地に現れる時に捧げる供物であり、カムイの世界に送る土産でもあります。イナウの最も最も大きな役割はアイヌとカムイを繋ぎ、意思疎通を図るための仲介役です。人はほんとうの気持ちを正しい言葉で伝えることに長けていません。そこを補ってくれるのがイナウであり、歌であり、踊りであり、祈りなのです。

阿寒湖アイヌシアターイコㇿ「アイヌ古式舞踊」フライヤーより

イナウニ(イナウの木)採取

 イナウを作る木はヤナギを多く使います。このヤナギの木を採取するのは男の仕事。そして採ってきた木を乾燥させ、皮を剥き「イナウマキリ」という先端が折れ曲がった特殊な刃物でスルスルと木肌を削っていきます。
 

この工程は担い手の研修生たちも参加して学んでいます。

 このイナウを作るための木を採取するところから、イナウが完成するまでの工程は男性の仕事であり、女性はその場所に居合わせるものではないと教わりました。そして、出来上がったイナウやパスイ、男性が頭に被るパウンペなどは、女性が触ってはイケナイものとされているそうです。
 私も女性であるので、採取も、イナウケ(イナウをつくる)の際もその場に行った事はほぼありません。なので画像は持っていません。その場に行った女性が撮影した画像もなんとなく使う気にはなれません。

 資料を残したり、その場の空気感や厳かな雰囲気を感じてみたいのですが、私がその場にいる事をカムイが見ていると思うと、足がすくむような、とても後ろめたい気持ちになるので、アイヌの人たちの気持ちと伝統を尊重し、遠慮しています。

 女性の役割をひとつ紹介すると、儀式の際にカムイに捧げるトノト(お酒)つくりがあります。
 その昔トノトは「アワ」や「ヒエ」を使って作っていたそうです。現在はとうもろこしや、イナキビでも作りますが、お米が主流だそうです。
 このトノト作りは「フチ」と呼ばれるアイヌのおばあさんの仕事で、若い女性は居合わせるものではないそうです。季節にもよりますが、およそ5日~7日くらいで出来上がると言われているトノト。つくる人によってその味は違うようなので、いろんな人が作ったいろんな原料のトノトを味わってみたいものです。


男性でも刺繍を学ぶ

 女性の役割、男性の役割とは別で、男性でも刺繍や織物なども行います。儀式という概念ではなく、生活文化の中にあることだからでしょうか。

 担い手育成事業では刺繍の研修も受けています。

講師制作によるホㇱ(脚絆)に施す文様
講師による見本作り

 オホと呼ばれるチェーンステッチのやり方から始まり、コースターやマタンプシ、ホㇱ(脚絆)、これからテクンペ(手甲)などに文様を施していきますが、入構時期が異なる研修生たちはそれぞれ別々のものに取り組んでいます。

イカラリを学ぶ者
刺繍糸の色を変え、3重のオホで仕上げる者
切り伏せを学ぶ者

 研修生のひとりは、「刺繍はやったことなかったし、大変だけど(得意というよりも)むしろ好きまである」と言っていました。
 

 これからの阿寒湖アイヌコタンを支える人材として、多くを学んでいる研修生たちの奮闘、また、研修生と一緒に学んだこと、アイヌ文化に関してこれまでに私が教わった事なども織り交ぜながら、少しずつ紹介していきたいと思っています。