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やってはいけない、こんなトレーシングレポート

トレーシングレポートによる処方提案が
採用されずに悩んでいる、薬剤師のあなたへ

「どうして、じぶんの処方提案は医師に採用されないんだろう。このガイドラインどおりの提案をしているのに…」

処方内容が、ガイドラインや論文とは異なっていた場合に、それをただ指摘するようなトレーシングレポートを書いていないでしょうか?

たとえば、

日本糖尿病学会・日本老年医学会の高齢者糖尿病診療ガイドライン2017 では、認知機能正常かつ ADL 自立のグリメピリドを服用している 75 歳以上の高齢者に対しては HbA1c 7 が下限値となっております。当患者は HbA1c 6.5 であるため、中止あるいは別薬剤への変更をご検討ください。

というような内容のトレーシングレポートです。

これでは採用される確率は高くならないでしょう。もちろん、内容が間違っているわけではありません。むしろ、ガイドラインにぴったり沿ったとても客観的な提案だと思います。主観がほぼありません。

そう、この提案はあまりにも客観的すぎるのです。客観的すぎて、ただの情報提供になってしまっていることが問題なのです。

「え?服薬情報提供書=トレーシングレポート なんだから、医師に情報提供しておけばそれで十分なんじゃないの?」

単にトレーシングレポートをたくさん提出して算定件数を重ねたいのであれば、それでもいいかもしれません(医師は迷惑でしょうが)。しかし、その情報自体にあまり価値がない場合が多いのです。

なぜなら、大半の医師は自分の診療に関係のあるガイドラインには目を通していますし、内容も頭に入っているからです。わざわざ、他職種に言われるまでもなく、しっかり把握しています。

それにも関わらず文書で指摘されると、「この薬剤師は、わたしがこれくらいのことを知らないと思っているのかな…」となり、トレーシングレポートを出したことにより、かえって関係性が悪くなるということになりかねません。

せっかく時間も手間もかけて作成したトレーシングレポートで、医師との関係がこじれ、結局患者さんのためにもならないなら、最初から出さなければよかった…と後悔してしまいますよね。このような事態は、なんとしても避けたいです。

では、客観的な情報以外に何をトレーシングレポートに書けばいいのでしょうか。

それは、患者さん個々の情報や思い、そしてあなたの考えです。

先程の例のように、高齢者に対する SU 剤の中止・減量あるいは別薬剤への変更を提案するのであれば、

食事の回数や量はどうか、アルコールを飲み過ぎていないか、独居なのか家族と同居なのか、日常的に車を運転しているのか、足腰が弱っていないか、骨粗鬆症ではないか、出血リスクは高くないか、自分に起こる不都合について何を避けたくて何ならば受け入れるのか、などのように、低血糖を起こすリスクおよび低血糖が起こってしまった時のリスクを評価するための情報を集めます。

たとえば情報収集の結果、

朝食と昼食が兼用になりがち、独居、毎日車を運転、骨折歴があり骨粗鬆症薬を服用中、本人はこのまま自宅での生活を希望。

といった情報が得られたなら、低血糖を避けるメリットが本人にとって大きくなることが想定されますので、トレーシングレポートに記載します。

それに加え、患者さんのためにあなたが低血糖を回避したいと思っている、ということをきちんとトレーシングレポートに記載してください。

「そんなこと書かなくても伝わるって」

と思うかもしれませんが、薬剤師が思っている以上に、じぶんたちの意図は他職種に伝わりません。みなまで言わなくても、相手が都合よく意図をくみ取って行動してくれると考えるのは危険です。だからこそ、きちんと文章にする必要があります。

このように、客観的な情報に加え、患者さんの情報や考え、薬剤師としてのあなたの思いが記されたトレーシングレポートは、この世で唯一無二の個別化された処方提案であり、医師にとっても有益な情報となるので、採用率も高くなるのです。

ところで、なぜ医師はガイドラインや論文の内容を知っているにもかかわらず、それでも処方を変えないのでしょうか。それは、そのガイドラインに沿っても沿わなくても、それほど違いはないと考えているから、と聞いたことがあります。

ただ、そこに「このガイドラインや論文の内容に処方を変更すると、この患者さんはこのような状況ですので、こんなメリットがありますよ」と、医師とは違う専門性を持った薬剤師の視点から提案があると、あらためて検討しなおすきっかけになると言われました。

医師はとても多忙なので、薬剤師が思っている以上に患者さんの生活状況や薬物治療に対する考えについて知らないケースが多いのではと感じます。

トレーシングレポートによる処方提案で情報を共有しながら、薬物治療を協働でおこなっていくことができれば、地域の患者さんにとって大きなメリットが生まれると思っています。

ぜひ、トレーシングレポートによる処方提案を一緒にやりましょう。

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