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スムーズにトレーシングレポートによる処方提案を進めるために ~患者さんとの会話~

どこの町にもあるような薬局で働いている
ごく普通の薬剤師のあなたへ

突然ですが、患者さんとの会話は好きでしょうか?あるいは得意でしょうか?

トレーシングレポートによる処方提案を実施するには、服薬指導時に患者さんと会話を重ねる必要があります。患者さんの思いや希望をくんだ処方提案をするためには、薬剤師が一方的に話すのではなく、患者さんの方から話をしてもらわなければいけないからです。

では、どうしたら患者さんから話をしてくれるようになるのでしょうか。

その方法の一つは、患者さんが話しやすい状況をこちらで作ることです。

そこで、すぐにでも実践可能な方法を 4 つお話ししようと思います。



【患者さんの目を見る】
薬や薬情、パソコンやタブレットの画面だけを見て、最初から最後までほとんど患者さんと視線を合わせないような服薬指導は、避けた方がよいです。視線が合わないと、どうしても冷たい、誠実でない、向き合ってくれない、機械的、といった印象を持たれやすくなってしまいます。

そうすると、患者さんは話す気をなくしてしまい、適当に相槌をうったり、質問に曖昧に答えたり、といった状況に陥ります。また、中には目を合わせながらでないとうまく話せない患者さんもいますので、やはり視線を合わせるのは大切です。

もちろん、常に視線を合わせないといけない、というわけではありません。質問を投げかける時や、患者さんが話している時に、視線を合わせるだけでいいのです。直視するのが恥ずかしければ、眉間を見ていてもよいと思います。

さらに、目や声のトーン、身振り手振りで感情などを表現するのも効果的な場合が多いです。過剰にする必要はありませんが、これだけでも明らかに良い印象を持ってくれるようになる患者さんがいます。



【ありがとう、と伝える】
症状を話してくれた時、血圧を教えてくれた時、血液検査の結果を見せてくれた時、生活習慣を教えてくれた時、などには必ず「教えていただいて、ありがとうございます」と口に出してお礼を言います。

「え?薬剤師がそういったことを聞くのは当然だし、患者さんは聞かれたら答えるっていうのも当然だよね?」と思うでしょうか。

薬剤師と話す=薬の説明を聞くだけ、と思っている患者さんはまだまだたくさんいます。服薬指導中に「なんでそんなこと聞くのだろう?」「言いたくないな…」と感じている方は、少なくありません。しかし、そんな人でも、お礼を言われたら悪くは思わないはずです。そして、教えてもらった情報をもとに、より有益な服薬指導をすれば、その患者さんは次回もきっとあなたに情報を話してくれます。

また、質問する前に「薬の視点から、効果や副作用を確認したいので~」「もちろん△△先生も確認されていますが、わたし達もこの薬が〇〇さんに適切な量か確認したいので~」など、あらかじめ理由を話すと、まず拒否されることはないです。

質問する理由 → 実際に質問 → アセスメントして服薬指導 → 教えてくれたことに対する感謝

この流れがスムーズです。 


【患者さんの名前を口に出す】
服薬指導の際、患者さんの名前を何回口に出しているでしょうか?

わたしは、少なくとも 5 回は名前を呼ぶようにしています。

とても単純な方法ですが、驚くくらい患者さんとの距離が縮まります。名前を呼ぶことで「わたしは “大勢の患者さんのひとり“ ではなく “あなた“ とコミュニケーションをとりたい」という意志が伝わります。定期的に来局される慢性疾患の患者さんには、特に有効です。服薬指導ブースに呼び込む時にしか患者さんの名前を呼ばないのは、せっかくの関係構築の機会を逃すことになるので、もったいないです。

「苗字か、下の名前か」どちらで呼んだらよいのか…と疑問に思ったら、苗字がよいです。

下の名前で呼ぶと、心理的な距離が詰まり過ぎるリスクが生じます。それとは逆に、不快に思う人もいます。また、他の患者さんが下の名前で呼ばれているのに、自分が下の名前で呼ばれないと、疎外感を感じる人もいます。こういった理由で、わたしは下の名前で呼ぶのは避けたほうが無難だと考えています。



【相槌をうつ】
患者さんから情報を引き出すには、気持ちよく話してもらう必要があります。日常会話の時と同様に、服薬指導の際にも、相槌は有効です。

といっても、そんなにたくさんのバリエーションはいりません。以下の 9 つほどを状況に応じて使えば十分です。

大変でしたね。
辛かったですね。
難しいですね。
確かに。
そうですね。
そのとおりですね。
いいですね。
言うことない(くらい良い)ですね。
すばらしいですね。

適切な相槌は会話の潤滑油になります。また、自分の話をきちんと聞いてもらったと実感してもらいやすくなります。こうして、服薬指導時の満足度が上がり、次回からもこの薬剤師に話を聞いてもらいたい、と患者さんに思ってもらえるようになれば、服薬指導はとてもやりやすくなります。



【おわりに】

「知識が豊富であれば患者対応なんて気にしなくていい」
「患者さんのためとはいえ、媚びるみたいで嫌だ」

ときどき、このような意見を目にすることがあります。しかし、薬剤師だから患者対応に気を遣わなければいけない、というわけではありません。医師も、患者対応にはとても気を遣っています。腕が良ければ何でも許される、というのはフィクションの中だけです。

そもそも、患者さんのために患者対応をしっかりする、と考えること自体、止めた方がよいです。

トレーシングレポートによる処方提案をしやすくするために、薬剤師としての力を余すところなく患者さんに対して発揮するために、つまり薬剤師としての仕事をしやすくするために、患者対応をしっかりやるのです。そうすることで、薬剤師が提供できる医療の質が向上し、結果として患者さんのためになるのです。

つまり、患者対応をしっかりするのは自分のためです。それが目的です。このように患者さんではなく自分を中心にして考えておかないと、徐々に疲弊し、続けることが難しくなっていきます。

あなたの時間と労力と気力は有限です。あなたという資源を無為に浪費することなく、あなたを必要としている患者さんに、あなたの知識と経験が届いたほうが、ずっと地域の方々のためになります。

わたしは、患者さんとの会話が好きでも得意でもありません。

それでも、この薬剤師になら話したい、話を聞いて欲しいと思ってもらうことはできますし、必要な情報を得ることはできます。

会話が苦手なために、自分の知識と経験を活用できていない。そんな方に、少しでも参考になれば嬉しいです。

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