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CMソングを作るときには

今日は、僕が広告の仕事でCMソングやPRソングを制作する際に、どんなことに気をつけながら作詞・作曲しているかについて書いてみます。

船の歌を作ることになった!

小さくてかわいらしいでしょう? 名前を「しとらす」と言います。(写真はフェリーを運行されている「株式会社ごごしま」さんのHPからお借りしました。)このフェリーは僕の故郷・愛媛県にある、興居島(ごごしま)の泊(とまり)港とその対岸の松山・高浜(たかはま)港をおよそ10分ほどで結ぶ船なんですね。島の人たちにとっては日々の大事な交通手段ですし、観光客の皆さんにとっては、ちょっとした船旅が味わえる乗り物。「しとらす」という名前は興居島が、柑橘の栽培で有名な島というところからつけられたそうです。実際、5月には島中がみかんの花の匂いでいっぱいになります。とっても素敵なんですよ。

島の地図はフェリーを運行されている「株式会社ごごしま」さんのHPからダウンロードできます。ぜひサイトを訪れてみてください。
http://gogoshima-ferry.com/guide/

なぜ、地元・愛媛でフェリーの歌を作ることになったのか?

この興居島で、7年ほど前から地元の仲間たちと「ごごしま音楽プール」という手作りの音楽フェスを開催させてもらってまして。2020年〜現在まではコロナでお休みになったのですが、2019年の告知はこんな感じでした。

※2019年の告知フライヤーより

フェスの最後にみんなで歌うためのテーマソングも作りました。動画の中で過去のイベントの様子もご覧になれます。よかったら是非。

島のみなさんにお世話になりながら行き来をさせてもらっているうちに、少しずつご縁もできてきて、フェリーに乗ることもしばしば。そんな折、新しく造船した「しとらす」という名前の船を就航させるんだけど、船内でも流せるようなPRソングを作れたりしますか?というお話しを頂きまして。是非お手伝いしたい!ということで、楽曲を制作することになったのでした。

CMソング・PRソングを作るときにまず心がけていること

やっと作詞・作曲の話までたどり着きましたね
興居島のことを書き始めるとつい筆が進みすぎてしまって。。すみません。
よし!本題に入るぞ。
CMソングやPRソングといった「広告するための歌」を作る時に心掛けていることを、短い言葉で(あえて強めに)表現すると「逃げない」ということになると思います。今回の「しとらす」の歌について言えば、船内のBGMとしても使用されるこの楽曲で、聴いた人の記憶に一番に残すべきものは「しとらす」という船の名前なんですね。短い船旅の記憶とともに、船の名前を気持ちよく、かつしっかりと持ち帰ってもらうために作詞・作曲でやることは何かと言うと「船の名前を、メロディーラインのピークに、気持ちよく当てる」ということになります。

サビの中でもいちばん盛り上がっているところ、音域のいちばん高いところに、船の名前「しとらす」が伸びやかに乗るメロディーを構成すること。それを照れずに歌えるための言葉をつないでいくこと。もし作曲の途中で難航してもその自らが課した制約から逃げないこと。それをまず決めてしまうんです。

言い方を変えると、「船の名前を楽曲に入れないという選択肢はない」「AメロとかBメロに、さらっと船の名前を入れてお茶を濁すといったこともしない」と決めることであるとも言えます。

作詞・作曲も、ある意味「企画」(とくにCMソングやPRソングの場合)の性質を持っています。企画をする時、「何をやるか」「何をやりたいか」について考えることも必要なのですが、それと同じくらい大切なことは「何をやらないか」「何をやりたくないか」を知っておくだと思っています。自分の場合、油断するとついついやりたくないことをやっていることが多いんですね。特に広告の仕事には様々な事情が加味されてくるので。だからこそやりたくないことは、やらない。できるだけその姿勢を最後まで維持できると、完成するものの質が変わって来るように思います。

さて、そうやって完成した曲が、こちらになります。


訴求したいメッセージとメロディーラインの関係性

サビのメロディー部分を聴いてみてください。
サビメロのいちばん高い音、この曲の場合1オクターブ上のG(ソ)に「しとらす」の「と」の音が当たっていますね。かつ、船の名前「しとらす」の部分の音階は「ミ」「ソ」「ファ」「ファ」という、この曲の中ではもっとも高い音ベスト3で構成されています。こうすることで、「しとらす」の音が飛び抜けてきます。結果、抜けの良いネーミング訴求につながる、ということになります。

それともう一つ、残したい言葉の前後に気をつける、というのがあります。この歌の場合「しとらす」を残したいわけですが、該当箇所の歌詞を聴きなおしてみてください。「すすむ しとらす うみをわたれ」となっていますね。何か気がつきましたか?

答えを言いますと、濁音がないんです。なぜそうしているかと言うと、「しとらす」という一番残したい音に濁音がないからです。「し」「と」「ら」「す」。4文字中2文字はサ行、「ら」も丸みがあり「と」もそれほどアタックが強くない位置にあります。つまり、前後を濁音で挟んでしまうと、いちばん伝えたい言葉が濁音の強さと濁りに負けてしまうんですね。唇と舌に意識を向けながら「すすむ しとらす うみをわたれ」と声に出してみてください。唇がくっつくのは「む」と「み」の2回だけ。口のなかで舌を打つ感じになるのは「と」「た」の2回だけ。音の濁りや破裂が少ないことに気づいてもらえると思います。


忘れていはいけない、秒数との相性

そして最後にもう一つ、忘れてはいけないのが秒数です。
この「しとらす」の場合、サビの2回りめ

「私を乗せて  あなたを乗せて  すすむしとらす 海を渡れ」のフレーズの
ちょうど後半、13秒めあたりに「しとらす」の単語がくるようになっています。15秒スポットCMでも使えるし、30秒にする時はその手前から使ってももちろんいける、という構造です。

と、こんな感じでかなり細かいところまで気を使って曲を作ったりしています。こうしたプロセスはすべて、最初に自分の中に制約を作ることがきっかけになって動き始めます。「何をやりたいか」と同時に大事なのは「何をやらないか」「何をやりたくないか」。こうして考えてみると、「制約がある」という状態は言葉の響きはネガティブだけど、実はけっこうポジティブなものなのかもしれません。


まさかの展開!

そんなわけで、「この先の人生で船をの歌を作ることなんて、きっともう二度とないぞ!」と頑張って書き下ろした「しとらす」のPRソングは無事完成したわけですが、、、、

なんと!
このあとさらにもう1曲、新しい船の歌を作る!(しかもまた興居島のフェリーで!)という、嘘みたいな展開が待っていたのでした。びっくり。人生何があるかわかりません。そのことについてはまたいつか、note に書きたいと思います。

お知らせ

あ、それと。
記事冒頭にも書いた手作り音楽フェス「ごごしま音楽プール」が、コロナの自粛期間を経て、ついに!4年ぶりに復活します。
6月4日(日)待ちに待った、島でのリアル開催です!

公式サイトも公開になり、チケットも発売になりました。
高野 寛さん、奇妙礼太郎さん、そして僕のやっている音楽ユニット、アンチモンも出演します。

みなさん、ぜひ遊びにいらしてくださいね!

そして最後にもう一つだけ。
今日ご紹介した「しとらす」は配信・サブスクでもお聴きいただけます。ぜひ、お散歩やドライブのお供にしてやってください。興居島と瀬戸内の海に思いをはせてみてもらえたら、こんなに嬉しいことはありません。


じゃあまた!



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