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アカマルを見つけるまで

 街中で柴犬を見て胸がしめつけられるほどの感情が出てきたのはいつからだっただろうか。

 昔、といっても5年くらい前までは犬が苦手だった。さらに言えば、育児をするまでは小さい子ともどのように接していいかわからなかった。上は中学2年生の男の子、下は小学4年生の女の子を育てるなかで、自然と街中で出会う子どものほっぺの脹らみにほっこりしている自分に気づくようになった。そして、自分の子どもたちが徐々に自立への道を歩み出した時期から、思えば柴犬に強く惹かれるようになった。母親としての地位の揺らぎがどこかで関係しているのかもしれない。

 実際、周囲を見ると、子どもが思春期になる前後で犬を飼い始める人は多いように思う。単純に育児がひと段落ということもあろうが、自然と親子の会話も減っていく時期で何か共通の話題が必要になることもあるのかもしれない。我が家は幸い、子どもたちから「犬か猫を飼いたい」と言い出した。しかし、飼っても実際に世話をするのはほとんど私。どんな動物を飼うのかは、私の意見を尊重していただきたい。

 家族でどんなペットを飼おうかと話すと、男性陣は猫か元気いっぱいの洋犬との意見。柴犬や秋田犬は真面目な職人のようなイメージで一緒に遊んでもあまり面白くないのではないかと言う。私と娘は断然柴犬派。あの凛々しさ、かわいらしさに気づいてしまうと他の犬のことは考えられないのだ。

 先手必勝。ここは戦略的に話を進めないとなるまい。早速、最近犬を飼い始めたという娘のお友だちのお母様から、全国のブリーダーと扱う犬を紹介しているサイト「みんなのブリーダー」を教えてもらった。街のペットショップと比べると、広い自然の中で育った犬が多い点、お値段も半分程度でもある点もとてもよい。かわいらしい写真や動画を見て時を忘れているうちに、頑固な我が家の男性陣も大自然の中で元気に動き回る柴犬の子犬を見てしまったら、めろめろになると確信するにいたる。今はあえて犬種の話をするまい。

 しばらくの間、このサイトでバーチャルに楽しむだけですっかり満足していたところ、娘から「いつ飼うの?」と聞かれた。あ、時期か。息子が部活を引退する夏か。いや、夏休みは海外にも行きたいし、イベントの多い冬はバタバタする。その場しのぎで「いつがいいかしらね」とごまかしていると、「だから、いつ?」とさらに詰められた。

 考えてみると、時期を決めなければいつまでたっても話は前に進まない。とりあえず、見に行くしかない。たった一度の人生。しかも残り時間は限られた人生。

 早速、関東一円の柴犬の仔犬の中から娘が一番気に入った仔犬の見学を申し込む。栃木県で12月22日に雄2匹、雌1匹の3人きょうだいの雄の仔犬だ。見学予約はメール1つで本当に簡単。すぐに返信が来て、2月9日(日)に家族みんなで会いに行くことになった。見たら終わり、飼わないことはないだろうとはわかりつつも、段階を経ないことには始まらない。写真を何度も見て、期待に胸を膨らませながら、車で栃木に向かった。


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