老いるということ

 老いるというのは一つの時代を生きたまま超えることである。一つの時代が終わると何が起こるか?起こらない。消えていくのだ。

 僕は昔大好きな人がいたこの人に再会したらこの人を振り向かさせるという原動力でがんばれたいやそれは自分自身を紛らわす嘘だ

 僕は、僕には生りたい者が在ったのだ、それを受け入れてくれそうな人がその人だっただけだった。それでも、まあ再会を望んでいたのだ。逢ったらどうするのか?決まっていた、最高のレストランを僕は知っていてそこへ彼女を招待するのだ。そういう手はずだった。イケてる男なら最高の食事処を知っているべきだ、女を口説くなら。

 だが、それももう叶わない。僕は理解してしまった。彼女は僕などもう覚えてすら居ないだろうと。彼女の好意を寄せる男はクズでしかない、と。そういう共依存的なカップルだというのは出会って1月で看破したはずだ。それもこれも自身にすら信じてしまうものを思い描いたのだ。僕は自身すら騙せる嘘つきだった。

 話を戻そう。叶わないのは別に彼女の趣味嗜好の話ではない。その最高のレストランが店を畳んだのだ。運営は問題ではなかったが、オーナーに長い間縁談みたいな話を聞いたことがない、いや実際には在ったのだろう。僕には分かるのだ。天賦の詐欺師だから。でも進んでその才能は使いたくなかった。僕の詐欺の手腕は創作において発揮したいと思っていたのだ。コレは誓いである、今度こそ僕は僕を騙さない。

 彼がひたすらにご馳走を作り続けて何処へ着地するのか心配だったがまさか経営に問題がないのに辞めるとは思わなかった。今は外食が冷え込んでいるが逆に安牌にこそ集中してしまうはずだ。実際かのレストランはいつも満員だった……

 僕はそのレストランで頼めるなら毎回頼むメニューが有る。僕へのご褒美としてそれを注文するために仕事も頑張っていたが、それでもふと痴呆症のボケ爺みたいに「あ、今日はあそこのアレが食べたい」と思いついて、そこが既に店じまいしたことに気づく、という奴をやってしまう。

 未練なのだろうな、と思う。しかし僕は男なのでオーナーシェフも男なのでどうにも出来なかった。友人に成れれば良かったが客と店の関係だけで居たかったのも本音だ。そういう湿度の高い関係は苦手だ。

 ああ、もう彼処の揚げパンも、フカヒレの姿煮も食べれないのか。残念だ。

この世界に怨念を振りまく(理想:現状は愚痴ってるだけ)悪霊。浄化されずこの世に留まっている(意訳:死んでない)