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「美しい」の研究報告(10月)

見たり、触れたり、味わったり。日常の中で感じた「美しい」を掬い上げ、それについて研究した内容を綴る、日記に近い研究報告です。「美しい」ってなんだろう?そんな曖昧な感覚について深く考えてゆきます。


Taste

記憶を美味しくいただくこと

各テーブルにリンゴがふたつずつ並べられていた
チキンの丸焼き、一足お先にホリデー気分

10月は気のおけない大切な友と軽井沢へ。生年月日が一緒の友とお誕生日旅行と題して始まった旅行は今年で二回目。誕生日である12月はお互い忙しすぎるので、全く関係のない10月にただただご褒美旅行をした今年。ディナーで訪れた「ピレネー」で過ごした時間がとても美味しい時間だった。冷たい軽井沢の夜をくぐり抜けると、そこに広がるのは外国の田舎町のホリデーディナーを思わせる温かくも心躍る空間。そして、気さくで丁寧な接客と美味しいお料理。素敵な場所にディナーに行くたびに、お料理ではなくそこでの体験や記憶を美味しくいただいているなと感じる。このレストランでも美味しく体験をいただいた、お腹いっぱいい満たされた体験。ご馳走様でした。


📍ロティスリー・ピレネー(長野・軽井沢)




Place

冷たい空間に響きわたる、魂の音

「async - immersion 2023」(坂本龍一+高谷史郎)

無機質で冷たい会場、会場に響き渡る魂が込められた音楽と映像作品。場と音楽と映像、全てがリンクしたそこでの没入体験に、心が大きく揺さぶられ気付いたら涙が溢れていた。

毎年京都で開催されるインスタレーション展「AMBIENT KYOTO」に行ってきた。京都新聞ビルで見た「async - immersion 2023」(坂本龍一+高谷史郎)が今でも忘れられない。かつて印刷工場として使われていた京都新聞ビル地下一階。冷たく無機質な場所に設置された大画面モニターで流される映像作品。「async」は坂本龍一が闘病中に制作した作品。死生観が揺さぶられる体験をした人が生み出す作品はこんなにも魂を大きく揺さぶらせるものか。坂本龍一の音楽に高谷史郎の映像が重なることで、その作品の情景が生々しく広がり、涙が溢れた。

もともとは印刷工場だった会場(京都新聞ビル地下一階)

音・映像・空間・香り、その場をまるごとコーディネートする「AMBIENT KYOTO」の作品に毎年虜になる。全てが組み合わさることで、音だけ、映像だけでは生み出せない世界に私達を連れて行ってくれる。そんな空間に心地よく身を委ねていたらあっという間に5時間経っていた。それでも足りない、美しい展示だった。会期は12月24日まで、また行きたい。


📍「AMBIENT KYOTO」(京都)




Time

本来の美しさに気付く時間

建仁寺両足院

目を開けた瞬間別の世界に降り立ったような、新しい自分に生まれ変わったような。いつも以上に美しく鮮明に広がる世界を目の当たりにして、嬉しさと少しの恐怖を感じた。

昨年、京都・両足院の坐禅体験をして以来、坐禅の魅力に取り憑かれ何度かお寺で組んだり、自宅でも毎朝10分組むようになった。そして先日、両足院にて初めて45分間坐り続けるという体験をした。45分間って長いかなあ、と思うとあっという間だった。坐禅とは観察し続けること。私はいつも坐りながら浮かんできた感情を観察しているのだが、この日は「頑張り」という感情についてじっと観察し続けていた。

私は日常生活において、よく息を止めてしまったり呼吸が浅くなる瞬間がある。そんなとき大体頭の中で「頑張らなきゃ」呟く自分がいる。周囲に「頑張ろう」と口にする人が多いのも影響しているのかもしれない。でも知らぬ間に「頑張って」「頑張ろう」という言葉が自分への大きな大きなプレッシャーとなり呼吸を止めていると気付いた。果たして、頑張らないといけないのか?頑張らないと生きていけないのか?頑張ることばかりに集中しているけど、頑張らなくてもできることって何があるんだろう?

そんなことを考えているとあっという間に45分が経ち、坐禅が終了。目を開けた瞬間、目の前には美しいお寺のお庭が広がっていた。始める前にも見た景色であるはずなのに、始める前よりも何倍も美しく感じる景色に感動し、それと同時に開始前その美しさに気付けていなかった自分が怖くなった。

ほんの数分動かずに状態を深く観察する時間を設けることで本来の美しさに気付くことができる。それなのに、いろんな情報が目まぐるしく飛び交い、常に進むことが求められる日々の中で、私達はどれだけ多くの美しさを見逃し生きているのだろうか?


📍両足院・坐禅体験(京都)




Book

ぼくはあと何回、満月を見るだろう

先述した「ambient kyoto」での坂本龍一+高谷史郎の作品に胸を打たれ、その日の夜から読み始めた本。

自分の愛する音楽に決して妥協しない、年齢を重ねても逆境にさらされても突き詰めることを諦めない。「Ars longa, vita brevis.(芸術は永く、人生は短し)」これからの人生、自分に熱を与えてくれる有り難い言葉に沢山出会えた本。死の直前まで魂を燃やす、そんな人生を私も生きたいと思った。


📍「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」(坂本龍一)




Other

秋の匂い、出会いと別れ

秋は私にとって毎年、出会いと別れを同時に味わう季節だ。転居や環境の変化による人との別れがあったり、その分新しい出会いが舞い込んできたり。だから秋風や秋の匂いを感じると毎年嬉しい反面、寂しい気持ちになる。

別れの瞬間ってとびきり寂しいけれど、しかしながらそこから数日経てばその痛みも忘れてしまう。当たり前のように広がってた日常が、新しい日常に切り替わり、その人と過ごした日々も過去の出来事として少しづつ彩色が失われていく。なんだかとっても悲しい、けどこれが人間の常。人間である以上誰もがいつか「死」という最大の別れを経験をするのだから。どんな未来が待ち受けていても、その瞬間瞬間の彩色溢れる日々を大事に生きたいと、秋の匂いに静かに誓った。



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