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映画レビュー四本(全部映画館にて)

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(丸の内ピカデリーでのドルビー最終日にも「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」を観に行かざるをえなくなっている写真)

 「ステージ・マザー」(☆☆☆☆)
 カメラワークには味がなく、展開も凡庸であり、音楽の扱い方は上手くない。映像間の繋ぎとして頻用される資料映像めいた都市を俯瞰した映像に、映画としての作りの甘さがよく表れていただろう。だが凡庸な展開のなかにも、LGBTを異文化体験として、つまり外部からいきいきと描き出す手法が効果を挙げており、それを可能たらしめたのはひとえにジャッキー・ウィーヴァーの名演技に依っている。手を替え品を替えて、抑揚ある演技をみているだけで物語が豊かに展開していく卓越した演技、しかも堂々とした余裕と貫禄が垣間見えるそれは、ほかの配役にも精彩を与えて、励まし、まさしく癒やしを与える。演技だけで映画全体に幸福な豊かさがもたらされる、そのような演技というものがあるのだ。ひとつひとつの表情やしぐさの楽しさに、ほれぼれと目が離せなくなってしまう。日比谷シャンテにて観劇。客席三分の一程度かというシャンテ(単館系)にしては多めの客層は、老若男女さまざま(男女どちらかなのか分からない人も紛れていたりして)で、ふんだんにちりばめられたユーモアに際してとくに女性の笑い声がよく響いていて、その雰囲気も愉しかった。隣席の中年男性は映画としての作りの甘さが気に入らなかったのか、不服そうにしていて、勿体ない、すごくチャーミングじゃないか! と私はおもっていたものです。

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 「野球少女」(☆☆☆)
 独特に間を長くとったりするカットに特徴があって、要はメリハリがなく、百分映画としては長く感じた。少なくとも題名から感じるアッパーな青春映画ではなく、しっとりと落ち着いたテンポの、シリアスな青春ドラマといえる。カメラワークには破綻はなく、はしばしで写真のように美しいシーンが光る。音楽の扱い方は非常に上手いといえて、エレクトロニカが流れる野球シーンは実にわくわくとする。私は主演のチュ・スイン、コーチ役のチェ・ジンテの抑えた演技がこの映画全体のある種の淡泊さに、拍車をかけているとは思わない。あくまでも役作りとして誠実であり、単なる思春期というのでは片付けられない反骨心を、チュ・スインの演技は正確に作り出し、重要なコーチ役のチェ・ジンテの不思議な落ち着きは心理の変化を自然なものとしてみせ、複雑な魅力を醸し出している。良い配役であり、今後の韓国映画の趨勢を約束するように、皆若い世代であるのは特筆するに値する(いっけん年増の俳優でも七十年代生まれだったりします)。TOHOシネマズにて観劇。老若男女、基本的には映画好きが集まっている中、「韓流」の影響か若い女性が目立つ。ラストのユーモアには笑い声がはじけていたが、エンドロールと同時に退席するひとも目立った。分からなくもないが、しっかりと端正に作られた、憎めない映画である。

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 「MISS ミス・フランスになりたい!」(☆☆☆)
 ミスコンに出るというストーリーからして商業映画的な作りの映画であるが、現代版バルザックのヴォケー館、移民たちが寄り集まる低所得者層のアパートを快活に捉える、その快活さは下手に深刻めかした手法よりも差し迫っていて、たちが悪いとも取ることができる。どうあれ、もはや貧困がただ貧困ではない、新しい時代が到来しているのだ。それと同様の質感で、主演がトランスジェンダーの俳優であること、ミスコンを主題にしたことによって、ジェンダーについて、作り手の作為の通りに大きく混乱を強いられる。エンターテインメントとしても、知的な興味を惹く映画としても、相応の力を有している佳作である。シネスイッチ銀座にて観劇。そこそこの入り、女性がやや多く、明るい気分で帰ってゆく客というよりはなにかを考え込むようにして帰ってゆく客が多かったか、――そういう映画である。

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 「花束みたいな恋をした」(☆☆☆☆)
 アニメーション以外で邦画を観るのはシン・ゴジラ振りだろうか。俳優の顔も名前も私はまったく知らないが、演技は大味、魅力的な演技は求めるべくもない。撮影もいつもの日本映画流に破綻している(まるで紙芝居のようにカメラワークがぴたりと制止したきり、死んでいる)。それらの日本映画の瑕疵を見越したとした思われない脚本の手腕がひたすら冴え渡っており、サブカル系のカップルの人物設定などに張り巡らされた周到さも含めて、呆気にとられる。換言すれば映画を映画たらしめる要素の空白を、脚本のナラティヴと牽引力によって埋め合わせており、その書き込みの緻密さゆえに必然的に映画は丹念な心理劇の様相を帯びている。離れ業といえるが、それは同時に日本映画の不可能性か未熟さを象徴的に裏づけてもいただろう。どうあれユニークな映画である。地元劇場で観劇。十五人程度の入りで、私以外は全員女性客。彼女たちが俳優がどうこう言っているのを脇目に、上手いなぁ、プロの仕業だよぉ……と唸らされて帰る。ちなみにレイトショーともなると暖房が効いておらず、風邪をひきそうなほどに寒いわが東北の劇場なのであった……。

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静かに本を読みたいとおもっており、家にネット環境はありません。が、このnoteについては今後も更新していく予定です。どうぞ宜しくお願いいたします。