猟奇的な彼女 その7

では、その6の続きからです。どーぞ。

春休みが終わり、赤いたぬちゃんは上機嫌だった。

システムが変わり、キョウ子とは違うクラスになったのである。

しかも、日本へ帰る直前までキョウ子の機嫌が終始良かったので

これで、留学生活を満喫できると思っていた。


が、

しかし、

それがとんだ勘違いだと気付く。

久しぶりに会ったキョウ子はキョウ子そのものだった。

まるで、帰ってきたらこっちのもんだ、と言わんばかりの。

もう、暴れる暴れる。

また小さなことで、ブチギレ、

ブチギレては、6時間喧嘩の繰り返しの日々に

逆戻りしてしまった。

本当に考えが甘かった。

キョウ子は

水を得た魚。

いや、バナナを目の前にしたゴリラのように

本性むき出し。

ウホウホ

毎日、毎日、毎日、行く先々で見知らぬ人と喧嘩をし

帰ってからは、赤いたぬちゃんの気に入らないところを罵倒。


けんか。

そしてまた、けんか。


人生で最もくだらない時期であったことは間違いない。

そんなある時、またいつものように

赤いたぬちゃんの外国語の発音が悪いことにブチ切れし、

キョウ子の家で大喧嘩をしていると、

突然赤いたぬちゃんの携帯電話が鳴る。


着信は日本からだった。


そして、相手はなんと赤いたぬちゃんのおばあちゃんだった。

たぬ「もしもし?」

ばあちゃん「あら、本当に繋がった。たぬ君?

おばあちゃんだけどわかる?」

たぬ「おばあちゃん!??え?どうしたの?」

ばあちゃん「元気してるね?そっちの生活は大変でしょ?」

たぬ「う、うん。まぁ。なんとかやってるよ」

ばあちゃん「ちゃんとご飯食べてる?

食べなきゃ、身体壊すよ。

勉強なんかいいから、まずはちゃんと食べて、

身体壊さないようにしなきゃいけんよ。

あのね、インスタントのやつだけど味噌汁送ったからね。

あとね、たぬ君、カリカリ梅好きじゃったろ?

それも送ったからね。

ちゃんと食べんといかんよ」


・・・・


涙が止まらなかった。

目の前にいるキョウ子の手前、堪えようと思ったが、

溢れ出る涙を抑えるだけの強さはまだ赤いたぬちゃんには無かった。

カリカリ梅が好きなのは兄貴の方で俺じゃねーよと思ったが

おばあちゃんの言葉は本当に温かかった。


たぬ「…おばあちゃん。本当にごめん。

俺、全然勉強してなくて、でも…頑張るから」

ばあちゃん「勉強なんて、後回しでいいんだよ。

たぬ君、昔から勉強できたから

おばあちゃんなんも心配しとらん。

それより、たぬ君は身体強くないから、

おばあちゃん、そっちの方が心配だよ。

だから、ちゃんと食べるんだよ」

たぬ「ありがとう。おばあちゃん、ほんとにありがとう」

ばあちゃん「はいはい、じゃあもう切るね。ばいばい」


さすが、ばあちゃんと言うべきか。

このタイミングはずりぃ


俺は何をやっているんだろう


沢山の人に期待をされておきながら

お金や時間を使わせて

俺は何をやっているんだろう


罪悪感と自分への怒りで

涙が止まらない。


すると、



火の点いたタバコが飛んでくる。



たぬ「熱っち!!!はぁ!???何?」

キョウ「で、あんたの言い分は何よ?」

たぬ「は!?何の話し?」

キョウ「あんたが、電話で話してる間ずっと待たされてたんだから

早く言えや!!!」

たぬ「いや、ごめん。そんなのもうどうでもいいんだけど。

そんなテンションじゃないのは見てわからないの?」

キョウ「そんなん知るか!そっちの事情をうちに押し付けんといてよ!

勝手にやって。泣いたからって逃げられると思うなよ!

気色が悪いわ!

そうやって家族に甘やかされて育ったからあんたは

そんなどうしようもないんやって。くだらない」


温厚温厚と言われ、育ってきた赤いたぬちゃんにも

とうとう我慢のタガが外れる。

人間って怒りが頂点に達すると

目の前が火花みたいなやつでチカチカと何度も何度も

ランダムに点滅することを知る。

血が

頭のてっぺんに向かって登っていく感覚。

確実に目と脳を通って登って行く感覚。

怒りで目から血が出そうな感覚。


キレた。


たぬ「もう一遍言ってみろよコラ。

ってかなに人に向かってタバコ投げてんだよ。

お前最低だな。

お前みたいな人間に何かを言われる筋合いなんて一ミリもないわ。

もういい加減にしろ。二度と会うつもりはないから。じゃあな」


赤いたぬちゃんは怒りに身を任せ、

キョウ子の家を出ようとドアノブに手をかけた瞬間、、、


ズドーーーォオオン!!!!

背中に衝撃!!!!

そう、飛び蹴りをかましてきやがったのである。


たぬ「何してんじゃゴラァ!!」

キョウ「何逃げようとしてんねん!出て行かせるか!

お前なんやねん!なぁ!」

パアアーーン!!!!

今度はビンタをかましてくる。

激痛が顔面を襲う。

殺してやろうかと思ったが、一応相手は女だ。

赤いたぬちゃん、どうする??

2発、3発と顔面めがけてくる攻撃を

とにかく止めさせなければ。


赤いたぬちゃんは殴りたい衝動を抑え、

威嚇のために鉄製のドアを思いっきりぶん殴る。

バァアアアーーーン!!!!!!!


たぬ「テメー、何してんだコラァああ!??え??」


ドアを殴った時に自分の右手を見ると、

血で真っ赤に染まっていた。

どうやら、ドアノブを掴み、

その時に飛び蹴りをされたもんだから

その衝撃で右手のどっかを派手に切ったらしい。

よく見ると、キョウ子の服の右側が赤いたぬちゃんの血で染まっていた。

直接的な攻撃とは関係ないがリアルな血を見て

赤いたぬちゃんは思った。


…殺される


もう女相手とかいってる場合じゃねー!

すると、キョウ子の攻撃がさらにスピードを上げて飛んでくる。

赤いたぬちゃんの髪の毛を掴んで壁に頭をガンッガンッと…

死を意識した赤いたぬちゃん、生まれて初めて女の子の顔面を殴る。

その後すかさず前蹴りで距離をとる。

体格がいいとは言えキョウ子も一応女子なので、吹き飛ばされ倒れこむキョウ子。

その隙に、赤いたぬちゃん逃げる!

ダッシュ!!ダッシュ!!!!!!

エレベーターのボタン連打!!!!!

早く来い!!!!頼む!!!殺される!!!

すると遠くで叫び声!


キョウ「待てやコラー!!!!」



キョウ子がドアを開ける音が聞こえる。

やばい、来る。

やばい、エレベーターが全然来ない。

階段だ!

階段でとにかく降りろ!!!!

とにかく遠くへ!!!!!


死を意識してあんなにダッシュしたのは後にも先にも
これだけ。

6段飛ばしで落ちるように階段を駆け降り、

ようやく1階に着きダッシュで家まで帰ろうと思ったら

エレベーターで降りたらしいキョウ子がすでにロビーに居る!

とっさに身を隠す赤いたぬちゃん。

ヤベー!!逃げれない!


そこで赤いたぬちゃん、

6階にいる友達のメガネ君家へ駆け込み、かくまってもらうことに。

こうして、赤いたぬちゃん

なんとか、逃げ切れたわけである。


6階に住んでいた、同期のメガネ君は

汗ダラダラ、右手は血まみれな赤いたぬちゃんを見ても
何一つ聞かず、サンドウィッチ作ったんだけど、食べる?
と言ってくれた良い奴である。

メガネ君のおかげで何とか逃げ切れた赤いたぬちゃん。

こうして、猟奇的な彼女キョウ子からようやく解放されたわけである。


つ・づ・く

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