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【弁護士向け】事件処理の主導権を握る

はじめに

私は、弁護士として事件処理をするにあたっては、常に主導権を握るように意識して行動をしています。
主導権を握ることの最大のメリットは、自分の描いたイメージどおりに事件処理を進めることができるようになるか、少なくともその確率が高くなることです。
事件処理をするにあたっては、事件の全体像を把握し、依頼者の意向を踏まえて事件処理方針を策定し、これを実行していきます。
その実行段階において主導権を握ることで、策定した事件処理方針を実現し、依頼者の意向に沿った解決をすることができるようになるのです。
「主導権を握る」という抽象的な表現だけでは分かりづらいと思われるので、今回は、交渉と訴訟の場面を例にして述べてみたいと思います。

交渉の場面で主導権を握る

交渉の場面で主導権を握るというのは、比較的分かり易いのではないでしょうか。
典型的なのは、その交渉において優位に立つということです。
ただ、私の場合には、単に優位に立つというだけではなく、その交渉の場や交渉の流れそのものを支配することまで考えて動きます。
優位に立つかどうかは、そもそも当該事件における当事者の立場等によることが多いと思われます。
例えば、金銭の貸主と借主や、交通事故の加害者と被害者のように。
それを超えて、あるいは劣位な場合にはそれを覆してまで、その交渉の場や交渉の流れそのものを支配するために必要なことは、単純なことですが交渉前の準備を徹底的にやることにつきます。
想像してみてください。
交渉の冒頭で、相手方からこちらの提案についての根拠を質問され、こちらは必要な資料を示して理路整然とこれにそつなく答えました。これに対して、こちらから相手方に対して、相手方の主張に関しての質問をしたところ、相手方は全く想定も準備もしていなかったのか、しどろもどろになってしまいました。その後も、相手方の準備不足が目立ち、交渉はこちらが想定していたとおりの流れで進み、最終的にはこちらが考えていた最低ラインを超える内容の合意をすることができました。
これが、私が考えている、その交渉の場や交渉の流れそのものを支配して、主導権を握るということです。

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こういったことは、絵空事ではなく、現実に起こることであり、私は、何度となく経験しています。
ただ、そのためには、その交渉において想定されうる全ての場面について、そつなく対応ができるようにシミュレーションを行うなど入念な準備が必要となります。相手方も準備をしている場合には、それを超えるレベルの準備をすることが求められます。
そこまでしなくても良いのではないかと思われるかもしれませんが、そこまでしなければ、主導権を握ることはできません。
おそらく、これ以上のことはできないというところまで準備をした者が醸し出す自信や余裕が、準備不足で不安に陥る相手方を怯ませるといった心理的な効果も影響するのでしょう。

訴訟の場面で主導権を握る

訴訟の場面で主導権を握るというのは、少し分かりにくいかもしれません。
ここでは、相手方代理人だけでなくて、裁判官にも配慮をしなくてはなりません。裁判官は、単なる交渉相手というわけではなく、最終的な事件の判断権者なので、特別な配慮が必要となります。
相手方代理人との関係では、交渉の場面と同じく、相手方代理人が行うそれを圧倒的に上回る事前準備や訴訟活動をする必要があります。必要があるならば、本来は相手方代理人がなすべきことであったとしても、それをこちらでやってしまうぐらいの行動力が必要です。
裁判官との関係では、まずは裁判官にこちらが把握している事件の全体像と問題点を上手く伝え、これを事件処理の前提として共有してもらう必要があります。
そのためには、要件事実以外の事情として、上手く事件の背景事情を書面に記述したり、弁論や弁論準備の際の会話の中で伝えたい問題点に関する情報を上手く織り交ぜたりしながら、徐々に、裁判官に事件の全体像と問題点を共有してもらえるように持って行きます。
毎回の書面作成、毎回の裁判期日での立ち振る舞いが重要となります。これらを漫然とやっているようでは、裁判官にこちらが把握している事件の全体像と問題点を共有してもらうことはできません。

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私は、準備書面等の書面の作成や裁判期日での裁判官との会話については、これらをかなり意識しています。特に、弁論や弁論準備については、漫然と裁判所に出頭されているだけの方が多い中、毎回、「今回は、この点だけは裁判官に伝えよう」とテーマを設定して裁判官との会話に臨んでいます。
こうして裁判官に事件の全体像と問題点を共有してもらえるようになれば、次に、事件の落とし所についての誘導をしていきます。
当該事件は判決よりも和解による解決が相当なのか、判決による解決が相当なのかについて、こちらの作った流れに乗っかるのが良さそうだと裁判官に思わせるように、準備書面等の記述や裁判期日での裁判官との会話によって誘導していきます。
このようにして、訴訟の流れをこちらが意図的に作っていきます。
相手方代理人は言うまでもなく、裁判官にも、こちらが策定した事件処理方針に沿った動きをしてもらえるように、訴訟における主導権を握って、訴訟の流れを作っていくのです。
そんなことはできないと思われるかもしれませんが、私は、これまでに多くの訴訟事件で実践してきました。
当然、全ての事件で上手くいったわけではありませんが、私は、このやり方で、かなり多くの事件について、自分の描いたイメージどおりの事件処理を進めることができてきました。



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