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ヴァラナシ③

前回は飛行機の話に費やしたので今回は街の話を書きます。

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(ヴァラナシの特産はシルク  専門店が立ち並ぶ)

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(泥に沈む寺院)

ヴァラナシには多くの旅行者が訪れる。それは日本人とて例外ではない。ガンガーの岸辺ではこれまで通り過ぎてきたどの街よりも多くの日本人を目にした。ヴァラナシ①で少しだけ書いた数珠売りのタカシ曰く、今年はコロナのせいで例年よりも少ないらしい。各国の旅行者の中でとりわけ目立つのはヒッピースタイルの若者達だ。中には修行僧のような衣を纏い、ガートで瞑想をしている人もいる。クスリをキメてる奴も多い。ヒッピームーブメントは1960年代後半に最盛期を迎え、バックパッカーの原型を形作った。ヒッピーについてここで語るには長すぎるので、興味のある人はググってほしい。

彼らは何を得るためにやってるのだろうか。どれだけ瞑想しても旅行者の枠から出ることはできないのではないか。LSDでラリった目に映るガンガーの朝日はそれは美しいだろう。でもその先にあるのは現地人にも交われず、部外者のまま何かを悟った気になれる行き止まりではないのか。どの土地でも感じるが、僕はあくまで部外者でその土地に馴染むことは決してできない。その土地の食べ物を食べ、その土地の人と話し、その土地の人の家に行っても、どこまでいっても越えられない線を感じる。僕はヒッピーには憧れないし、ガンガーでスピるつもりもない。でも、彼らの様な旅の仕方を否定する気はない。むしろ少し憧れる。彼らは僕なんかよりよっぽど楽しそうだ。自分と土地の間に引かれた線を感じず、あるいは無視して土地に浸ることが旅を楽しむためには大事なのかもしれない。彼らの様にならないと本当に旅を楽しむことはできないのかもしれない。そう考えると悔しくて泣きそうだった。

タカシの話をしよう。ヴァラナシにいる間、基本暇だったのでガートをよく歩いていた。するとどこかに必ずタカシはいた。彼は僕を見ると、ここに座りなよ! チャイ飲もうよ! と声をかけてくる。彼の仕事は自ら作った数珠を外国人に売りつけることだ。1個200〜300ルピー。前にも書いたが、タカシは流暢に日本語を操る。日本語だけではない。英語もフランス語も話せる。もちろんインド国内の言語もいくつか習得しているらしい。彼は金持ってそうな外国人を見ると走って数珠を売りに行く。大体は買ってくれないのだが。

彼は僕に金がないのは知っているので、特に数珠を売りつけてくることはない。ガートで僕を呼び止めてもただただ2人でボーッと座ってるだけだ。たまにインドの文化や生活について聞いたりする。この建物はなんだとか、ガンガーにいるサドゥ(修行僧)は全員偽物だとか、あの店は安くてうまいとか色々教えてくれた。ヴァラナシを発つ前日、世話になったので珊瑚の数珠を1つ買った。

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(タカシ  今日はちょっとだけ売れたとのこと)

ヴァラナシで働くのは大人だけではない。子供も働いている。小遣いを稼ぐとかそういう次元ではなく、生きるために働いている。ヒンドゥー教の祈りの儀式、プージャーを見ていると、笛を買ってくれないかと1人の子供に話しかけられた。もちろん買う気はないので適当に断るが、聴いて聴いてとドレミの歌を奏でながら追ってくる。しばらく断り続けたら諦めて帰って行った。

次の日、夕方のガートを歩いていると、また彼に会った。今日も買ってくれ、買ってくれと言いながらついてくる。今日も買わないよと断ったが、買わなくてもいいから吹いてみないかと笛を渡された。ドレミの歌でも吹いてやるかと意気込むが音が出ない。全く出ない。諦めた。座りながら少し話した。少年の名前はラジ、10歳。学校には行かずに働いている。話にも付き合ってもらったし、なにより音が出ないのが悔しかったので1本買うことにした。1本200ルピーだという。流石に高すぎると言ったら100ルピーまで下がった。これでも高いが、子供だしいいだろう。10ルピー多く渡したら、ギフトだともう1本笛をくれた。正直1本で十分なのだが、ありがたく受け取った。宿に帰る僕をずっと手を振って見送ってくれた。

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(ラジ  翌日も会ったのでチョコレートをあげた)

宿の屋上で練習する。買った方の笛はなんとか音が出るようになったが、おまけで貰った方の笛は音が出ない。もしかしたら不良品を処分したかっただけなのかもしれない。まあいいや。テルーの唄吹けるようになりたい。

先程名前だけ書いたが、ヴァラナシでは毎日プージャーというヒンドゥー教の儀式を行なっている。至る所で行われているが、最大のガート、ダーシャシュワメードガートで行われるものが一番盛況だ。ガートは人で埋まり、ガートに面するガンガーも見物の船で埋まる。ダーシャシュワメードで行われるプージャーはカースト最上位のバラモンしか行うことができない。大音量で流れる音楽に合わせてバラモンはガンガーに祈りを捧げ、見物客は手を叩いて歌を口ずさむ。商売人は今がチャンスとぼったくりに走る。満ちた煙の匂い、蝋燭で照らされた人々の顔に日本の夏を思い出す。プージャーは1時間程続き、それが終わると人々は宿に、自分の家に散り散りになって帰っていく。こうしてヴァラナシの1日は終わっていく。

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(ダーシャシュワメードのプージャー)

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(小さなガートで1人祈りを捧げる青年)

ヴァラナシを発つ日、5時に起きて駅に向かう。今日は15時間電車に乗ってコルカタに向かわなければいけない。出国まであと2日。


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